■ 第一章 「第一の願い」
「まさるくん、どうしたの? 早く入れて」
昼休み、学科一、とぼくは思っているかわいい子、あいかが、教室の椅子何人か分に一糸まとわぬ姿で横になって、股をM字に開いている。普段の清楚なイメージからこんな姿は妄想すらできなかった。
きれいだ……想像以上のきれいな肌。小さいけれど形のいい胸、乳首ははっきりと立っている。そして目を足のほうに移すと、きれいに手入れされた陰毛。そして、その中心の割れ目! きれいなピンク色だ。その上には白っぽい突起。僕はさっきまでずっと触っていた。触るたびにあいかは、これまでビデオでしか聞いたことの無いような声を上げていた。割れ目の中は、もうグチョグチョだった。
僕もあいかに脱がされて全裸になっている。僕の棒はもうはちきれそうだ。さっきまであいかが揉んだりしごいたりしていた僕の棒からはうっすらと液が出ていた。
一つ前の席では、親友のすすむが、あいかの親友、しほと全裸で絡み合っている。
教室を見渡すと、他にも二、三組が絡み合っている。
他の人は、これを見ても誰も不思議そうにしていない。
こんなこと、今朝まで想像もできなかった。
僕はまさるという。大学三年生。
今日は授業は午後からだった。ぼくは十時すぎに起きて、朝昼兼用の食パンをかじり終わった。
授業までまだ間がある。オナニーでもしようかな。
そのとき、ドアをたたく音がした。
「おはよう。すすむだけど。ドアの前に変なやかんがあるけど、まさるの?」
親友のすすむは、このボロアパートの隣の部屋に住んでいる。
やかん?? 僕は首をかしげながらもドアを開けた。
「おはよう」
すすむが手に持っているやかんはボロかった。なのに、なぜか僕はそのやかんがものすごく貴重なものに思えた。
「まあ、入れよ」
僕とすすむはやかんをはさんで向かい合った。
すすむはやかんを開けようとする。
「なかなか開かないなあ」
「貸してみ、ねじれば開く……ほら、開いた」
僕はボロいやかんのふたを開けた。
とたんに、稲妻が走って、雷が鳴ったような音がした。そして、黒く、翼を持った影がやかんから現れた。
「おおっ、何だ??」
二人は同時に言った。
黒い影は調子のいい声で答えた。
「私は悪魔です。おめでとうございます。あなたがた二人は多くの方の中から選ばれました。私と契約していただけますと、私はあなたがたの三つの願いをかなえて差し上げます」
後から考えると、ここで何でやかんから「悪魔」が出てきて何も不思議に思わなかったのかよく分からない。悪魔の魔力にかかったのかもしれない。
「やっぱり、カネを下さい、と言ってみようか」
すすむが言った。すすむはもう願いを考えているのか。
「カネをもらってどうする? 車を買って、あと貯金でもするか?」
僕らは、ボロアパートに住んではいるが、一応仕送りはもらって、食べるのに困っているわけではないし、すぐほしいものもそんなに無い。まあ、車はほしいかな。彼女できたらドライブ……そして車の中で……
僕は頭を振って、車への幻想を振り払った。
「それにせっかくの悪魔との契約だ。一回カネをもらうだけではもったいない。」
すすむはちょっと考えて、
「それなら、たとえば一日百万円、ずっと下さい、というのは?」
僕はちょっとあきれた。
「お前、経済学ちゃんと取ったのか? もし悪魔が気前良く多くの人に一日百万円配ったらどうなる? 円の価値は下がり、ものすごいインフレだぞ。ジュース一杯百万円になったらどうする?」
悪魔は言った。
「お客様、さすが最高学府の方。よくお考えで」
すすむは僕の言葉にちょっとムッとしたようだった。
「じゃあ、まさるはどういう願いなんだよ?」
……願い……そもそも、願っていいのだろうか?願いをかなえる代わりに悪魔に魂を取られたりしないか?
