2002.5.30.

悪魔のメール
01
木暮香瑠



■ プロローグ1

美樹

「美樹! 待って……」
 深谷美樹は、今井由布子の声に振り返った。背中に流れる長い髪がふわっと翻る。校門から、同じクラスの由布子が、ショートヘアを風になびかせて駈けてくる。美樹は、由布子が来るのを待った。
「はあ、はあ、はあ、美樹、一緒に帰ろう」
「由布子、今日は部活ないの?」
「うん、今日はお休み。顧問の高橋先生、研修でいないんだ」
 美樹と由布子は、久しぶりに一緒に帰ることになった。

 美樹と由布子は、中学生の頃からの親友だった。高校生になってからは、部活をしていない美樹と、ブラスバンド部に属している由布子が一緒に帰ることは滅多になくなっていた。中学の頃は、美樹もブラスバンド部に入っていた為、いつも一緒に帰っていた。いまでも交友は続いていた。親友と呼べる仲である。いつも電話で、恋の相談や学校の相談をし合っていた。

「美樹、博史君とはどうなの? うまくいってる?」
「うん、うまくいってるよ」
 宮本博史は、美樹の恋人である。博史から恋を打ち明けられたとき、美樹は由布子に相談した。おとなしく内気な美樹に恋人ができたのも、由布子のアドバイスのお陰かもしれない。由布子のアドバイスがなければ、迷ったあげく最初の一歩が踏み出せず、恋人のいない高校生活を送っていただろう。由布子のアドバイスがあって、美樹は博史と付き合いだしたのだ。
「でも残念だね、一緒に帰れなくて。博史君、部活でいつも遅いでしょ。わたしが帰る頃、いつも、まだ練習してるもん」
 テニス部の博史は、練習が忙しく、デートする機会も少ないのも本当だった。同じクラスなのだが、教室では話をすることも滅多にない。クラスメートに冷やかされるのを嫌い、内緒にしている。平日は、電話位しか話をしていない。それでも、美樹は満足だった。キスさえまだの二人だったが、博史は美樹にやさしく接してくれる。美樹には、月に2・3回のデートで幸せを感じられた。
「うん、今度の大会に備えて、土日も練習してるみたい……。レギュラーにも選ばれたみたいだし……」
 美樹は、由布子に微笑みながら答えた。博史の話をするときは、いつも幸せそうな笑顔を由布子に向けた。由布子は、羨ましそうに言った。
「ごちそう様。ほんと、幸せそうね。博史君、かっこいいし、やさしいし……、わたしにも彼みたいな恋人、出来ないかな?」
 美樹には、由布子に恋人がいないのが不思議だった。ボーイッシュで活発な由布子に憧れている同級生も多い。恋人ができないというより、恋人を作らないといったほうが当たっているような気がする。美樹には、なぜ恋人を作らないのかは判らない。
「由布子なら、きっとできるよ。素敵な恋人が……」
 美樹は、微笑みながら答えた。

 美樹と由布子は、その後、他愛もない話をしながら学校を後にした。



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