2001.1.20.

悠美、大騒動
001
木暮香瑠



■ プレゼントは何?1

 明日から高校生活最後の夏休みである。

 終業式が終わり、悠美は友人の真由美と学校の帰り、ハンバーガーショップで寄り道をしている。悠美は、背中まである長い髪をポニーテールにまとめてある。前髪は眉毛のところで切り揃えられていて、いまどきの18歳にしてはおとなしい感じだ。しかし、なにを考えてるのか分からないところがあり、宇宙人とか言われることがある。黙っていれば、いかにも学校の制服が似合うタイプだ。肩までの髪に軽くウェーブをかけた、ちょっと派手めの真由美とは中学校からの友人だ。

 二人は他愛のない話で盛り上がっていた。
「ねえ、悠美。明日は賢一くんの誕生日じゃない?」
 真由美が聞いてきた。悠美と賢一は、高校一年から付き合いだして、もう、3年目になる。
「うん、そうだよ」
「何かプレゼントするの?」
「うん、何にしようか考えてるの。家に帰ってから何か買いに行くわ」
「えぇ? まだ決めてないの」
 驚いたように悠美ため息を吐く。
「ねぇ、あなたたち、キスくらいは済ましてるんでしょ?
 まさか、まだなんてことはないよね」
「そっ、そんな事ないわよ……。
 キスくらいしてるわよ」
 鋭いところを衝かれて、悠美は頬を赤くした。
 実際、キスは済ましている。去年の夏、花火大会に2人で行った時、河原で突然キスされた。その時は、びっくりし、その後、下を向いたまま何もしゃべれなかった。賢一も初めてのキスだったようで、変に緊張していて、何もしゃべらないまま帰った。それからは、キスをするチャンスは何度かあったが、2人とも緊張し、キスもしないまま付き合いが続いている。悠美自身、このままでいいのかなと疑問には思っていた。
 真由美は、何か見透かしたように、
「ほんとぉ? でも、その様子じゃ、Hはまだみたいね。
 そろそろいいんじゃない? 3年目になるんでしょ? 付き合いだして……」
「そっ、そうかな」
「そうよ。3ヶ月も付き合えばH位するんじゃない?」
「えっ、真由美そうなの? いま付き合ってる彼とも?」
「うぅーん。彼とは先週のデートで……」
 真由美はにこっとして甘い声で答えた。悠美は続けて聞いた。
「彼とは、まだ、1っヶ月も付き合ってないんじゃない? その前の彼とも?」
「相性があえばそれでいいのよ。でも、前の彼は、1年付き合って3回しかしてないわよ」
 真由美は、当然のことのように言い放った。
「また処女じゃないでしょうね」
 真由美が鋭いところを付いて来た。
「しょ、処女よ。なにか変?」
「私たち、もう、18よ。まだ、処女ですってのもねぇ……」
「オナニーならしてるわよ」
「ナマとオナニーは違うわよ。そう、温かさが違うのよね。愛されてるって感じ?」
「へぇーー」
 悠美は、真由美の夢見るような語り口にあきれてた。
「ねぇ、悠美。なに使ってんの?」
「なに使うって」
「オナニーによ」
「指使うこともあるし……、最近はこれ、あんま機、これ、すごいよ」
 悠美は、ポータブルのあんま機をカバンの中から取り出して見せた。OLたちの間で流行っている、親指くらいの太さのあんま機だ。手軽に肩に当てて、凝りを癒せるところが受けている。
「これにね、ゴムかぶせて挿入するの」
 そういって、ゴムことコンドームの入った銀色の包みを見せる。
 それを見て真由美は、
「やばいよ、それ……。結構きついでしょう。そんなに刺激したら、本番で感じなくなっちゃうよ。せめて、きゅうりくらいにしておきなさいよ」
「最近、それじゅぁ、まどろっこしくて……。きゅうりは動いてくれないんだもん」
 真由美は冗談のつもりで言ったのだが、悠美には冗談は通じなかった。
「えっ? きゅうりもやったことあるの?」
 呆れ顔の真由美だが、これはいつものことである。気を取り直して真由美は話を続ける。
「でも、それくらいがいいのよ。男がそんなに速く動けるわけないじゃない。
 要は、愛よ。愛されてるって想いが感じるのよ」
 経験者にそう言われると、未経験の悠美にはそんなものかなと思うしかなかった。それから、しばらくは下ねたで盛り上がっていたが、また、悠美の彼の誕生日プレゼントの話に戻った。
「今年の誕生日プレゼントは、わたしよって言ってみたら? いまどき、処女です、なんて流行らないわよ」
 真由美が冗談めかしていった。悠美は、
「やだぁー」
と、言ってはみたものの、誕生日プレゼントのいい案は無かった。

 真由美とは、しばらく他愛の無い話をして別れた。分かれ際に、
「がんばって……」
と、真由美からウインクをされ励まされた。悠美には、がんばって処女を賢一くんにあげたらって言ってるように感じた。

 家に帰った悠美は、ミニスカートとTシャツに着替えて、賢一へのプレゼントを探しに出かけた。



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