2003.03.14.

青い目覚め
01
横尾茂明



■ プロローグ

 キラキラ光る眩しい少女、その名は由美……。
由美と由紀は校門の所で、お互い突っつき合いながら今日先生が話した意味の解釈を、「そうじゃなくてこうでしょ」と両者譲らずもめていた。
他の生徒達がその二人の光景を見て、微笑みながら下校していく。
二人は10分も揉めたあげく、あした先生に聞いてみようということで落ち着いた。

「じゃあ! 由紀ちゃんまたあしたネ…」
「由美ちゃん真っ直ぐ家に帰りなよ!」
「分かってる! あの借りた本読むの楽しみだもん!」
「うふふ楽しみ」
二人は幼稚園からの幼なじみ、まるで姉妹のようである。
由美はスラッと背が高く、その美しさは少女期から女に変貌する直前の光輝く色気さえたたえていた。
由紀は控えめなお嬢さん育ちの風貌で、理知的な眼差しをした少女であった。

「由美ちゃんさようなら」
「由紀ちゃんグッバイ」
夕日が二人の陰を長く延ばし、二人はいつまでも振り返りつつ、手を振りながら逆方向に歩いて行った。

由美は去年隣町に引っ越し、今は電車で通学をしている。
由美は時計を見ながら…
(まだ次の電車まで20分も有るんだ! あーどうして引っ越さなければいけなかったんだろう)
と暗い気持になっていた。 

父親は去年までプレス工場をやっていた。10年前バブルが弾けた辺りから仕事が少しづつ減少し、去年…遂に倒産に追い込まれた。

由美の家と土地は全て人手に渡り、逃げるように隣町のアパートに身を寄せた。

由美は引っ越し当時、2畳くらいのキッチンと6畳一間だけのアパートには驚愕した。
トイレは共同…風呂は無し…まるで独身寮のようなアパートを見たとき、目の前が暗くなり、母と二人で1日泣き明かしたことを思い出した。

父の幸夫は悪質金融の取り立てが厳しいため、母子に禍が降りかかるのを恐れて、引っ越しと同時に母と形だけ離婚し、行方をくらました。

由美は当初この引っ越しを機に、高校を退学し仕事をすると母に申し出たが…
母は「今時高校ぐらい出ないでどうするの! あなたはお金の事なんか考えず一生懸命に勉強なさい」と由美の申し出を窘めた。

それ以来、母は近くのスーパーにパートとして勤め、夜は隣町の割烹旅館の下働きとして精力的に働いた。

由美は母が父と暮らしてた時より活き活きとし、その生活力旺盛な母を見て頼もしくも思ったのであるが…。

しかしいま由美が心を暗くするのは、父の居ないことも有るが、家に帰っても誰も居ないということだった。母は毎日帰宅が12時を越える。最近はお酒を少し呑んで帰ってくることもしばし有った。

先日も、由紀がうたた寝している時、母は静かに帰ってきて、由美の枕元に座り、長いこと由美を見ていた。

由紀は目を覚ましていたが寝た振りをした。
母が小さく声を出し
「由美ちゃんゴメンネ…」
薄目を開け母を見たら…母の目は涙で濡れていた。

この時、一番寂しい思いをしているのは母だと感じた。
母は大学時代に父と恋に落ち、若いと周囲に反対されたため同棲し、親には勘当扱いにされた。

父も同様で有ったが、祖父の死により一人息子であった父は、それまで勤めていた出版社を辞め、プレス工場の跡を取った。

母は生まれたばかりの由美を連れ、父の実家に来たとき…姑から酷い虐めを受けたと13の時に由美は聞いた。

姑が亡くなり母が明るさを取り戻した時期が、会社が傾き始めた時期でもあった。

今まで勤めの経験の無い母が、昼夜と働くのは大変な事と由美は母の薄倖を悲しく思った。

最近、母は料理旅館で客の酒の相手をさせられているらしい。
母の美貌は周囲を虜にする美しさで有り、母と街に買い物に行ったときは、すれ違う殆どの人が母を羨望の眼差しで見た。
その事を由紀は子供の頃から誇らしくも感じていた…。

39才の母が薄化粧をするとまだ20代後半と思えるほどの、若やいだ雰囲気が有った。

そんな母を割烹旅館が下働きをさせる筈もなく、格好な上客の相手として雇ったので有ろう。

母は2ヶ月前にパートを辞め、割烹旅館一つに絞り、昼の1時より勤めるようになった。
その日から母の帰宅はさらに遅くなり、1時…2時と…たまに帰らぬ日も有った。

由美は朝の1時間だけ母に会える生活が続いていた。
今日も出かけに母は、遅くなるからゴメンネと由美に言った。

由美は電車を待ちながら、あの冷たいアパートに一人帰るのか…
と暗い気持でホームのベンチに腰を下ろした。



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