Stranger
リバイアサン:作

■ 3

気が付いたとき彩夏は、ここがどこなのかも、自分がどうしてここにいるのかわからなかった。記憶がなかった。ただ、とてつもなくそこは暗い。明かりは外灯がひとつあるだけ。

(暗い……ここはどこ? 私、どうしてここにいるんだろう。)

辺りを見渡す。どうやらここは公園内のようだ。そしてそこには見知らぬ男がいる。

「やぁ、気が付いたかい? 彩夏ちゃん」

(そうだ、私…………)

記憶がよみがえる。そして恐怖が彩夏を襲う。

「近寄らないで。大声出すわよ」

そうお決まりのせりふを言う。しかし男は、

「どうぞご自由に。こんなとこ、人なんか通りゃしないよ。それに、おとなしくしていたほうが身のためだよ、彩夏ちゃん。」

そういうと、男はポケットの中から、「何か」を取り出す。

その「何か」に、彩夏は身をこわばらせる。暗い闇の中、外灯の光でキラリ、と怪しく光る。泣きそうになる。どうしてこんな目に遭うのだろうか。やっぱり、遠回りをしてでもいつもの道で帰ればよかったと、いまさらになって後悔する。

 男はニヤニヤしながら彩夏をなめるように見ている。暗くて顔はよくはわからないが、若そうである。二十代、もしかすると十代かもしれない。彩夏にはそう見えた。

 彩夏も中学生。性への好奇心がもっとも強い時期だ。これから何をされるかは大体予想が付く。こんなところで、見知らぬ男に自分の大切な処女が奪われるなんて……。

 彩夏には同じクラスに好きな人がいた。家が近くて、小学校から同じ、いわする幼馴染。野球部に入っていて、名前は光一という。口数は少なく、教室でいつも難しそうな本ばかり読んでいて、近づきがたい印象を与える。だが本当はけっこうおしゃべりで、優しくて、センチメンタルで…………。教室では、もう長いこと会話していないが、家に帰った後などによく話をする。彩夏がこの世で一番信頼していて、この世で一番愛している人だった。そんな光一に自分の処女を受け取って欲しい、そう彩夏は思っていた。そんな大切なものを、どうしてこんな奴に……どうして…………助けてよ、光一。

 男の手が彩夏の胸に触れる。自分以外、誰にも触られたことのない胸が、いままさに、触れられている。初めての感覚。しかもその手は見知らぬ者。

「イヤッ」

彩夏は小さな声で抵抗する。大声を出したい所だが、さっき見せられた刃物のせいで彩夏は声を出せないでいた。

見知らぬ男は彩夏の乳房を遠慮なくグリグリ揉みしだく。

「いっ……!」

 胸に痛みが走る。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