転校生
二次元世界の調教師:作

■ 2

「そんなんじゃねーよ。
 いじめてただけじゃねーか。」

「でもみんな付き合ってるんだと思ってたよ。」

 俺は記憶をたぐり寄せる。ミーコ、こと旧姓東野美菜子は、ガキ大将だった俺にとっていじめがいのある女の子だった。頭の回転がにぶくてトロく、素直ですぐにだまされ泣いてしまう。それに母親の趣味だったのか、ミニスカートが彼女のトレードマークで、悪ガキ連中の格好のスカートめくりの標的にされていた。

(うーん。
 あれは付き合ってたと言えるのだろうか?)

 確かに毎日いじめて泣かせてやったにも関わらず、ミーコは俺になついて付いて回っていた気がする。もしかしてアイツ、俺が好きだったのか? だとすれば……

 俺は目を見張る美人に成長したミーコと昔付き合ってたのだからと勝手に思い込み、浅はかにも胸を躍らせていた。

「とにかくミーコを俺に譲ってくれ。
 もちろんタダとは言わねえ。」

「じゃあアイス1週間分ね。
 いや、ちょっと待って……」

 マサコの奴ニヤリと笑うと吹っ掛けて来やがった。

「やっぱ1か月。」

「よし、それで商談成立だ。」

 購買で百円で売っているアイスを1か月、ざっと2千円か。高校生の俺にはやや痛い出費だが、そのくらい価値のある取り引きだ。

「ミーコちゃん、何だかキャラが変わってたけどね。」

「どういう事だ。」

「ずいぶんしっかりしてるみたいよ。」

 みんなにつつかれいじめられても、いつもニコニコして愛想の良かったミーコが、ずっと仏頂面をしているのが俺も気になっていたが、転校したてで大の羞ずかしがり屋のアイツは、緊張してしまってるに違いない。

「そういうわけで、お前の案内役は俺が引き継ぐ事になった。」

「どうしてですか?」

「いや私、部活が忙しくてヒマがないのよ。
 中山君は帰宅部だから。」

 放課後さっそくマサコと2人で案内役の交替を告げに行くと、ミーコ、いや武市さんは不服そうな顔を見せたが、俺はこの美少女がかつて「付き合っていた」ミーコであると確信して、テンションが上がったまま話してしまう。

「よろしくな、ミーコ。」

「気易く呼ばないで下さい!」

 武市さんが初めてはっきり表した感情は、俺に対するあからさまな嫌悪だった。俺はしまった、と思ったが後の祭りである。

「あ、いや、ごめん、武市さん。」

「それじゃアタシ部活があるから……」

 マサコは気まずい空気を察して、そそくさと行ってしまった。

「どうしても、あなたに案内されなきゃいけないんですか?」

「昔の呼び名で呼んでしまった事は謝るよ、武市さん。」

「そんな事を言ってるんじゃありません。
 私が嫌なのは……」

 武市さんが妙に冷静な口調に戻り、俺を視線を合わさぬようアチラの方向を向いてしゃべった。俺が嫌なのか? と言ってやろうかと思ったが、わざわざ念を押すまでもないだろう。俺は半ば諦めながら普段使った事もないような言葉使いで話した。

「昔クラスメイトだったじゃないですか、武市さん。」

「それがどうかしたんですか?」

「僕が案内しますから。」

「嫌だと言ったら?」

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