2009.04.12.

人妻と少女の淫獄
01
木暮香瑠



■ それぞれの思い1

「ごめんね、義姉さん。こんなことになっちゃって」
 目の前で微笑んでいる美香に、昇はコーヒーを啜りながら言う。
「ううん。いいのよ、ご両親も期待してんだから、昇ちゃんは勉強のことだけ考えてればいいの! 余計な遠慮は無しよ」
 美香は、目を細めニコリと笑顔を返した。

 そう言われても、義弟の昇はやっぱり遠慮してしまう。兄夫婦の家庭に居候する身としては……。
「はい、トーストが焼けたわよ」
 振り返る美香の胸がブルンと揺れる。そして焼きたてのトーストが、テーブルの上に置かれた。昇の視線は26歳の女盛りの若妻の胸元を、その視線を覚られないよう盗み見る。
「あっ、ありがとう……」
(義姉さん、本当に胸、でっかいな。振り返っただけであんなに揺れるなんて……)
 朝食のトーストを口に頬張りながらポーカーフェイスを装い、口には出せない思いを頭の中に巡らせた。

 この家は元々、昇の住み慣れた家ではある。しかし今は、昇の兄・翔一とその若妻・美香と昇の三人暮らしなのだ。両親がリフォームしたばかりの家と次男・昇を残して、地方にある事業所の所長として転勤してしまった。栄転といえばそうとも言える。しかし、定年まで地方の事業所の所長として一線から退くという玉虫色の人事だ。でも、出世欲の薄かった父親は、田舎ののどかな暮らしが気に入ったみたいで、定年後もあちらに住んでもいいと言い出している。園芸が趣味だった母親も、土地が十分あり野草に恵まれた田舎暮らしを楽しんでいる。

 引越しに当たり問題になったのが昇のこと、そして家の管理だ。人の住まなくなった家は、すぐに痛んでしまう。リフォームしたばかりの家を、使わずに痛ませるのは気が引ける。また、高校三年で受験を控えている昇。この時期に、高校を転校するのは勉強に支障をきたすだろう。そういう訳で昇は、この家に残ることになった。そして呼び戻されたのが長男夫婦の翔一と美香だった。通勤に少し時間は掛かるが、問題になるほどの時間でもない。それよりも都心の賃貸マンションよりは部屋も多いし、なんと言っても家賃が掛からない。家もリフォームしたばかりで、内装は新築に等しいくらいにキレイで、若夫婦にとっても好条件だった。

 昇にとっても不満は無かった。二年前、兄に初めて恋人の美香を紹介された時、その美貌とスタイルに魅了された。色白のキメ細かい肌、大きくふくよかな胸、引き締まった細い腰、張り出したお尻……、年頃の男性が思い浮かべる年上の女性の魅力を具現化したような女性だ。いつも微笑んでいるような優しい表情、笑うと綺麗に整えられた眉がちょこっと下がり可愛い笑顔になる。ツンッとしたところが無く、万人に愛される笑顔だ。兄の恋人でなかったら……、八歳も年上でなかったら……、もちろん一目惚れしていただろう。そんな憧れの義姉との暮らし……、問題があるとすれば義姉に気が行って勉強が疎かにならないかということだけだった。

 今朝も、夫の翔一はもう出かけている。通勤距離が遠くなった関係で、昇が起きる頃にちょうど家を出る。その為、朝食の時は義弟と二人っきりになる。仕事人間の夫は帰りも遅く、午後10時を過ぎることはざらである。時には12時を廻ることもある。今までは一人で食べる夕食に寂しさを感じていた。しかし今は、夕食も義弟と二人で摂ることが多い。寂しがり屋の美香にとっても、愛する夫の肉親が家にいることは、一人で夫の帰りを待つよりは寂しさが紛れて嬉しかった。昇も、本当の姉のように接してくれる。兄のお嫁さんでなかったら……、昇はそんなことも考えることもあるが、昇にとっても居心地のいい関係である。兄のお嫁さんであり、本当の姉のようでもある。美香も昇に、本当の弟のように接した。



「のぼるーー!」
 玄関から少女の声がする。
「学校、遅れるぞ!」
 昇が返事を返さないのに少し怒ったように大きな声で叫んでいるのは、幼馴染で同じ高校に通う秋山沙希だ。兄とは歳も離れてるせいもあり、昇は小さい頃から同い年の沙希と一緒に遊ぶことが多かった。公園で一緒に走り回り、オママゴトして遊んだ女の子は、今では手足が長く、すらりとした印象のモデル体形の少女へと成長していた。さほど身長は高くないが、バスケット部で鍛えた身体は弛んだ所が無く、10代後半の女の子らしい健康的なスレンダー美少女だ。
「沙希ちゃん、ごめんなさいね。昇君、もうすぐ来るから……」
 まず玄関に現れたのは美香だ。二人が挨拶を交わしている間に、昇も玄関に現れた。
「朝から五月蝿いなあ……」
 朝の心地よい情景を邪魔された邪魔された昇が、沙希を鬱陶しい気に睨む。
「起きてたんだ。寝坊してるかと思った」
 腰に両手を当て仁王立ちした沙希は、ちょっと拗ねたように口を尖らせ厭味を言い、視線を横にぷいっと逸らした。
「寝坊なんかするか!」
 昇もちょっと怒ったように言いながら靴を履く。
「そうだっけ? 美香さんが来るまでは、いつも寝坊してたじゃんっ!」
 本当は好ましいことではあるが、早起きすることが気に入らないかのように沙希は強い口調で言った。
「五月蝿い!! 行くぞ!」
 昇は、沙希を玄関に残したまま外へ飛び出した。
「ちょっと待ってよ!」
 昇の後を沙希が追いかける。
「お二人さん、行ってらっしゃい……」
 まるで兄妹喧嘩のような光景を、美香は優しい笑顔で見送った。



