2009.05.06.

楽園の底
02
なすの子



■ プロローグ2

 ロイド眼鏡の老人は口を開いた。
「やはり、君は異界の住人なんだね」
 老人はひとが良さそうな朗らかな表情のまま、悪魔に話しかけた。
「いかいのじゅうにん…?」
「そう。今まで君が生きていた場所は、この世界ではないということだ」
 悪魔は形容し難い不安に襲われた。
「どうしてそんなことがわかる?」
「君のその赤い目は、私達の世界にはないからだ。そして決定的なのは、先程君が口にしたスープに関わることだ」
 思わずスープに目をやる悪魔。
「このスープは特殊な鶏肉を出しに使っている。鈍鳥(にびどり)という鳥の肉だ。鈍鳥と名付けられているその鳥は、古(いにしえ)に枝分れした、我々と同じ祖先をもつ動物なのだ」
 老人は悪魔を見ながら話を続けた。
「この鳥は別名、牢記鳥(ろうきちょう)とも呼ばれる。伝承では、我々が忘れてしまった文明や古来の使っている言語において記憶していると言われる」
 悪魔はスープを口にしてから、この世界で言葉が話せるようになったことを反芻した。
「伝承の一説では、異界のものに言葉を授けるとも聞く。また、我々の世界では赤子は異界からのビジターという宗旨がある。だから私たちの種族の風習には、赤子に鈍鳥の肉を磨り潰したものを与えるというものがある」
 悪魔は少女を流し目に見た。少女は老人から事情を知らされていないようで、当惑した様子だった。
「君はいわば、赤子と同じ存在だ。年は、15歳のハミネと同じくらいに見えるが、語学は赤ん坊に等しい」
 老人は顔を曇らせた。
「いや、失礼だったね」
 唐突に悪魔は老人を指差した。
「おまえは…?」
「ん? 私の名前かい? そういえば、名前を言いそびれていたね。私はカイエという者だ」
「かいえ」
 悪魔は老人に指を差しながら反復した。
「そうだ」
そう言って老人はにこやかに微笑すると、椅子から立ち上がった。
「今日はもう遅い。君は私の家に泊まっていきなさい」
 老人は悪魔に言った。少女は椅子を立ち上がると、悪魔の傍らに寄った。
「ねえ。カイエおじいさん。このひとに名前を付けてあげましょうよ」
老人は椅子をテーブルに仕舞うと、悪魔を見ながら腕を組んだ。
「そうか…。確かに、いつまでもキミと呼ぶわけにはいかないな」
 老人も悪魔の側に歩み寄って、悪魔と視線を合わせるように膝を屈める。
「君はどんな名前がいい…?」
 老人が悪魔を見る。少女も悪魔の顔を差し覗く。
「おれは、ハミネがつけてくれればいい」
「えっ!?」
 悪魔の言葉に、少女は突拍子もない声を上げた。
「わたしが付けちゃっていいの?」
 悪魔が少女に対して頷く。少女は悪魔の反応を見て、自分の顎に手先を添えた。
「そうだなあ…。ううん」
 少女は、しばらく無言で考えた後、閃いたように手を打った。
「そうだ。トルスなんて、どうかな!?」
 少女は悪魔と老人を見回しながら言った。
「うん。いい名だ」
 老人は頷く。悪魔も頷いた。悪魔が頷いたのを見て、少女は悪魔と両手を握り合う。
「よろしくね。トルス」
 名前を得た悪魔は、今まで生きていて初めて笑ったように見えた。

