2003.06.06.

光梨の奇妙な日常
01
煙突掃除屋さん



■ AM6:15 起床

AM6:15 起床


 朝… 光梨の一日はベッドの中から始まる。
 天蓋の付いた豪奢なベッドには暖かくて清潔な真っ白い布団が敷き詰められていて、光梨の身体を包んでくれている。

 生まれた時から光梨はこのベッドで眠っている。中世を思わせるデザインと大きくて頑丈な作りは、この春に17歳を迎えようとする光梨の成長の歴史をしっかり受け止めてなお気品を失わない。高価なものである事は一目でわかる。

「…ん… …ん……」

 真っ白くて大きな枕に顔を埋めていた光梨はカーテンの隙間から差し込む光に気付いてうっすらと目を開けた。

「ん〜〜〜…」

 身体を横たえたまま、首だけをグルリと動かして枕元の目覚まし時計を見る……時計の針は6時15分……いつもの時間だ。目覚ましをかけなくてもこの時間に目覚めるのは光梨の自慢だった。多少夜更かしをした次の日でもスッキリと目覚めるのは光梨の若さの証明でもあるようだ。

「…おっはよ〜〜…」

 誰に言うでもなく光梨は朝の挨拶を口にした。ゆっくりと身体を起こすと、ショートカットの似合う頭をカリカリと掻いて……やおら元気にベッドの下に飛び降りる。

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

 光梨は大の字に身体を反らせて大きな伸びをする。ショートパンツから伸びる脚とTシャツを盛り上げる胸元が清々しく若さを主張する。
 光梨は寝乱れたベッドの上を手早く直して軽く体操を始めた。長身から伸びる手足が美しい…全体的にスレンダーな印象を与える光梨のプロポーションはテレビに出ているような女性たちと比べても何ら遜色は無い。もっとも本人は胸の小さいのを気にしているようだ。小さい、と言っても男性からみれば一番手頃なサイズ…つまりは抜群のバランスを誇っているのである。



「光梨さん。お目覚めになりましたか?」

 ドアをノックする音と共に星歌の声が聞こえてくる。

「うん。起きてるよ!」

 光梨の元気な返事を聞いて星歌が部屋に入ってきた。

「おはようございます。光梨さん。」

 星歌は笑顔でそう言うと運んできたティセットをベッドの脇のテーブルに置いた。
 星歌はこの屋敷の使用人…昔風に言うとメイドである。数年来、この屋敷に住み込みで働いており、年齢は23歳と若いが、家事の全般を取り仕切るメイド長でもある。
 光梨が中学生だった頃は「お嬢様」と呼んでいたのだが…高校生になった頃に「お嬢様」と呼ばれることに違和感を感じていた光梨から呼び方を改めるように言われて、今は「光梨さん」と呼んでいるのであった。

「今日は良い天気ですよ。昨日までの雨が嘘みたい…」

 そう言って星歌は淡いブルーのカーテンを開ける。昨日まで降り続いた雨が眼下の花壇や屋敷の塀を濡らしてはいるものの、空には雲も無く早朝の柔らかい日差しが庭を覆っている。

「ん〜〜〜〜〜〜〜… ホントだねぇ〜〜」

 光梨は頭の後ろで手を組み、もう一度大きな伸びをした。

「星歌さん。もう駿ちゃんは起きてるの?」

 窓から反対側の建物の2階の窓を見上げる。 ライトグレーのカーテンはまだ閉まったまま…寝坊がちな駿介のことだからまだ寝てるのか、それとも誰かが起こしている《最中》か…。

「駿介様はまだお休みだと思います。さきほど加奈お嬢様が起こしに行かれたようですよ?」

 星歌はまだ光梨のぬくもりの残るベッドシーツを手早く交換して小脇に抱えると光梨の方に向き直ってニコリと微笑んだ。

「また加奈お嬢様に先を越されてしまいましたね。」

「ん〜 もうちょっと早起きしなきゃいけないかぁ〜。」

 光梨は駿介の部屋の窓を恨めしそうに睨んでみた。

「最近、加奈お嬢様は学校でもおもてになるそうですね。昨日も男の子が加奈お嬢様の帰りを玄関のトコロで待ってたみたいですよ。」

 そうそう…確かにいた。クラブ活動を終えて帰ってきた光梨に加奈のことを聞いてきた男の子がいたっけ…。

「ずっと待ってらしたんですけど… 昨日は加奈お嬢様はピアノのレッスンの日でいらっしゃいましたから…」

 加奈は本格的に音楽を勉強している。学校では吹奏楽部に所属し、学校から帰れば夜遅くまでピアノのレッスンをしているのだ。

「可哀相に…いつまで待ってたんだろうね。」

 光梨は駿介の部屋の窓を見上げながら呟いた。同級生の男の子に告白されても加奈は興味ないんじゃないかな?だって……グレーのカーテンの向こうで行われているであろう行為を想像して光梨は微笑んだ。

「加奈お嬢様も凄くお綺麗になられましたからね。」

 シーツを抱えたまま星歌が光梨に微笑みかける。そうなのだ…光梨も加奈も近隣では有名な美少女だった。2人が高校生になった頃からラブレターは数知れず…呼び出しを受けて告白されるのもほぼ3日に一度…色々な男性が声を掛けてくる。中にはずっと年上の男性もいて時々困ってしまうのだが…。

「あ…駿ちゃん起きたみたいね。」

 2階の窓のカーテンが揺れて加奈の顔が覗いた。可愛いポニーテールが少し乱れ、少々上気した顔でカーテンを開けている。

「今朝は激しかったみたいね。駿ちゃん元気だなぁ〜。」

 窓を開ける加奈と目が合うと、光梨はおもむろに手でピストルの形を作って恥ずかしそうに微笑む加奈に向けた。


「BAN!!☆」



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