屋上の王子様
二次元世界の調教師:作
■ 2
「お姉さんって、アシが長いんですね。」
あらぬ方向を向いてシカトしようとしているのをいい事に、しげしげと覗き込みながらそんな事を言われると、私はつい羞ずかしくなって太股をきつく合わせ、短めのスカートでなるべく隠そうとしていました。
「隠さないで見せてよ、まさみさんのアシ……」
私はシカトするのを諦め、一言言ってあげました。
「この変態。」
そしてやむなく私の方から、その場を離れようと思ったのですが、その瞬間驚くべき早業で彼は私が体育座りで前に組んでいた両手にガチャリ、と手錠を嵌めて来たのです!
それだけではありません。急展開に目を白黒させている私の首には首輪が嵌められ、あっと言う間に私がもたれて座っていた室外機にチェーンで繋がれてしまいました。
私は授業サボリのだらけたムードと、コナン君みたいな彼の外見にだまされて気が緩み、情けないほど何も出来ませんでした。そして遅ればせながら大声を出して助けを呼ぼうと思ったのですが、その口にも素早く柔らかいボールみたいな物を詰められて悲鳴を上げる事も出来ませんでした。
「まさみお姉さん、僕とSMごっこで遊ぼう。」
「ん〜っっ!!」
「放置プレイって言うらしいよ。」
そう言った中山君は、更に私の目に妙に頑丈なアイマスクを嵌めて視界を奪い、そのまま気配を消してしまったのです。私は余りの彼の早業にまるで狐に摘まれたような気分でしたが、時がたち気分が落ち着くに連れて、だんだん恐怖が込み上げて来ました。
(これって、悪い冗談だよね……)
そう、彼は「SMごっこ」と言ったのです。本気で女性を拘束してしまったら「ごっこ」ではすみません。きっと抜け道があるに違いありません。
私は努めて冷静になろうと自分を落ち着かせ、まず何か逃げ出す方法があるのではないかと調べてみました。が。
ギシギシ、ギシギシ……
首輪と手錠は金属製の本格的なもので、動かそうとすると金属がきしむ嫌な音と共に首と手に食い込む冷たい感触で、これが「ごっこ」なんかではないという過酷な現実を思い知らされるだけでした。
(痛い……
こ、こんなバカな……)
後ろにすがった体育座りの状態できつく首輪を付けられているためほとんど身動きが取れず、無理して動こうとすると首が絞められてひどい苦痛に襲われました。
「んんっ!
んーっっ!!」
恐怖にかられて悲鳴を上げようとしても、口枷もやはり本格的で声になりません。さらにそういう仕組みなのでしょうか、声を出そうと無理をすると冷たい液体が頬を伝いました。私の唾液が口に噛まされた柔らかいボールから溢れ出て滴り落ちるのです。
(ああ、こ、こんな……)
ひどい屈辱を覚えた私は、顔が真っ赤に火照るのを感じ、そこに冷たい涎と、さらに涙まで伝う冷たい感触に打ちのめされた気分になりました。とても耐えられません。声を出そうとする無駄な努力は諦めるよりありませんでした。
涙がこぼれた目を覆うアイマスクもお遊び程度のものではなく、ゴーグルみたいに完璧に目を塞いでいて、繋がれた両手で外そうにも外れる気配がないのです。どうやら頭の後ろで鍵が掛けられてるようでした。
これはどう考えても「ごっこ」どころではありません。本格的なSMプレイに使うようないかがわしい道具で、私は動く事も見る事もしゃべる事も出来なくなっているのです。私はあんなガキっぽい男の子の外見にだまされた事を激しく後悔しましたが、もうどうしようもありません。
(まあ、いっか……)
が、私らしくそう諦めの心境になると、不思議なくらい気が落ち着き、恐怖も和らいで来ました。初めて授業をサボった時の事を思い出しました。
私達の高校は進学校で、私も一応大学進学を目指しています。私がサボる授業は体育で、今他の女子達は、さっき中山君に無遠慮に覗き込まれたハーフパンツをはいて汗を流している事でしょう。
体育の先生に気分が悪いので保健室で休んでます、と嘘をつき、そのまま空いてる教室を探してそこに居座りました。始めはやはり罪悪感でドキドキしましたが、やはり(まあ、いっか……)と、どうでもいい心境になるとすごく気が楽になったんです。
さて、結局体育座りになりとりとめもない事を考えて時を過ごそうとした私でしたが、時間の経過がわからないのには参ってしまいました。どうしても良からぬ事を考えてしまいます。
中山君が帰って来るまでに、誰かに見つかったら、どうしよう……
中山君が帰って来なかったら、どうしよう……
トイレに行きたくなったらどうしよう、とも思いましたが、おもらししちゃえばいいか、などと考えたりもしました。まあ、いっか、の精神ですね。(笑)授業をサボる快感と似通ったものがあります。
そんな投げやりでユルユルの私でしたが、さらに時がたつと、中山君の帰りが遅過ぎるような気になって来ました。
ああ、そっか。授業が終わるのを待てばいいんだ。チャイムが鳴ったら彼はやって来るに違いありません。授業時間は50分ですから、待ち時間は30分くらいのものでしょう。
それに気付いた私は、今度は30分ってこんなに長かったかしら、と思いました。もう何時間も待っているような気分になっていたのです。でも、こんなもんかも知れないな、と納得した頃、3時間目の授業終了のチャイムが鳴りました。
誰も来ませんでした。
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