2010.08.25.

隷属姉妹
003
MIN


■ 第1章 悪夢の始まり2

◆◆◆◆◆

 病院を出た恵美は、自宅に戻り、両親が何故あんな時間に車を走らせたか理解した。
 叔母夫婦が、リビングで眠っていたからだ。
 リビングには、父親の秘蔵の洋酒の瓶がゴロゴロと転がり、叔母夫婦はリビンリビングの床で大の字に成っている。
 2階から、恵美の気配を感じた妹達が、泣きながら下りて来た。
 2人共唇が切れ、頬や額に痣が出来ていた。
 恐らく身体中にも痣が出来ているだろう。

 この叔母夫婦は、どちらも酒乱で暴れ出したら止まらない夫婦だ。
 叔母と言っても血の繋がりは、一切無く父親の祖父が再婚した連れ子である。
 恵美の母親は孤児だったため、唯一の親類がこの叔母夫婦だった。
 普段はこの家に寄り付きもしないが、たまに父親が不在の時を狙って押し掛けては、好き放題して帰って行く。
 2人の妹達の姿を見れば、昨夜此処で何が有ったたか、手に取るように理解出来た。
 恐らく押しかけて来た、この2人が暴れ出した為、両親に助けを求めたのだろう。
(この人達…この人達のせいで…、父さんと母さんが…)
 恵美は怒りがこみ上げてどうしょうも無かった。

 恵美はキッチンに飛び込み、包丁を手にするとリビングに戻る。
 そのまま叔母の横まで歩いて来ると
「あんた達のせいよ…」
 呟きながら、包丁を振りかざした。
 それを見ていた中学に上がったばかりの好美が
「お、お姉ちゃん、何するの?い、嫌!止めてー!」
 姉の行動を抱きついて止めた。

 その時玄関から
「すみません、槇村さん宜しいですか〜」
 声が掛けられたが、2人の耳には入らず、揉み合ったままだ。
 玄関の声の主は、この揉み合った気配に異常を感じる。
 声の主に取って、こう言った大事故の後、取り返しの付かない行動に出る者が居る事を経験で知っていた。
 直ぐに土足のまま、玄関から声がするリビングに飛び込んだ。
「あわわっ!な、何をしてるんですか!」
 リビングに入った男は、大の字に成った2人と包丁を持った恵美にしがみついた好美を見て、完全に殺人現場に鉢合わせしたと勘違いする。

 男は腰を抜かしそうに成ったが、包丁を持っているのが、線の細い女性と見て、取り押さえに掛かった。
 男は恵美の手首を注意深く握り、包丁の刃を背から掴む。
 この時、初めて恵美と好美は男の存在に気付き、驚いて狼狽える。
 その怯んだ瞬間、男は包丁を取り上げる事に成功した。
 男はホッと胸を撫で下ろし、恵美に言葉を掛けようとした時
「うるせー!ったく、何を騒いでやがる」
 大の字に倒れて居た叔父が身体を起こしながら、文句を言った。

 男は死んでいる物と思い込んで居たため、相当驚いたが、職業がら直ぐに情報を分析し直して
「あなた方はどなたです?ここの家の方では、無いでしょう」
 起きたばかりの叔父を、問い質す。
「あん?あんたこそ誰だよ!」
 叔父は酔いで濁った目を向け、値踏みするように足先から頭まで不躾に睨め上げる。
 普段は小心者でオドオドとしているが、アルコールが残っているせいで、態度が横柄なままだった。
 男は包丁を呆気に取られて居る好美に手渡し、靴を脱ぎながら、スーツの内ポケットから名刺を取り出して恵美に渡し
「○○生命保険の門脇(かどわき)と言う者です」
 丁寧な口調と態度で、恵美に自己紹介をした。

 恵美に頭を下げた門脇は、叔父に向き直り
「槇村さんは、ここに居られる筈が御座いませんし、ご家族として登録されているのは、年齢的に言ってこちらの方でしょう。そうした場合、あなた方はご家族以外の方ですよね?そんな方がリビングで何故、眠られて居るんですか?」
 にこやかに理路整然と質問する。
 門脇の質問は、叔父の怒りを飲み込ませるのに充分だった。
「お、俺はこいつ達の親類だ。叔父が親類の家で寝てて何が悪いんだよ」
 叔父は鼻白みながらも、門脇に食って掛かる。
「家人の許可無く、家屋に入り、家人の所持する物を摂取した場合、れっきとした犯罪に成るのをご存知ですか?」
 門脇のこの言葉に、ギクリとしながらも
「俺は、ちゃんと許可を得て…」
 門脇に反論しようとしたが
「嘘よ!玄関を開けないと火を付けるって、脅したから、仕方なく開けたんじゃ無い!」
 好美が指を指して、可愛いらしい声で怒る。

