優等生の秘密
アサト:作

■ 47

 その日はいつもと変わらない日だった。ゲームセンターの開店時間に合わせて家を出て、いつものように一日中ゲームをして時間を潰す。貢太がゲームセンターに着く頃には、既に俊樹達はそこでだいぶ金を使った後のようだった。
「よぉ、貢太。」
「よ、調子どうだ?」
 ガンシューティングゲームをしている俊樹を邪魔しないように、貢太は画面の様子を見ながら声を掛けた。
「あんまり良くねぇ。もう5000円は使っちまった。」
 その言葉に、貢太は目を丸くした。前から俊樹の金遣いは荒かったが、ここ最近は、さらに拍車がかかっている。貢太はそんな俊樹に少し不安を覚えていた。
「なぁ、そんなに使って大丈夫なのか?」
「大丈夫だって、最近、いい『財布』拾ったからな。」
 俊樹の言う『財布』とは、金を脅し取れる人間のことだ。貢太は父親と腹を割って話した後、すぐに他人から金を脅し取ることはやめたが、不良として過ごしてきた時間が長い俊樹にとって、それはもう癖になってしまっているのだろう。
「あまり、無茶なことするなよ?」
「分かってるって。俺がそんなヘマする人間に見えるか?」
 言いながら、俊樹は向かってくるゾンビを次々に撃ち倒していく。かなりの回数遊んだのだろう。ゾンビが現れた瞬間には、もう倒してしまっている。
「それは、そうだけど……心配なんだよ。」
「分かってるって。ありがとな。」
 口ではそう言ったものの、俊樹は貢太の干渉を鬱陶しがっているようだった。それは貢太にも分かっていたため、貢太はそれ以上何も言わなかった。いつも遊ぶ格闘ゲームに硬貨を入れ、しばらく遊ぶ。貢太もすっかりゲームにも慣れてしまい、どのキャラクターでもラスボスを難なく倒すほどの腕前になっていた。
 そうして、しばらく遊んだ時だった。ポケットに入れていた携帯電話が震えた。うるさい店内から素早く外に出て、電話を取った。
「もしもし?」
『もしもし、仲原君?』
 その声に、貢太は息が詰まりそうになった。電話越しで、少し印象は違って聞こえたが、その声は間違いなく聡子の声だった。
「……辻野?」
 周りに誰もいないことを確認してから、貢太は相手に聞き返した。
『ええ。そうよ。覚えていてくれたみたいね。嬉しいわ。』
「あれだけのこと、したんだ。忘れるわけないだろ……」
 貢太の表情が曇った。どうして今頃になって、聡子は自分に連絡をしてきたのだろう。そのことばかりが貢太の頭の中でぐるぐると回っていた。
『……忘れる人だっているわ。そんな事は置いといて、二人きりで話がしたいの。』
「話……? もしかして、その……」
 貢太は思わず口ごもってしまう。自分のしでかした事を考えると、胸が締め付けられる。
『……大丈夫、貴方が恐れているような話じゃないわ。そうね……今から指定する場所に来られる?』
「あ、あぁ……」
 貢太は聡子の一言一句を聞き逃すまいと、耳を澄ませた。そして、待ち合わせの場所を聞き終えると、電話を切った。そして、素早くその場を立ち去った。
『誰にも、気付かれないように来てほしいの。』
 電話を切る直前に聡子が言った言葉が、妙に引っかかっていた。

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