羞恥ゲーム
〜自分の保全と欲望と〜
小早川:作

■ 第三章17

智子「これにしようかな。」
碌に選びもせず、少し大きめでしっかりした形の首輪を2つ手にとった。
智子「じゃあね、貴子。」
貴子「う、うん。じゃあね。」
貴子は、智子がレジで会計を済ませて店を出て行くまで見送ってから、改めて首輪売り場に向かった。
あまりかわいらしい物はない。
―――おねえちゃん、これを選んでいたな。結構大きいな、コレ。生まれたての子犬には大きすぎないのかなぁ―――
―――でも、この大きさだったら、私なら入るかも、これにしようかな―――
智子が買ったのと同じ、大きめでしっかりした赤い首輪だった。リードをつけるリングが8個付いている。
貴子は、次に鍵コーナーで小さい錠前も1つ選んで会計を済ました。
そのままトイレに行き一番奥の個室に入った。
カバンから折りたたみハンガーを取り出し、着ている服を脱いで掛けていく。
下着を着けていない貴子は、直ぐに裸になった。
買った首輪を自分の首に嵌める。
留め具の所に錠前を通し力を入れる。
カチッ
貴子は、カバンからデジカメを取り出し、トイレの個室を出る。
トイレ全体が映るように自分にカメラを向けて笑顔で写真を撮った。
急いで個室に戻り鍵を掛ける。
画像のチェックをする。
なんとか膝から頭までとバックがトイレ内だと分かるような写真が撮れた。
首輪を外し服を着て何事もなかったかのように店を出て行った。


智子は、繁華街をあてもなくひとり歩いていた。
首輪を買った次の指示、それは、野外で全裸になり、その首輪を嵌めて笑顔で写メを撮りホームページにアップする事。時間は、今日の午後19時まで。
時計を見るともうすでに15時を回っていた。
どこで撮ればいいのか、分からずただ歩き続けている。
こんな時、清水がいたら手を引っ張ってココッ! って言ってくれるのだろう。恥ずかしいけど、きっと清水が守ってくれると信じていたから、素直に従えた。
しかし、今は、自分で場所を決めなくてはいけない、守ってくれる人もいない。
でも、逃げ出せない。
いつもの明るい勝気な智子ではなくなっている。


人気の少なそうなビルの屋上で、身を隠しながらなんとか指示された内容の写真を撮り、家に帰って写真をアップした。
直ぐに次の指示のメールがきた。
メール「首輪を1つ郵便受けに入れておきなさい。」
メール「22時、ワンピース一枚だけ着て自転車で○○○公園にきなさい。首輪を忘れずに。二人組みの女性がいるから、その人達の指示に従いなさい。」
首輪は1つカバンに仕舞い、1つを郵便受けに入れた。
智子は、やっと犯人と接触するのだと、この一連の事件を解決出来るかもしれない、そんな淡い期待をもって、22時になるのをドキドキしながら待った。郵便受けにいれる意味も気にしないで。

予定より10分早く公園に着いた。
少し外れの遊歩道脇のベンチにはカップルらしき人影は見えるが、ここ中央広場には、人影は見当たらない。
智子は、首輪を着けて、時間まで待つことにした。
智子(あぁ、ドキドキするぅ。いったいどんなヤツなんだろう。こんな陰湿な事をして喜んでるヤツは。どうやってケリをつけようか)
など等考えていたら22時を過ぎていた。
智子(ちょっと、どうなっているのよ!)
その時、公園の入り口から人影が見えた。二人いる。きっとあれだろう。
智子は、身構えた。
辺りをキョロキョロと見渡し、智子を見つけると真直ぐに歩いてきた。
智子が話す前に相手が語気を荒くして話しかけてきた。
千夏「あんたが智子?」
智子「は、はぃ。」
千夏「いったい何のつもりよ、私たちを巻き込まないでくれる。どうせあんたもこの前の女と同じで変態なんでしょ。」
そう言って千夏はポケットから封筒を取り出した。
ちゃんと封がされている。端を破いて中を開けると手紙があった。
千夏は、内容をしっかりと読んだ。そして、
千夏「智子、あそこの公衆トイレの個室にダンボールが置いてあるから取って来て。」
智子は、怪訝な顔をしてトイレに向かった。
智子(なんなのよ、あれ? あれが犯人なの? あんなガサツな連中が、あんな用意周到な準備をしてくるとは思えない。まさか、演技?? でも、巻き込まないでって? どういう事なんだ?)
智子は、犯人と交渉をしようと、気合を入れていたのに予想外の展開でどういていいのか分からなくなっている。
綾子「なんであんな変態の相手をしなくちゃいけないのよ、もう!」
千夏「でも、仕方ないよね、私たちも嵌められたんだし。いったいどうやって調べたんだろう? ウチらの住所とか。ねぇ、綾子、これ読んで。なんか面白そうだよ。」
千夏は、いやらしい笑みを浮かべて手紙を綾子に渡した。

