転校生
二次元世界の調教師:作
■ 5
「えっと、この食堂は……
聞いてるの? 武市さん。」
「そんな事はもうマサコさんから聞きました。
どうでも良い事を得意げにべらべらとしゃべらず、要点だけを話して下さい。」
何とも高飛車だったが、もちろん許す。改めて立ち姿を見ると、ガリガリだったミーコは胸もお尻もすっかり女らしく丸みを帯びていて、こんな素晴らしい女の子とモテない君の俺が1対1で話をしているなんて夢のようだ。
「えーと、僕的にオススメなのは、ここの激辛メニューです。
スパイシーカレーとか、ハンパじゃないくらい辛くて最高……」
「それわざと言ってるんですか、中山君。
やっぱり最低ですね。」
いきなりそんな事を言われた俺は驚いたが、彼女の目はマジで怒っていた。そう言えばミーコは甘いものが大好きで辛いものは大の苦手だった。わざわざ激辛のお菓子を買って来てだまして食べさせ、ビックリするくらい大泣きさせた事もあったっけ。
「あ、いや、武市さんが辛いものが嫌いな事を忘れてました。
ごめんなさい。」
「許してあげます。
その代わり、私にもアイスをお願いします。
マサコさんのを買う時に、2個同時に買えばいいでしょう。」
(げっ!
どうしてアイスの事を……)
「マサコさんから聞きました。
どうせ私と話したい一心で、そんなつまらない手を考えたのでしょう。
本当にあなたはいじましい人ですね。
あんまりかわいそうだから、私も嫌なんですけど付き合ってあげる事にしました。」
それにしても何とももどかしいミーコの態度だった。そんなに取り繕って俺を嫌っている風を装う事はないではないか。昔のコイツはバカが付くくらい素直で、よく笑いよく泣くかわいい女の子だった。だからこそ、俺も夢中でいじめてやったのだが。
「さあ、時間がもったいありません。
早く辛くないオススメは何かおっしゃいなさい。
あなたの分と一緒に食券を買って、すぐに私の席を取るのです。
グズグズしてると座る場所がなくなってしまうではありませんか。」
ミーコの口調が変わり完全に「女王様」になって来たのを、この時俺はまだ気付いていなかった。ご機嫌を損ねぬよう、無難なAランチの食券を2枚買うと即座に席をとり、彼女に座ってもらう。そしてまるで生真面目な優等生のように,揃えた両ひざの上に手を置いて無表情で待つ超美形の彼女に話し掛けて来る不埒なやつがいないかソワソワ確認しながら、2人分のランチを運んで食事を始めた。
「おいしいですか、武市さん。」
「食べられないって事はないわ。
ギリギリ合格よ。」
「ありがとうございます。」
何てこった。俺はすっかりミーコのペースに嵌り、女王様にかしづく下僕に成り下がっていた。だが、本当にそうなってしまうとは、この時はまだ思いもしていない事だった。
「お昼が終わったら、さっさと2人分のアイスを買いに行くんだよ。」
「は、はい!」
俺はなぜこんな関係になってしまったのかと思いながら、美し過ぎるミーコに召し使いのように使われる事に奇妙な歓びを覚えて興奮してしまい、いまだかつてないくらいの勢いで股間がドクドクと爆ぜんばかりに脈動していたのである。
「はい、どうぞ。」
「これから食後必ずマサコさんにもアイスを届けさせますわ。」
「ど、どうかお召し上がり下さい。」
ミーコに連れられてマサコを探り当て、教えられた通りの口上を述べると、案の上マサコはキャハハと吹き出していた。
「何ソレ?
そういうプレイなの?」
「とりあえずそう思っても構わないわ。」
「ふうん。
いいんじゃない、美女と野獣みたいで。
じゃ頑張ってね、お2人さん。」
マサコはおかしさを堪え切れない様子でクスクス笑いながら去った。俺も、これはプレイなんだと思い、美しいミーコ女王様にかしづく醜い野獣の役を演じる事にゾクゾクするようなアブない興奮を覚えていた。が、これがプレイでなくなるのはあっと言う間の事だったのである。
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