縄奴隷 あづみ
羽佐間 修:作

■ 第5章「魔手」14

東京での研修は、かなりハードなスケジュールで前半3日は、9:00〜21:00までみっちり座学研修だった。
法改正による新サービス「セレブ フルボディ スペシャルエステ」の仕組み、新サービスの目玉である美容整形外科の高洲クリニックとのタイアップによる顧客情報の共有方法、契約の法律的な背景から中途解約への対処法や医療的知識、トラブルへの対処法など、講師は次々代わりながらマンツーマンの勉強は非常にハードだった。
ただ楽しみなのは、残りの二日は、座学はなく、高倉ビューティの粋を集めた「セレブ フルボディ スペシャルエステ」の最新エステ・テクニックを体感するだけだった。

要するに、最新の美容技術を全身に施して、リラックスして美しくなりなさいと、この2ヶ月間良く頑張ったねとご褒美を頂いたんだわ! と勝手にあづみは解釈していた。

特に脱毛に関しては、認定脱毛士資格制度が新設され、従来病院でしか施術できなかった高出力のレーザー脱毛機による脱毛が、資格者さえいれば高倉ビューティでも取り扱えるようになり、新サービスのもう一つの目玉で、来期からのイチオシ商品になる計画だ。
博多の店でもサブリーダーの木村ゆかりが、その資格を取得するために研修に出ている。
あづみは、今回の研修でちゃっかり、自分のワキを永久脱毛して貰うつもりで、期待をしていた。
陽子は、深夜に東京へ着いたらしいが、宿舎は研修所の宿舎を用意されているらしく、この夜は逢えなかった。
学生時代以来の猛勉強の3日間がやっと終わり、ホテルのシングルルームでリラックスして眠りについた。

翌日は、朝食の後、本社ビル内にあるサウナに入り、顔からBodyから脚に至るまで丁寧なマッサージを受けた。
とても気持ち良くて、ついついまどろんでしまう。
陽子は、朝から先日まであづみが受けた研修で絞られているらしく、顔を合わすことすら出来なかった。
少し寂しかったが、頑張ってねと心の中で願い、心地よいマッサージに身を任せ、いつしか眠ってしまっていた。

高倉ビューティのエステの中でも圧巻は、高倉由紀がハワイから持ち込んだ癒しのマッサージ”ロミロミ”で、それはとても気持ち良く、やって貰って本当に良かったと身贔屓なく思えた。

この実感を、お客様へ上手に伝え、何倍もの売上にしなさいね! ということなのねと、一人合点し、笑みがこぼれた。

あの高倉由紀が、こんな夢のような褒美を唯でくれる訳ないじゃない! と数々の厚遇も考えあわせると、余程頑張ってご恩返しをしないと! と気が引き締まる思いがする。
それでも、『我ながら凄く頑張ったこの2ヶ月の疲れを癒してもバチは当たらないわ!』と思えるところが、あづみらしいところだ。
あまりにも心地よい、魔法の指を持つエステティシャン達に身を委ねて、いつしか満足そうな表情で寝息をたてていた。

夕方からは、ネイルのスタッフ達が手足の指を、綺麗に手入れしてくれた。
仕上げには素敵なネイルアートまで施してくれた。
仕上がった自分の手を見つめ、言い表せない幸せ感が湧いてきて、『そっか〜! 女としてのこの幸せな満足感こそがが最終的な高倉ビューティの商品なんだわ!』と確信した。

部屋に戻ると、高倉由紀から、ワインの差し入れがしてあった。
『お疲れ様。あと1日よ。頑張ってね! 由紀』の自筆メモがある。

本当に憎いほどの人心収攬術だわ! と舌を捲き、あの大物に、これだけ気遣って貰える私って・・・ウフフ^^ と満更でもない気がする。
差し入れのワインのコルクの軋む音が、とても心地よく感じた。

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