体罰
ドロップアウター:作
■ エピローグ
その後、私は包帯をほどいてもらい、ようやく衣服を着ることを許されました。
私が服を着て体罰が全て終わった後、佐伯先生が話を始めました。
その時、私は大きなショックを受けました。
佐伯先生は、「蓮沼さんはよくがんばったわね」というような話をしました。普通の感覚なら、あんなひどいことをして、「がんばった」って言うのはおかしいですよね。
でも、先生の言葉に、私以外の部員はみんな、同意したのです。それも、先生に言われて仕方なく、といった感じじゃありません。心の底から、先生の言葉に共感しているみたいでした。
「みんな、蓮沼さんのような強い意志を持ち続けられるように、これからも精進していきましょう」
最後に先生はそんなことを言いました。
すると、部員のみんなは拍手をし始めたのです。
堀江先輩も、石野先輩も、それから蒼井さんも。すがすがしいとさえいえるような笑顔で、私に拍手を送ったのです。
私は、暗い気持ちになりました。
私は、入部した時からずっと疑問に思っていました。客観的に見れば、佐伯先生の体罰は理不尽です。それなのに、誰も先生のことを悪く言う部員はいなかったのです。もちろん恐れてはいるのですが、ある部分で、みんな先生のことを慕っているみたいでした。
みんな、私とはどこか感覚が違う。そんな思いを、私は入部した時からずっと抱き続けてきたのです。
そしてその思いは、今日の出来事で決定的なものになりました。
みんなの前で裸にされて、全身を痛めつけられて、強制的に快感をなすりつけられて、私はまるでレイプされたみたいに、打ちのめされていました。
それなのに、部員の誰一人として、先生の行為に疑問を感じてはいませんでした。私の方は、今日の態度をほめられて美化されて、それですまされようとしているのです。
たぶんみんな、佐伯先生の仕打ちを、先生なりの「愛情」と受け止めているんだと思います。どんなに痛い目にあっても辱めを受けても、それが先生の愛情だと心から思っているから、何も疑問を感じないんだと思います。
そして何より、佐伯先生自身も、自分の行為を生徒への愛情だと信じ切っているようです。だから私に長い時間苦痛を与えた後でも、平気で部員のみんなの共感を集めようとすることができるんだと思います。
私の頭の中には、「洗脳」という言葉が浮かびました。
部室を出た時、私は全身が痛くて歩くのも辛かったです。
蒼井さんに「送っていこうか?」と言われたのですが、「平気だから」と言って断りました。
私はもう、茶道部のみんなの顔を見たくありませんでした。
帰り際、私は一人でトイレの個室に入りました。
制服を脱いで下着姿になり、私は苦痛を受けた後の体を改めて見下ろしました。
無性に悲しくなってきて、また泣きました。
茶道部のみんなを恨む気持ちは全くありません。むしろ、私への体罰に巻き込んでしまって、今でもみんなに申し訳ない気持ちです。
ただ、やっぱり私とは価値観が違うんだな、というふうに思っていました。
みんなを裏切るようなことは、私だってしたくありません。でも、これ以上長く茶道部にいて、同じ考えに染まってしまうのも怖いです。
茶道部をやめて、今まで助けてくれたみんなを悲しませるか、それとも続けて、私自身の価値観を変えてしまうか、私はこれから先、難しい選択を迫られることになりそうです。
≪完≫
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