売られた姉妹
横尾茂明:作

■ 売られて8

佐伯はまずいと思った…。
少しでも目を離したら…あの手合いが引きも切らずに姉妹に群がると感じたのだ…。

(今夜はホテルに泊まって、明日はディズニーランドにでも連れて行ってやろうと思ったが…こりゃ危ないな、しかたねーか)

「さー帰るぞ!」
佐伯は二人に近づき、手をとって喫茶店を出た。
姉妹は今夜は東京に泊まるものとばかり思っていたが…佐伯の寡黙に歩く姿で静岡に帰るんだと感じた…。

3人は新幹線の中…始終無言だった、佐伯は姉妹の売値が安かったのではないかと後悔しきりで…夕紀は売られていく先のオジサンを見たことで、その現実に想いが行き…雅美は華やかだった東京の街に想いを馳せていた…。


2日後、藤井から電話が来た…。
「いろいろ考えたが…やっぱ二人はきついわ、妹の方だけよこしてくれんか…」

佐伯は…「そんなこと言わないで何とか二人とも面倒を見てやって下さいや」…と懇願するも…内心は嬉しかった、正直この二日間夕紀を手放す事を考えると…どうしようもなく胸が痛んだのだ。

「妹の雅美はまだ中学生ですから…そちらの学校への編入手続きをしませんと…」

「ああ…そのことはもう考えてあるんだ、儂の弁護士に養子手続きをしてもらってるよ、まっ、幸い儂も女房には先立たれ…子供も居ないことだし…フフフッそんなとこだよ」

「で、いつ頃引き取って頂けるんで…」
「今週中には手続きが完了するらしい…でっ、来週の日曜にはこちらによこしてくれよ」
「金は今日中に振り込んでおくから…本当に二千万でいいんだよな!」

「はい…もうそれで結構です、まっ、雅美を我が子のように可愛がってくださいや」
「可愛がって……ねー…ふふふふっ、君も言うねー、じゃ宜しく頼んだよ」

電話は切れた、何かホッとした感情と…損した感情が入り乱れ、佐伯の心は騒いだ…。

夜、姉妹のアパートに訪れ…雅美だけが売れたことを二人に告げた…。
その言葉に二人は暫し絶句し…見つめ合って静かに涙を零した…。
二人の敵対した壁は厚く…抱き合って泣くことを拒んだのだった、雅美はお姉ちゃんの借金なのに何故私が売られていくのという思い…夕紀は妹の方が魅力的に映ったんだという嫉妬の思い…。

しかしそれらの想いにもまして…二人の心は離れ離れになることの想いの方が勝った…。
最近の姉妹の間には確かにギクシャクした感情が流れていた…。
それらの因子は全て佐伯の登場に原因が有った…佐伯から借金さえしなければ仲の良かった姉妹にはこんな感情は絶対生まれなかった…。
二人は離別を知った刹那…このことにようやく気が付いたのだ。

二人はお互いの思惟を計りかねて抱き合えず…いつまでも見つめ合って静かに涙を零すのみであった。

「おい! お前らわかったな、日曜の朝トラックをよこすから雅美は荷物をまとめておけ、それと夕紀は来週の水曜に俺と東京に出る、静岡とはこれでおさらばだぜ…なーにお前ら逢いたければ東京でいつでも逢えるんじゃねーか、なっ! 悲観ばかりじゃねーぞ」

「雅美!、藤井の旦那は大層お前が気に入ったようでな…養子にしてくれるそうだ」
「なーに、ちょっとの間我慢すりゃ数百億の資産が全部お前に転がり込んでくるんだぜ」
「まっ、その時は俺と夕紀のこと…よろしく頼むぜ…クククッ」

「さてと…帰るとするか…おっと…最後に言っとくが…お前ら逃げようなんて気を起こすんじゃねーぞ、わかったな!」

佐伯はドアを閉め…アパートの階段を降りながら…。
(今夜は姉妹の体を心行くまで味わおうと来たんだがナー…二人の泣き顔見てたら…アカン、俺にも仏心が有ったよ…)

佐伯は星空を見ながら…あの姉妹の行く末を想った。
(あれほどの美少女達を…世間がいつまでも放っておくはずもないし)
(雅美がいつまでも従順に藤井のエロオヤジに抱かれているとも思えない…)
(夕紀にしたって…いいとこ半年もしない内に俺のもとから去って行くだろう…)

(あぁー仕方ねーか…まっ、数ヶ月でも夕紀のあの白くて柔らかい体を思う存分抱けりゃいいとしないと…)

(しかし…あの二人…これから先どうやって生きていくんだろう…俺が彼女らの人生を狂わしたのか…)
(いや、そーじゃねー…あの二人…俺が思う以上にしたたかに生きていくだろうぜ…)

佐伯は振り返ってアパートの灯りを見た。
(あれから…もう1年も経つんだなー…しかし今夜の秋風は冷たい…)

スーツの襟を両手で寄せ…背を丸めて露地に向かった…。

終わり


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