2009.10.28.

ボクの中のワタシ
01
羽佐間 修

*この物語に登場する人物、企業はすべてフィクションです。

■ 第1章 目覚め 01

明菜との別れ


――明菜を抱くの、2週間振りかあ?! ふふっ

 月に2、3度、泊まりに来る山瀬明菜は、速水竜之介が勤めるゲーム制作会社 デジタル・システム・ワークスの後輩で、付き合って半年ほどになる。

 シャワーを浴びながら、明菜の身体を思うと分身には血がみなぎっている。 濡れた身体を拭うのもそこそこに竜之介はバスルームを出た。

「明菜〜! 早くシャワー浴びておいでよ〜。 ボク、もうこんなに勃っちゃったあ」

「ねえ、竜之介クン、、、」

 リビングに入るとガールフレンドの明菜が突っ立っていた。

――うへっ?! 何か怒ってる、、、
 いつもはたっちとあだ名で呼ぶ明菜が名前で呼ぶ時は、ご機嫌斜めの時に決まっている。

「これ、なんなの?! 説明してよ」
 その手にはベージュのパンストが握られ、目には涙が滲んでいた。

――あっ、、、

「えっ、、、 そ、それは、、、」
 華奢な身体つきでそそり立つペニスを目にしなければボーイッシュな女の子のように見える速水竜之介は茫然と立ち尽くす。

「説明してよっ! どうしてこんな物があるの?! これっ、誰のなの?」

「あっ、、、ちっ、違んだ。 明菜、、、」

「じゃ、これは何なの!」

 明菜がパンストを握り絞めていた手を緩めると、白い物がいくつかはらりと落ちた。 口紅やマスカラの付いたコットンパフだった。

「ゴミ箱の中にあったわ、、、 誰か他の女の人がこの部屋に出入りしてるんでしょ?!」

「あっ、、、 誰って、、、 あ、明菜、、、 違うんだ、、、」

「ひどいよ、竜之介クン、、、 信じてたのに、、、 うぅぅぅぅ、、、、」

「あ、明菜、、、 あのさぁ」

『それってボクのだよ』と喉元まで出かかった言葉を竜之介は飲み込み、明菜を抱き寄せようとした。

「いやっ! ごまかさないで! 大嫌いよ! 竜之介クンなんてっ!」

 明菜は竜之助の胸をドンと突き放し、パンストを床に投げつけ、泣きながら部屋を飛び出して行った。

「ま、待てよ、明菜! それは、、、」

(バタン!)
――明菜、、、
 竜之介はフローリングにぺたりと座りこみ、明菜が出て行ったドアをぼんやりと眺めていた。

――マズッたなあ、、、

 傍らに落ちている伝線したパンストと化粧をぬぐったコットンパフをみて竜之介は苦笑する。

 床のパンストは2日前に爪を引っ掛けて伝線してしまったものを押し入れの隅に突っ込んでいたものだった。

 高校を卒業して以来忘れていた”女装趣味”を、明菜がお泊まり用にと置いていった着替えのデニムのミニスカートとニットのセーターを身に着けてみたのをきっかけに、2か月前から再びやり始め、密かに楽しむようになっていた。

――ふぅ、、、 どうしよう、、、 ホントのことを言えば良かったのかなあ?!

「ふっ。 あははっ」
 竜之介は、たとえ真実を話したとしても潔癖症の明菜に『変態っ!』と罵られるのがオチで、振られるという結果は同じだと思い至ると思わず苦笑してしまった。

 しかし浮気と勘違いして飛び出していった明菜を追いかける気がまったく湧いてこないのが不思議に思う。

――そんなに好きじゃなかったのかなあ、明菜のこと、、、

 可愛くて、セックスの相性もそこそこ合うのだが、独占欲が強くウンザリすることが時々あった。 明菜の性格を思うと、真実を伏せたままでおいそれと仲直りできるとは思えない。
――浮気はもうしないって謝ろうかなあ、、、 う〜ん、、、 仲直りできなくてもいいか、、、

 竜之介は玄関のドアの鍵を閉め、鏡の前に座って鏡の中の自分をじっと見詰めた。

 少しウェストがキツイと感じながら穿いた明菜のミニスカートは腰にぴったり張り付き、鏡に映った自分の姿を見て『可愛い!』と感じた時の高揚感がまざまざと蘇る。

――女装かあ、、、

 竜之介は、思い立って押入れの奥に隠してあった袋を引き出した。 2週間前に少し離れたショッピングセンターで買った女性下着だ。

 黒いブラ・ショーツを袋から取り出し、鏡の前で身に付ける。

 誰も見ていないのは分かっているのに、こみあげてくる恥ずかしさに身体が火照ってくるのが堪らない。

 コンビニで買った化粧品の入ったポーチを取り出し、竜之介は化粧を始めた。

 月曜日に会社で明菜に会うことを考えると、少しだけ憂鬱な気持ちになったが、化粧を進めるうちにどんどん楽しくなってくる。

 よく考えると明菜と別れることになったとしても、その理由は浮気が原因と思われているほうが竜之介にとっては都合がいいのだ。 明菜の口から女装趣味を会社の上司や同僚に知られた時を想像するとゾッとした。

 鏡の中で変身しつつある顔は、拙い化粧でどうみてもオカマそのものなのだが、竜之介は楽しくて夢中になった。

 これまでは明菜が部屋に来ることを思って服や下着をあれこれ買い揃えるのを躊躇っていたが、今日からは気兼ねをすることもなくなり、存分に楽しむことが出来ると思うとウキウキしてくる。

――ありゃりゃ?! ふふっ。

 竜之介は、化粧するうちにすでに明菜と別れた気になっている自分の気持の変わりようが可笑しかった。

「どんなのを買おうかなあ?!」
 明菜のミニスカートを穿きながら、鏡の中の自分に語りかける。

――よーしっ! どうせなら女装を極めてやる! とりあえずは女装して外出できるように頑張ろっと。

 竜之介は最近覚えた女装をしたままのオナニーをするつもりでベッドに向かった。



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