千夏たちがここにいるのは、昨日突然のメールが始まりだった。
メール「千夏さん、ご無沙汰してます。また、露出変態の相手を手伝ってくださいな。」
千夏は、このメールを無視しようと思ったが、文章の下に、住所、フルネーム、電話番号、家族構成、学校名、ほか、いろいろな個人情報が細かく書かれていた。
これは、暗に拒否権が無いことを意味していた。
同様に、綾子にも同じメールが届いていた。
メール「ちゃんと協力してくれれば悪いようにはしませんよ。それより一緒に楽しみましょうよぅ。」
たしかに前の加奈子をいたぶった後は何も無かった、と思っていた。(実際は、探偵まがいの調査がされていたのだが)何か表沙汰になった訳ではない。
千夏は、綾子と相談して協力することにした。
ただ二人は、前には一緒にいた博子のもとには何もメールが届いていないのが、不愉快だった。

早紀たちが千夏、綾子の情報を手に入れたのは、さらに3日前だった。

一月かかって漸く情報を盗れたハンディこと鈴木は、早紀に報告メールを送った。
早紀「お疲れ様! 上出来よ。では、ご褒美をあげましょうね。何がいいかしら?」
早紀「ハンディ、今すぐにあなたの下半身の写メを送りなさい。5分以内によ。」
ハンディは、急いでズボンとパンツを脱ぎ写メに撮る。
ズボンを履く前に携帯を操作しメールを送った。
早紀「顔が写って無いわよ。これじゃ誰のだか分からないでしょ! やり直し!! もう時間が無くなるわよ。」
ハンディは、鏡を探して急いで全身姿を撮りメールする。
そうそう早紀から電話がかかってきた。
早紀「時間は、ギリギリセーフみたいね。でも、私の言いつけを守って無いわね。下の毛は常に剃っておく約束だったわよね。どうして生えているの?」
ハンディ「あの…、その……、す、すいません。ごめんなさい。」
早紀「せっかくご褒美をあげようかと思っていたのに、この態度じゃあげられないわね。いや、ご褒美よりも罰を受けてもらわないと。私たちを舐めているようだし。それとももう私たちと縁を切りたいのかしら? いいわよ、警察に行っても。」
ハンディ「すいません、ごめんなさい。許してください。」
ほぼ一ヵ月、早紀から連絡も無く、ひたすらに情報収集をしていて、その結果のご褒美を楽しみにしていて、つい気が抜けていたのかもしれない。
早紀「ふん! 今回の褒美は保留ね。次の課題が出来たら、今回の分と合わせてとびっきりのご褒美をあげるわ。」
ハンディ「ありがとうございます! 何でもやります!! やらせてください!!!」
早紀「じゃあ、また連絡するから待ってなさい、じゃあね。ちゃんと下の毛、剃っておきなさいよ。」
そう言うと、ハンディの返事も聞かない内に電話が切れた。
ハンディは、ご褒美が貰えなかった事にガッカリするが、自分のミスと反省し、引き出しから剃刀とクリームを取出し、裸の下半身の忌々しい毛を剃り落としていった。

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