僕は悪魔に向かって聞いた。
「悪魔さん、三つの願いをかなえる、とおっしゃいましたね。そういう契約と引き換えに魂を取られるのですか?」
悪魔は、丁寧に頭を下げた。
「いえいえ、近年の悪魔は魂を取るなどとはいたしません。本当はこのようなこと申し上げないのですが、いろいろお考えのお客様に特別にご説明申し上げます。たとえば、あなた方が車を望んだとしましょう。私は車を出せますよ。その結果、あなた方は歩くことが少なくなるでしょう。そういう、皆さんが堕落していくことが、私たち悪魔が契約と引き換えに受け取るものなのです!」
悪魔は胸を張って言った。しかし、普通話さないことを言い過ぎた、と思ったのかその後下を向いた。
「堕落かぁ……」
車に乗って歩くことが少なくなるのが堕落? そのくらいの堕落だったら別にしてもいいか。でももっと大きい堕落だったら……
「是非、契約してくださいよ。今なら、お二人にティッシュ五箱づつ差し上げます。あと、よみ○○ランドのプール ペアチケットを二組差し上げますよ。プール開くのは来月ですが今から夏が楽しみでしょう」
「ティッシュ下さるんですか。ちょうどコキティッシュがなくなりかけていたんですよ」
すすむが言った。ノー天気な奴だ。
でも僕も、いつの間にか“少しくらい堕落してもいいか”と思って願いを真剣に考え始めていた。
決して物に釣られたわけではない。
僕は考えた。僕は、そしてすすむも、彼女いない歴が年齢と同じだ。お互い顔が悪いとは思ってない。ただ、踏み出す勇気が多分僕たちには足りなかったのかもしれない。
「彼女ほしいな。あいかさんみたいな子が彼女だったらなぁ……」
すすむはちょっと笑った。
「お前、あいかさん狙っていたのか? さっきのせりふ返すぞ。せっかくの悪魔との契約だ、あいかさんを彼女にする、ではもったいない。あいかさんが期待はずれだったらどうする?」
「なるほど。すすむ、お前にしては良く考えてるな。」
「お前と一緒にいれば少しは伝染るぞ。それにこないだの就職講座でも言われたろう。“就活は会社に入るのが目的じゃない。同じように、何かやるときは、本当の目的を考えろ”って。彼女作るのは本当の目的か? お前は彼女作って何がしたい? 本音で」
……僕はちょっと考えた。
「一緒に食事して、デートして……やっぱり……セックスしたい」
僕は、赤面しながら、それでもきっぱりと言った。
「そうだろう。だから、願いはセックスできるようにするのがいいと思うぞ。
セックスやり放題、というのはどうだろう?」
すすむはそう言った。
セックスやり放題……一瞬、僕はその考えに飛びつきそうになった。僕も、そして多分すすむも童貞だ。
でも、すぐに考えて思いとどまった。
「そういって、たとえばソープ行き放題の券とか出てきてもつまらないだろ。僕はあいかさんとやりたいんだ。お前もやりたい子がいるだろう」
「おお、俺はしほさんとやりたい。」
しほは、ちょっと男っぽい感じがするが、その分話していて緊張しない。女子にとってもそうらしく、男女共に人気がある子だ。すすむが狙っているのも聞いている。
すすむは言った。
「じゃあ、いつでも、だれとでもセックスできること、とかは?」
僕はちょっと考えた。
「それでは、きっと“いつでも”と“だれとでも”で二つ分の願いになってしまいそうだ。限られた願いを大切に使おう。
その内容を一つにまとめられないかなあ……セックスというもの自体を気軽なものにする……
悪魔さん、セックスを気軽なものにする、なんていうのはどうですか?」
僕は聞いた。
「お客様、どの程度気軽にするか指定していただかないと、こちらとしても難しいのですが。たとえば、何とかと同じ程度にする、ですとか」
悪魔は丁寧に言った。もっともだ。
僕らはあいかとしほと普段どんなことをしているか考えてみた。
大学で会ったら、世間話くらいはする。
帰りは四人で、大学から一緒に帰ってくる……あいかとしほは同じ学科だから授業が終わるのも一緒で、向かいの大学女子寮に住んでいるから方向が一緒、ということで自然に一緒に帰るようになっていた……そのときも普通に話しながら帰ってくる。
「セックスが話すくらい気軽にできるように!」
僕とすすむは同時に言った。
僕らは、これはいいアイディアだと思った。想像してもう棒が大きくなっていた。
「それだ、話す!! セックスが話すくらいに気軽にできること……でも、僕たちだけではきっと後でばちが当たる。
“セックスが話すと同じくらい気軽にできる世界”これでいこう」
「おお!」
「悪魔さん、第一の願いを決めました。“セックスが話すことと同じくらい気軽にできる世界”にしてください。この願いは大丈夫ですか?」
悪魔はうやうやしく頭を下げた。
「かしこまりました。ただし、注意事項があります。このタイプの願いですといきなり世界を変えるとギャップが大きいので、他の方々に“きのうまでもそういう世界だった”という架空の記憶を植えつけることになります。お客様も、きのうまでもそういう世界だった、と思って行動してください。よろしいでしょうか?」
「はい」
答えながらも、僕の棒はいっぱいに大きくなっているのを感じた。
悪魔は言った。
「それでは、お客様、ここに願いを書き、ハンコをお願いします。」
小さい紙を差し出された。三つの記入欄と捺印欄があった。僕は“セックスが話すことと同じくらい気軽にできる世界”と書いて、奥の引き出しからハンコを取り出し、強く押した。
悪魔はまたうやうやしく頭を下げた。
「ありがとうございます。第一の願い“セックスが話すことと同じくらい気軽にできる世界”受け付けさせていただきました」
ここでまた稲妻が走り、雷が鳴ったような音がした。
「では、次の願いお決まりの時に、またふたを開けてください」
そういって悪魔は、ティッシュ十箱と券四枚を残してやかんの中にもどっていった。
|