優等生の秘密
アサト:作

■ 2

「……わかった。君のご両親には言わないから、正直に話してごらん。」
「先生、さっきから思うけど、何で俺の気持ちが分かるんですか?」
 いってから、しまった、という表情をする貢太の頭を、梶原は優しくぽんと叩いた。
「先生が昔そうだったんだ。親に言われて仕方なく特進クラスに入って、仕方なく有名大学に進学して……結局、何一つ得られなかった青春を送ったからね。」
 そう話す梶原の目は、とても寂しそうだった。
「君の実力なら、間違いなく普通クラスではトップになれるし、今のままでも十分上は狙える。けど、特進クラスに居続けたい理由なんてないんだろう?」
「……はい。」
「じゃあ、3年で普通クラスに移動するように、手続きをしてみるよ。」
「本当ですか?!」
「ああ。男と男の約束だ。」
 そう言って、手を差し出す梶原は、にっこりと微笑んでいた。
「ありがとうございます!」
 貢太は梶原の手をきつく握り締めると、上下に数回振った。
「……もしも、気が変わったらいつでも先生に言ってきてくれ。」
「わかりました。」
 気が変わることなどありえない。そう思いながら、貢太は生徒指導室を後にした。

「あ、やべ、忘れ物だ。」
 靴箱のところで、貢太はその事に気がついた。梶原に呼び止められたときに、まだ荷物を全部鞄に入れきっていなかったのだ。机の中に、数冊、まだ漫画が入っているはずだ。もし教師に見つかったら、没収されてしまうことは確実だ。貢太は慌てて教室へと戻った。
(あれ? まだ誰か残ってるのか?)
 階段を上がった所で、自分のクラスにだけまだ明かりがついているのを不審に思った貢太は、恐る恐る教室へ近寄った。クラスメートの中には、やる気のない貢太を嫌っている人間も少なくはなかったのだ。そんな連中に、漫画の事がばれれば、教師に報告されることは間違いない。
 気づかれないように教室の前まで来たとき、中から声が聞こえてきた。
「第19問、スタート。」
 落ち着いた男の声、その声の主を、貢太は知っていた。
(真田? まだ勉強しているのか?)
「「解けた。」」
 京介の声に、別の女の声が重なる。
(辻野も……? 学年トップを争う二人が仲良く勉強中か?)
「いいのか? 聡子。こっちはまだ2枚あるが、そっちは1枚しか残ってないんだぞ?」
「そっちこそ、2枚のうちどっちを取るかは、こっちが決めるのよ? 忘れてない?」
 不敵な二人の声がする。何も知らない人がこの声を聞いたら、誰も高校2年だとは思わないだろう。もっと年上の、落ち着いた人間を想像するであろう。
(1枚、2枚って……何の話だ?)
 気になって、貢太は恐る恐る教室のドアを少しだけ開けた。
(ま、マジで!?)
 貢太は思わず自分の目を疑ってしまった。そこには、カッターシャツとトランクスだけを身につけた京介と、パンティしかはいていない聡子の姿があったのだ。

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