新・売られた少女
横尾茂明:作
■ 稚戯の章8
「英次さん……私を助けてくれますか……」
「助けるも助けないも…………んー……どうしようかなー……浅田の兄貴には恩があるし……」
「だけど室田の頭は怖いし……」
英次は頭を抱えて迷う……。
少女は少年の手を取ってて哀願するように見つめた……。
「んん……こんなに頼まれちゃしかたない……何とかしよう!」
「じゃぁすぐに服を着て……それと……あぁぁ何を用意したらいいんだろう……」
少年はオロオロしながら窓の外を見、駐車場にまだ浅田の車が無いことを確認して……。
「すぐここから出よう……行き先は……えーと……まっいいやとにかくここから早く逃げよう」
少年と少女は慌てて服を着……マンションの裏口から飛び出して路駐の英次のポンコツ車に乗り込む。
二人はとにかくこの場から逃げたかった……後方から浅田の車が追いかけてくる様な気がして手に汗を握りながらもどかしく前を見た……。
恵比寿橋入口から明治通りに入り、何処をどう抜けたか訳も分からず……気が付いたら首都高に乗って三鷹方面に向かってた。
高井戸を過ぎ調布に近づいたとき……やっと二人は深呼吸が出来た。
「ふーっ……ここまで来ればまずは安心……はーっ怖かったなー」
「さー何処に行けばいいんだろう……お嬢さんお金は幾らもってんの?」
少女は後方の座席に置いた大きい鞄を開けた……そして凍り付く。
(お父さんの遺留品の鞄も慌てて持って来ちゃった……)
(…………浅田さん……)
少女はブルと震えた……。
そして鞄のポケットから財布を取り出し中を見て……、「5千円とちょっとしかないの……」
「俺も……1万円もないよー……困ったナーこれじゃホテル代にもならないよー……」
「あっ……そうだ、お父さんがカードをたしかくれたんだ……」
財布のポケットから新品のカードを取り出した……。
「これ……使えるかなー……」
「おっ……ゴールドの家族会員カード……こりゃいいや……」
「ちょっとコンビニで試してみようか……」
高速を降り調布の街に入る……コンビニを見つけ弁当を買った、レジでカードを出した際……ゴールドカードに少し訝しむも店員はそれでも通してくれた……。
「カードは生きてるヨー……これで安心!」
二人はコンビニの駐車場で抱き合って喜んだ。
安心したせいか空腹に気付き弁当を掻き込む、そして行き先を考える……。
「何処に行こうか……ほとぼりがさめるまで東京を離れなきゃーな……」
「長野がいいかな……俺の故郷だけど……」
「英次さん長野の人なの?」
「うん……でも……家出してきたから……家には帰れないんだ……」
「家出したのー……でも……訳は聞かない方がいいよね……」
「………………………………」
「そうと決まれば長野まで行くか……夜までには着くから……」
「はい……」
車は八王子方面に向けて走り出した……。
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