2003.02.10.

青春の陽炎
01
横尾茂明



■ プロローグ

 教室の窓から晩秋の光が、マサルの横顔を照らしていた。
しかしその横顔は、明るい光とは逆に憂鬱に曇っている。

 マサルは、朝出かけに母親からひどく叱責された。
マサルは今年高校3年であり、来年は早稲田を受験するつもりでいたが……。
先週の終わりに、塾の講師に
「もう少し手堅い私大を選んだ方がいいのでは」
と言われ、この件を同塾に行っている孝の母親がマサルの母にもらしたらしく、昨夜から母は大荒れなのである。

 マサルの母は御多分にもれずの教育ママであり、他人から息子の体たらくを知らされた事で、今朝も出かけに、厳しくこれからの勉強方法を教示したのであったが……。
マサルは話半分で、家を飛び出して来たのだった。
背中で
「寄り道しないで早く帰ってらっしゃい!」
と母のヒステリックな声を聞きながら、マサルは自転車に飛び乗った。

「出席を取ります」
の声にふと我に返り、声の方を向いた。
美しい人……、眩しい程の美しさ……、この世にビーナスと形容するものが有れば、それは目の前の由紀先生ではないかとマサルは思えた。

 朝日に照らされた先生の姿はキラキラ輝き、憂いを含んだ眼差しと首から二の腕にかけての淡い白さ、肌の木目細かさは、全体の透き通るような印象を、神々しいまでに輝かせていた。

 マサルは1時間目のホームルームを、朝の憂鬱を忘れたいがためか、目は憧れの由紀先生の姿を追い続けていた。だから内容は殆ど聞いていなかったと言える。

 「マサル君!君の意見はどうですか?」
の声で我に返り……、先生を凝視した。
「あのー、なんの意見?」
……このマサルのトンチンカンな返答に教室中がドッと沸き、ついで孝の
「また見とれていたのかー!」
の言葉で、教室中に笑いがさらに広がった。

 先生は先ほどまでの優しい顔から少し厳しい表情になり、
「皆さん! 静かに」
「マサル君! これが終わったら職員室に来て下さいね!」

 1時間目のチャイムが鳴り、教室中の皆に揶揄されながらマサルはトボトボと職員室に向かった。
由紀先生は、職員室の入口近くの席であり、眼鏡を掛けて書類に目を通していた。

 マサルはオズオズと席に進み……、
「あのー来ましたが」
手揉み姿勢で先生に近づいた。
先生の後ろに立ったとき……、マサルは反射的に、
【アーこの匂いだ。この匂いの記憶を必死に呼び起こし、先生の名を口にしながら何度オナニーの快感に耽った事だろう】
とズボンの前が膨らむのを感じた。

 振り向いた先生は、先ほどの厳しい顔からいつもの優しい顔に戻っていて、
「マサル君!ちゃんと聞いてないとダメじゃないの」
「勉強の方、最近成績が落ちているみたいだけど、何か悩み事でも有るの?」
と優しく聞いた。

 マサルは
「先生のせいだよ」
と思いつつも、最近疲れちゃってと訳の分からない言葉で頭を掻いた。

 「それなら今度、先生の家に遊びに来ない?」
と唐突な先生の笑顔。
マサルは我が耳を疑い
「エッ! 行ってもいいんですか」 と満面の笑みを浮かばせながら、先生の次の言葉を待った。

「今度の日曜、クラスの料理好きな女の子たちが、先生んちで何か美味しい物を作ってくれるんだって。マサル君もいらっしゃいナ……」

 だいぶマサルの期待とは外れるものがあったが……、少しでも先生の近くにいることが出来れば、マサルにとっては天にも昇る誘いで有った。

 「是非行きます」
と言って、朝からの憂鬱気分が一度に晴れる思いで職員室を後にした。

 由紀先生はマサルと別れ際……、一瞬顔が曇り……、思い詰めた顔になった。
そしてしばらく躊躇し……、
「何でも無いの」
と歯切れの悪い感じで再び書類に目を落とした。
マサルは気にはなったが、それよりも今度の日曜日に先生の家に呼ばれた事が心を有頂天にして、スキップを踏みたい喜びを押さえて教室に向かった。

 その夜……、マサルと由紀の運命を変える事態が持ち上がろうとは……。この時は二人とも予想だにしなかった………。



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