 外は既に更けている。希薄な雲が半月を過ぎ去っていく。月下に建つ木造の蒲鉾屋根の一軒家。開き戸の玄関の左にある源氏窓には僅かに明かりがこぼれている。源氏窓の向こうは台所に繋がっている。台所には疎らにランプがぶら下がっている。その中のランプの周辺を、淡黄色の蛾が変則的な羽ばたきで飛行している。そのランプの火屋をカイエ老人が取り外して、揺れる灯火に息を吹き掛けた。刹那に灯火は消え、蛾の姿は見えなくなった。台所の西側にある浴槽に繋がる扉が開き、中からハミネが出てきた。湯上りに、ハミネはフリルをあしらった白地の寝巻きに着替えていた。付け加えて、念入りにブラッシングしただろう亜麻色の長髪をポニーテールに結っていた。ハミネは台所の北側に隣接する寝室に向っているようだ。三つ目のランプを吹き消したカイエ老人に会釈をして、北側の木戸に向う。開(はだ)けた襟元のあったまった肌から湯気がたつ。ハミネをハミングしながら木戸を開き、仄暗い寝室に足を踏み入れていった。潜った扉の方に向き直り、カイエ老人を見ながらそっと扉を閉める。部屋の入口を背にして左側の片隅に、踏み台の上の油皿に点る種火がある。ハミネは種火に向って、油皿を取ると天井の吊りランプに点火した。光で、ランプシェードに細工された市松模様が部屋の至るところに投影される。寝室は、入口を背にして右の斜交いにソファーベッドが置かれている。ベッドの左側には、収納ケースが置かれている。そのまた左側には二メートルあるクロゼットが置かれている。ソファーベッドの上には、ウールの毛布に包まったトルスが、横たわって静かに寝息をたてていた。ハミネは油皿を踏み台の上に戻した。そして、トルスの寝るソファーベッドに忍び寄った。身体が触れないように、慎重にベッドの上へ両膝を順に乗せていくハミネ。ハミネは毛布の裾を捲って、埋まっていたトルスの横顔を出した。黒焦げた長髪は、縮れ毛で相当に傷んでいるようにようだった。ハミネは刺激しないようにトルスの横顔をそっと撫でた。そして、捲った毛布の間隙に自分の足先を慎重に入れる。ハミネは、トルスに寄り添う格好で、ベッドに横たわった。ハミネは上になっている左手で、トルスの黒い長髪を撫で下ろしながら、僅かに目を閉じた。すると、不意にトルスが寝返りを打ち、ハミネと向かい合った。ハミネははっと気が付いて、目をぱっちり覚ました。そして、仮にも異性であるトルスと二人きりで寝ていることを意識し始めた。その途端ハミネは、心臓の拍動が加速していくのを感じていた。どきどき血流が脈打って、中々寝付けなくなったハミネは、さらに卑猥な妄想に駆られたのだろう。トルスは男だから、付いてるものがあるはず、ハミネはそんな好奇心を抱いたのかもしれない。ハミネは左手をそっと毛布の中に埋め、トルスの下半身に向って忍ばせた。ハミネは自分の不貞を窘めながらも、昂る好奇心を抑えることが出来ない。指先が別の生き物のように、未知との遭遇を心待ちにして足掻く。ついにトルスの下半身と思われる部位に指先が接触する。ハミネは指先から脳髄に向って鋭く電気が流れるのを感じた。蒸し蒸しの頭では、最早健全な思考ができなくなっている。先程触れたのが太股だとわかると、その少し上の柔和な盛り上りを掌で覆った。これが男の人のアソコなんだ、とハミネは弛緩した陰茎の感触を噛み締めているに違いない。ハミネは思い切り頬を真っ赤に過熱させて、口を半開きにする。吐息をつきながら、下半身とトルスの表情を見比べだした。トルスの半ズボンのチャックを指先で器用に扱って下ろした。そして、迷うことなく手先をズボンの中に侵入させて、トルスの陰茎を掌で包み込む。
「トルスのおちんちん…可愛い。フフフ」
 ハミネはまどろんだ表情で、眉を縮ませるトルスを眺めた。トルスは身体の違和感から目を覚ましかけていた。しかし初めは何が起こっているのか把握できなかった。しかし陰部に纏わり付くイヤラシイ感覚に、奔るように意識が明晰になった。
「は、ハミネ…!? こ、これは!?」
 トルスが目覚めてもハミネは扱(しご)きを止めようとしない。況(ま)して、扱く動作を加速させた。
「やっと起きたんだね」
 ハミネは頬を桃色に染めながら、暢気に微笑んでみせる。
「こ、これはどういうことだ…!?」
 トルスが取り乱していると、ハミネは冷静に人差し指をトルスの口に突き立てた。
「しい…。カイエおじいさんが部屋に来ちゃうよ?」
「だ、だって…これは」
「トルスがいけないんだから」
「え?」
 トルスが素っ頓狂な声を上げた。
「トルスがイヤラシイおちんちんをしているからだよ」
そ、そんなあ…!? 声には出さずに心の中で、トルスは叫ぶしかなかった。

