2005.05.05.

新・青い目覚め
01
横尾茂明



■ プロローグ1

 所在なげに週刊誌の棚を見て歩く少女。先程から同じコーナーを行ったり来たりしている。

 孝夫はレジの所から妙に気になるその少女を観察していた。と言うのもその少女が余りにも可愛いいと言うか・・光のオーラを放っているようにも感じたからだった。

(この子・・近所では見掛けない子だなー)
(しかしなんて可愛い子なんだろう・・16才くらい・・?)
(娘が生きていればこの子くらいなんだが・・)

 孝夫は妻と娘を12年前に交通事故で亡くしていた・・妻が娘を幼稚園に送っていった際、横断歩道を歩行中に車にはねられたのだった・・二人とも即死であった。

 葬儀を済ませ孝夫は10日のあいだ家に閉じこもって泣いて暮らした・・。
そして孝夫は勤めていた商社に辞表を出し旅に出た・・働く気力は完全に失せ傷心のまま1ヶ月近く各地を放浪した。それでも旅先での情けに触れ・・孝夫の心の傷は少しずつ薄らいでもいった。

 旅から帰った孝夫は若い頃からの夢であった本屋を開業すべく知人の本屋に自分の夢を相談した。知人は本屋の難しさを語り他の商売を勧めたが孝夫の意志は硬く・・結局知人は助力すると約した・・多額の保険金の力も有って半年後には開業にこぎ着けることが出来た。

 孝夫は夢中で働いた。妻子の事を思い出す暇もないほど働いた・・そして今年ようやく駅前に2号店が出せるまでになっていた。


 孝夫は初夏の陽光を背中に感じ・・ぼんやりと少女の様子を観察していた。
(しかし可愛い・・というより美しい人の方が合ってるのかな・・)
(こんな綺麗な子もいつかは男に抱かれるんだろうな・・この子の父親の心情を考えると・・まっ! そんなことを考えてもしかたがないか)

 とその時・・少女が本を鞄に隠した・・一瞬の出来事で孝夫は見間違いであったかと思ったが・・少女のその後の行動で万引きが間違いのないものと確信出来た。

 少女は真っ直ぐドアに向かう、ドアが開くと同時に猛烈にダッシュした。
孝夫はバイトの子に店を頼むと裏口から商店街に廻った・・孝夫は何故か少女はこちら側に回って来ると確信できたからだった。


 少女は後ろを気にしながら商店街の入口に顔を見せた。そして人混みに溶け込もうとするかのように俯き・・歩調を流れに同調させていった。

「お嬢さん! チョットこちらに来て頂けませんか」
 孝夫は少女の腕を掴み、有無を言わせぬ目で静かに言い放った。

 少女の目は大きく見開かれ顔は驚愕に歪んだ・・孝夫の優しげ且つ有無を言わせぬ威厳に満ちた顔を見て少女は観念したかのように肩を落とした。

 少女は引っぱられるように本屋の裏口から店の事務所に入り、孝夫は応接の椅子に座るよう少女を促した。

 孝夫は少女の腕を未だ強く掴んでいることに気づき・・
「ごめんね乱暴にして、お嬢さん・・鞄の中を見せて貰えるかな?」

「・・・・・・・・・」

 少女は素直に観念した、「ゴメンナサイ」と言って・・鞄を開けると本を机の上に静かに置いた。

「お嬢さん・・こんな事しちゃダメじゃない!」
「こういうこと・・今日が初めてなの」

「ゴメンナサイ・・ゴメンナサイ・・ウッウッウッ」

 少女は耐えていたものが外れたかのように肩を震わせ机に突っ伏して泣き出してしまった。

「・・・・・・・・」

 孝夫は立ち上がり・・そして困惑した。十年近く万引きの対応は従業員に任せていた為どう処理してよいのものか・・すぐには思い出せなかった。
 きょうは偶然にも死んだ娘を思い出し・・年格好の似た少女を目で追い、回想に気持ちよく浸っていたのに・・。

 少女の行為は娘への想いを汚された気がして年甲斐もなく躍起になって追い・・いざ捕まえてみると自分の娘を捕まえたような妙な感覚に陥り・・少女の泣き声を聞いてオロオロしてしまったのだ。

 孝夫は少女の泣き声が従業員に聞かれはしないかとオロオロしながらドアの前まで行った・・
(俺は何やってんだろう・・)
 万引犯を自分の娘と一瞬でも同一視したことに少し腹が立った。
(きょうのところは許してやろう・・服装から見て真面目そうな子だし・・)
(従業員に見つかったら警察の補導員を呼ばなくちゃいけないから早く引き取って貰うか)

「お嬢さん・・もう帰っていいから泣くのはやめなさい」
「さっ涙を拭いて」「もう二度とこんなことしちゃダメだよ」

 孝夫は背後から少女の肩を抱きゆっくり起こした、そしてハンカチで涙を拭いてやろうと手を差し出したとき・・ズキと胸が痛んだ・・美しい涙目の少女の横顔に強烈な色気を感じたからだった。真っ白く透き通るような肌・・頬から唇に至る気品に満ちたライン・・愛らしいえくぼ・・匂い立つ柔らかくて長い髪・・こんなに美しい少女だったのか。

 こんな少女が何故・・孝夫は訝しい思いで少女が万引きした本を表にかえし表紙を見て愕然とした・・【月刊SM】

 孝夫はもう一度少女の横顔を凝視しその容姿と行為のギャップに困惑し唖然としてしまった・・。

(それにしても美しい少女・・こんな子がSMとは・・いやはや)
 孝夫は何故かこの少女に興味が湧いた・・真面目そうな子だから許そうとの思いはもはや消え、少女がこの行為に及んだ心理が知りたくなった・・そこには10年以上の禁欲生活が誘う不謹慎な性への渇望が無かったとは言えなくもないが・・。

「お嬢さんこんな本盗んでどうするの・・おじさんは参考書程度と思ったから許して上げようと思ったのに・・こんな本を万引きするような子は許せないな! 今から警察の人を呼ぶから家の人に電話しなさい!」
 孝夫は携帯電話をポケットから出し少女の手に握らせた。

 少女は警察と言う言葉を聞いて顔色を失った・・そして哀願するような目で
「堪忍して下さい・・警察を呼ぶのだけは堪忍して下さい」
 少女は孝夫をこの時初めて正面から見、嗚咽を洩らしながら縋るような顔で大粒の涙を零した。

 孝夫は警察を呼ぶ気など毛頭無かった・・ただ少女の反応が見たかった・・そして・・。

「じゃぁ家の人を呼んで、さっ電話しなさい!」

「・・・・・・」

「自分で電話出来ないならおじさんがするから番号を言いなさい!」
 孝夫は少女から電話を取り、少し大きな声で恫喝した。

 少女は震えながら孝夫の手を握った・・
「おじさん堪忍して下さい・・もう絶対しませんからお母さんにだけは・・・」

「だったらお父さんの会社は何処! お父さんに来て貰うから」

「・・・・・・」「お父さんは居ません・・亡くなりました・・ウッウッ」

 孝夫はさらに追い打ちをかけた。
「警察も両親も呼ぶなと言われてハイそうですかで君は許して貰えると思ってるの? 自分のしたことがどんなことか分かってるの? 高校生がこんな本万引きして・・恥ずかしいと思わないのか!」

「さーどうするの?」

「・・・・・・」

「お・・おじさんの言うこと何でもしますから・・堪忍・・堪忍して下さい」
 少女は・・思い詰めた涙目で孝夫を見上げた。

「・・・・・・」



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