2007.11.03.

皮膚の壁
03
一月二十日



■ 3

真美が出向して2ヶ月ほど経ったある日、突然真美からの着信があった。
この時は会議中で出ることが出来なかったが、私は着信欄に現れた「MAMI」の文字を会議の隙を縫っては眺めていた。着信を知らす携帯のランプの点滅がまるで真美の鼓動の様だった。
真美は一体なんで今頃私に…
蓋を開ければ案外ただの質問かも知れない。ま、そんなところだろう。
どうせ大方そうなのなら、せめてこのランプが光り続ける間だけでも都合のいい想像をしよう。
私は真美との性交の様を思い浮かべた。
真美の女性器を想像する時、女性器は唇に比例するという俗言をそのまま当てはめた。
真美の唇は薄いのだがすこし力なく捲れた様な感じがする。
ということは真美の女性器は襞が捲れ上がっているのだろうか?
真美の髪は長いが豊かとは言えない。
丘に生える真美の髪も薄めだろうか?
だとしたら、ほとんど真美の女性器は剥き出されて男性の目に飛び込んで来るんだ…

途端に股間が頼りなくなって来た。
やはりどんな話でもいいから電話したい。声が聞きたい。聞いたら長く聞いていたい。
会議が終わるや、私は社屋の表で携帯のボタンを押していた。手がぶるぶる震えていた。社外に出るまで、胸ポケットに引っ掛かった携帯を力任せに引っ張ってこじって走っていたからだ。
呼び出し音が1回・2回・3回目の途中で真美の声がした。

「あ、中野さんだ。掛けてくれたんだ…」
真美が私の苗字を呼んだ。それも意外にも明るい声で。それに馴れ馴れしく…
一体どういうことなんだ?

「あの…何?」
…あぁまた無表情な言葉を使ってしまった。
「あ…うん…ええと…」
真美の口調が180度変わっている。こんなに高いトーンの声を聞いたのは初めてだ。
「どうしたの?」
「うん…ちょっと相談があってぇ…」
…やはり相談か…
少しがっかりした。
「相談? って?」
かなり無理をして素っ気なく聞いた。
「どうしたらいいかって…」
「何を?」
「うん…告られちゃって…」
「え?」
なんと彼氏の相談?
「出向先の人がね…」
「それ誰?」
「望月さん。」
「え?」
望月という男を私は知っていた。
彼は以前私が現場に従事していた頃に、何度か視察に来ていた。
愛想のいい奴で、来る度に世間話をする間柄になっていた。しかしそんなに深い面識もない。
「うん…望月さんが中野さんのことをよく話すの。私が中野さんに初めお世話になったって話、したから。」
「あぁ、まぁ面白い奴だからちょくちょく話したなぁ…」
「ねぇ、どうしたらいいんだろう?」
「どうしたらって?」
「付き合った方がいいのかなぁ…」
「それは僕に言われても…」
実際は落胆と嫉妬で混乱し始めていたのだが、何故か私の口調は変わらない。それどころか…
「う〜ん、迷うなら一度受けてみたら?」
…なんてことを言ってしまったんだ…

「中野さんがそう言うならそうする。」
(「じゃ、嫌だって言ったら?」)
その一言が言いたかった。しかし…
「うん、それがいい。」
…なんて天邪鬼なんだ…

真美はどうやら私の「心ない」助言に素直に従った様だ。
数日して望月と会った。

「真美とデートしたぜ。」
「ふーん。」
「あいつ次は落とせるな。」
「え?」
「いや、まんざらでもなかったみたいだ。」
「ふーん…あ、どこ行ったんだ?」
「まぁ、ありきたりな所さ。」
「どこ?」
「映画観てさ、食事して…」
「手くらい握ったか?」
「まぁね。」
「肩は?」
「それはちょっと拒否されたな…ま、次は何とかなるさ。」

どうやら真美は私のことを話していない様だ。
しかしなんて天邪鬼なんだ私は…
その夜、今度は真美から電話が入った。

「あのね、手、握られたんだ…」
「あぁ、今日あいつと会ったよ。なんか喜んでた。よかったな。」
「う〜ん、でもなんか…」
「なんか?」
一瞬、期待するものがあった。
「なんか…嫌なのかなぁ…手がね、湿っぽかった…」
(「そうだろ? だったら断れ。」)
と言いたかったが…
「それはそう言う人もいるけど…それで決めちゃいけないんじゃない?」
「そうなの?」
「そりゃそうだろう。」
…また心にも無いことを言ってしまう…
「そうね…」
真美を励まして落胆してしまった…

それから1ヶ月ほどは2日に1回の割合で真美から電話が入った。内容はすべて望月とのこと。正直毎回心にもないアドバイスをする自分が嫌でならなかった。
この間、真美の口調はますますその顔の様に白猫化して行った。甘える唇が段々湿って行く様な感じだった。

「じゃ、全然進展なしなのか?」
「うん…なんか…嫌なのよね…拒否すんの…でも、誘われると断るの悪いし…でね? …行くんだけどさ…触れられないの…やっぱり嫌なのね…」

細かい語呂は違っても、真美の話の内容はこのセリフの繰り返しの様なものだった。
そして私も

「でも誘われて出て行くっていうのは、やっぱり好きなんじゃないのかい? 少々のことは我慢して思い切ってその先に進まなきゃ…」

と、こちらも細かい語呂の違いはあれ、毎回心にない言葉の羅列だった。

痺れを切らせたのは真美の方だったかも知れない。

「中野さんって…」
「ん?」
「…うん、いい…」
「なんだよ?」
「女心が分かんないんだな…って…」
「え?」
「もういい!」
「おい、なんだよ、こっちこそ分かんないよ。」

と言いつつもほころびる自分の口許…

「うん、とにかくさ、話聞いてやるから。」

やるから? …聞かせて下さいだろう…
真美のあの足の色が股間を撫でているじゃないか?



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