 トルスとハミネは至近距離で危険な息遣いを交差させていた。言わずもがな、二人の吐息は熱を帯びている。ハミネは妖しく目を光らせ、トルスに顔を近づける。トルスは肉感的に潤んだハミネの唇に魅入った。ぐいぐいと肉薄する稚(いわけ)ないハミネの唇。トルスは拒むことなく、ハミネの唇に口をつけた。突っ突きあうような接吻を何度か続けた後、お互いの上唇と下唇を口腔で愛撫する。ハミネが更に口を押し付けて、トルスの口腔に舌先を侵入させた。トルスの口内で尻込み気味のトルスの舌を強引に絡め取る。トルスとハミネはイヤラシイ舌の抱擁をしばらく続けると、お互いの唇を離した。二人の舌先から粘っこい唾液の筋が伸びる。きょとんと見つめるトルスに、ハミネは照れ笑いを浮かべた。
「初めて大人のキスしちゃった…」
「初めて…? なんで知ってるの?」
「いつも、お父さんのとお母さんの、見てるもん」
 二人は顔を見合わせて、再びキスをした。そして、ハミネは左手に握ったトルスの陰茎を扱きだした。トルスの陰茎は、ハミネの柔らかい指先に刺激されて、反応していた。
「うう…」
 トルスが唸るとハミネはクスクスと笑った。
「トルスのおちんちん、大きくなったよ…? 可愛い」
 唐突にハミネは、自分の身体の下敷きになっている右手でトルスの右腕を掴んだ。ハミネは、トルスの右腕を自分のお腹の下に潜らせる。ハミネは、トルスに意味深な目配せをして、頬を赤らめた。
「トルスも弄られるだけじゃ、いやだよね?」
「え?」
「わたしにも、トルスと同じくらい恥ずかしいところがあるの。だから、弄っても良いんだよ…? 好きなようにいじめて」
 上目遣いに微笑みかけるハミネ。トルスは至上の興奮で肺が逼迫し、息を切らしながら、暗闇に紛れたハミネの下半身に視線を落とした。最早、ハミネの右手が誘導するまでもなく、トルスの手先はハミネのズボンの穿き口から差し込まれた。トルスの指先はハミネのズボンの中を浮遊した後、しっかりとショーツの盛り上りを探り当てた。
「あう…!」
 思わず嬌声を上げるハミネ。トルスは更に刺激を送ろうと五指を出鱈目に動かし、ショーツに指先を食い込ませる。
「んん…!」
 ハミネは必死に快楽と恥ずかしさを堪えているようだった。そんなハミネの姿に、トルスは欲情した。感度がいい箇所を探るように、ショーツの盛り上りを指を突き立てて縦軸になぞる。
「あん…あ。お豆に当たる…う」
 ハミネも負けじと、左手で更に激しく陰茎を扱く。トルスの陰茎は一段と硬さを増し、先端の傘は窮屈そうに皮を押し退けた。
「トルスのおちんちん、すごい。大きくなってる」
 一方、ハミネのショーツの底は随分湿ってきた。トルスは、ついにハミネのショーツの中に指先を潜らせ、淡い陰毛を掻き分け直に陰唇を刺激した。
「ああ…! トルス。トルス…う!」
「ん…。ハミネのすごくイヤラシイよ。ああ!」
 ハミネはトルスの胸板に頭を沈めて、快楽に身を委ねる。毛布の中で激しく髪を振り乱した。トルスは丸まったハミネの背中に手持ち無沙汰な左手を引っ掛け、更に抱き寄せた。
「ハミネ…。気持ち良いよ。イきそうだ…!」
「わたしも…! ああ! ん…う。あん! イく…うう!!」
 トルスは、人差し指と中指をずぶりと膣に差し込み、小刻みに蠕動させる。ハミネはズボンから陰茎を引っ張り出し、今度は両手を使って激しく擦り合わせる。
「イくうううううう!!」
 トルスとハミネはお互いのオーガズムをシンクロさせて、叫んだ。



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