「ほんと、美香さんが来てから変わったね。朝だって早く起きるし……」
「そんなことねえよ。ただ、起こしてくれるだけさ」
「前だって、お母さんが起こしてたじゃない。でも全然起きないって困ってたわ」
 通学の途中も、兄妹喧嘩のような光景は続いている。沙希には、兄夫婦が戻って来てからの昇の変貌が気に入らない。寝坊した昇を起こすのが、沙希の日課になっていた。迎えに行くといつも寝ていて、昇のお母さんが沙希に起こすのを任せてくれていた。
「沙希ちゃん。昇、起こしてきて。歩きながら食べえるように、おにぎり作っておくから……」
 そう頼まれ、お母さんが朝食を準備している間に昇を起こすのだった。

 それが美香が来てからは、迎えに行くと昇は起きていた。
「もう起こしに来なくて良いから」
 そんなことまで昇に言われた。
「綺麗なお姉さんが出来ると、男って変わるんだね」
 皮肉を込めて沙希は言ったつもりだった。
「そうだな。美香さんって、本当に美人だよな。それに料理も旨いし」
「おばさんだって、料理上手だったじゃない」
「母さんの料理も不味くは無かったけど、やっぱ古いよな。義姉さんは、イタリアンや流行の料理……作ってくれるし、義姉さんの料理は見た目もお洒落で綺麗だし……」
 沙希の気持ちも判らずに、昇は美香を褒めちぎった。
「ねえ、今度の土曜日、買い物に付き合ってくれない?」
 沙希は昇が美香の話ばかりするのに嫌気が差し、話題を変える。
「土曜日はJリーグのテレビ見なくちゃいけないからダメ! レッズの試合の中継があるから!」
「じゃあ日曜日は?」
「日曜くらいゆっくり寝かせてくれよ」
「もういいっ!! 急ぐよ。遅刻しちゃうから!」
 二人の噛み合わない会話は、学校に着くまで続いた。

 沙希が脹れていると、校舎の方から男子生徒の声がする。
「昇!」
「武田!」
 遠くで昇を呼ぶ声がする。
「おう!」
 クラスメートの声に、昇は手を振って応えた。
「じゃあな、沙希っ」
 そういって男友達の待つ方へ駆けていった。

「おはよう」
「おはよう、沙希」
 沙希の女友達が駆け寄ってきた。
「今日も武田君と一緒に通学?」
「そうよ、武田君とはどうなってるの? 進展してる? 恋人なんでしょう」
 女友達は沙希を冷やかし、様子を伺うように顔を覗き込む。
「ちっ、違うよ! 幼馴染……、何回も言ってるじゃない、友達だよ、ただの……」
 口ではそう言ったものの、顔が熱を持ち頬が紅く染まる。
「それなら、そろそろ一人立ちしたら?」
 沙希の煮え切らない態度に、冷たい一言をかける。
「そうそう、沙希はもてるんだから。武田君がいなかったら、すぐに恋人出来るのに……」
「サッカー部のキャプテンからの誘い、どうしたの?」
「どうもこうも、ちゃんとお断りしたわ」
 沙希は世話焼きの友達に、ちょっと怒ったようにきっぱりと言う。
「断ったの? 勿体ない! 彼、かっこいいし頭だって結構良いのに……」
 沙希が振り返り見詰める先には、クラスメートと楽しそうに笑い合う昇の後姿が映っていた。

 沙希の視線など気付かず、昇は男友達とふざけあっていた。
「昇、今日も沙希と一緒かよ。沙希なら、お前の童貞、貰ってくれるんじゃないか?」
「恋人にしちゃえよ。沙希だったら十分じゃないか? 顔だって可愛いし、性格だって明るくて優しくて……」
「ヤダよ。胸無いし、色気も無いし……。やっぱり胸は、揺れるくらいなくちゃな!」
 親友達の羨む気持ちなど知らず、今朝の光景、義姉の揺れる胸を思い出しながら言い返した。幼馴染を褒められることは嬉しいことではあったが、昇にとっては沙希が身近にいることはあまりに自然で、女として見ることが出来なかった。
「贅沢なヤツだな。沙希の胸、結構形良いぜ。ちょうど掌に収まる大きさで、揉み心地良さそうじゃん」
「まあそうかもしれないけど、俺は大きくて柔らかいのが良いな」
「沙希のは堅そうじゃねえか? もっと大きくて柔らかいのが良いだろ」
 青春真っ盛りの少年達は、見たことのない胸の形や感触まで服の上から想像する妄想で会話が成立していく。
「お前にその気が無いなら、俺が奪っちゃうぞ」
「ああ、どうぞ。……俺から言っといてやろうか? お前が好きだって言ってたって?」
 人気の幼馴染がいるという優越感が気を大きくさせ、昇にこんなことまで言わせてしまう。どんなことがあっても、沙希がいなくなることなんて無いだろうという根拠の無い思いがあった。それほど沙希の存在は、昇にとって日常的で空気のような存在だった。

キーン、コーン、カーン、コーン

「さあ、行こうぜ」
「ああっ」
 生徒達は、予鈴のチャイムに急かされるように校舎に吸い込まれていく。



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