新・売られた少女
横尾茂明:作
■ 逃れの章3
少年は携帯を取り出し、組の本部に電話を入れた。
「英次です……室田組長はおられますでしょうか」
「…えっ…とんでもないっす!」
「実は………………」
少年は汗を拭き拭き携帯にお辞儀しながら話してる…。
長い電話を切って少年は放心したように肩を落とした…。
「英次さん大丈夫?」
「あっ…うん、室田組長…すごく怒ってたヨー…」
「兄貴が聡美ちゃんにしたこと…若頭の財産を狙って監禁したことを言ったら…」
「浅田の野郎生かしちゃおけねえって凄い声で怒鳴って…」
「今からこちらに向かうから…着くまでは宿を一歩も出るなって」
「どうする聡美ちゃん?…」
「英次さん室田さんって言う人…本当に信用出来る人なの?」
「そりゃ怖い人だけど、組長になるようなお人…仁義には厚いと聞いてるから…」
「それと室田組長の下にいれば兄貴も手が出せないはず…」
「ねっ、明日東京に帰ろうヨ!」
「……うん」
「そうと決まったら迎えが着くまで、ここでゆっくりしようか」
「ええ…」
「聡美ちゃん先にお風呂に入ってきなよ」
「うん…でも…あのお風呂…見えちゃうよネ」
少女の言う通り…風呂は部屋の一角を透明ガラスで仕切って出来ていた。
「いいじゃないか…僕ら…あんなことしたんだから…」
「…でもー」
「じゃぁ一緒にはいろうよ、それなら恥ずかしくないだろ?」
「英次さん…それってなにか変だよー…でも英次さんと一緒ならいいかな…ウフフ」
二人は服を脱ぎ散らかしてバスルームに入る、シャワーをお互いにかけあったりソープで泡だらけになりながらキャッキャとふざけあった。
少女はふと考える…一週間前までは男の人の前で裸になるなんて想像すらしたことがなかったのに…いまはこうして裸でふざけ合うことが出来る…。
この心の変貌に自分で驚いてしまった…誠実な少年を前に、我に返った感情になり、今の淫らな姿がラップし急に恥ずかしくなってしまったのだ。
「聡美ちゃん…どうしたの?」
少年は少女の俯きを怪訝に想い…覗き込む。
「恥ずかしいの…何故か急に恥ずかしくなって…」
「そっか…元に戻ったんだね、こんなこと…中学生が平然と出来る事が変だよね…」
「ごめん…気が付かなくて」
少年は後ろを向いて体中の泡をシャワーで流し始めた…。
「英次さん…怒ったの?」
少女は少年のあまりの理解の早さを…怒ったと感じた。
「英次さん…こっち向いて、もう聡美恥ずかしがらないから…」
「ねぇーてば…英次さん…」
少年は振り向いて少女の顔を見…手が自然と少女の背中に廻り強く抱きしめた…。
少女は目を閉じ口づけを待つ…少年の暖かな唇が触れてきた、優しい口づけだった。
少女の目から急に涙が零れる…少年の優しさをこの時痛烈に感じたから…。
「聡美ちゃん…俺…好きだよ、こんなふうに出会ったことは悲しいけど…君みたいな美しい人と出会え…こうして抱き合えるなんてすごく嬉しいんだ」
「私も…こんなに優しくされて…嬉しい」
頭上からは暖かなシャワーが降り注ぎ…二人の心を柔らかく濡らしていく。
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