 叔父はチッと舌打ちすると
「パパの大事なお酒も勝手に飲んだのよ!愛美がダメって言ったのに何本も飲んじゃったんだから」
 小学4年生の愛美が、好美の背中に隠れながら、追い討ちを掛けた。
 叔父の顔が赤く怒りに歪む。
 門脇は、ポケットから携帯電話を取り出すと
「取り敢えずこの後の言い訳は、警察で警察官にして下さい」
 操作を始める。
「ま、待て。オイ起きろ!帰るぞ!」
 叔父は慌てて、横に寝て居る叔母を起こした。
「う〜…、何よ〜」
 叔母は頭を押さえながら、起き上がりまだ酔っている目で門脇を見る。
「帰るぞ!早くしろ!」
 怒鳴りながら、門脇の横をすり抜け、ソファーに掛けた上着を手にリビングを出る。

 叔母は状況が把握出来無かったが、叔父の後ろに付いて出て言った。
 嵐の去った後のようなリビングで、門脇は恵美に向き直り
「これで、落ち着いてお話しが出来ますね。あっと書類、書類…」
 門脇はバタバタと慌てて玄関に向かう。
 門脇は暫くして、靴と鞄を入れ替えて、リビングに戻って来ると
「この度は、ご愁傷様でした…」
 深々と恵美に頭を下げた。
 恵美は釣られるように、頭を下げ返す。
「私、この案件の窓口として、当社から派遣されましたので、宜しくお願いします」
 恵美に説明すると、恵美は再び頭を下げる。

 ざっと片付けを終えた、リビングのソファーに座り、門脇の話を聞いていた恵美の顔が蒼白に成っていた。
 事故の過失は1対9で両親に有り、事故により被災したパチンコ屋から、5千万円の損害賠償を求められた。
 それは、両親の生命保険でなんとか賄えるが、事故の当事者に対する保証が、1千万円までしか出せない。
 つまり、残りは恵美が自腹で払わなければ成らなかった。
「まぁ、後遺症が残らない限り、それ程の金額には、成らないでしょうが、まだ精密検査の結果が出ませんので、なんとも言えませんね…」
 門脇が説明を終える。

 二階から聞こえる、好美と愛美の泣き声が門脇の胸を掻き乱す。
 そして、目の前で儚げに肩を抱く美女を押し倒したい衝動に駆られる。
(へっへっへっ…。本当に良い女だぜ…、旦那は本当に良い仕事回して呉れたぜ…。ガキ共相手だから、どうとでも誤魔化せるし、上手く立ち回れば、この女も喰える…。辞められ無いぜ、この商売…)
 門脇は恵美にかなりの嘘を吐き、自分の都合が良い事を恵美に吹き込んだ。
 門脇は札付きの交渉人で有った。
 保険の契約者を騙し、保険の配当金を減らすなど当然のように行い、絞り取れると分かれば会社と契約者の間に入り、保険の配当金をくすねる事までしていた。

◆◆◆◆◆

 門脇が帰った後、警察からの連絡を受け遺品を受け取り、病院で遺体の引き取り手続きを行った。
 葬儀業者を紹介され、葬儀の話を始める。
 遺体は葬儀業者の葬祭場に安置される事と成った。

 その同じ病院のある個室に門脇が居た。
「また、あんたかよ…」
 病院の寝間着を着て、ムチ打ちのギブスを嵌めた男は、ウンザリした顔で門脇を迎える。
「まぁ、そう言うな。あんたにも悪い話じゃないぜ…」
 ニヤリと笑いながら、男に話掛けた。
「って事は、今度の相手は、絞り取れる相手って事か?」
 男は途端にニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ、門脇に問い掛ける。
「ああ、相当な…。そのためには、あんたに重傷に成ってもらわないと成らない…」
 門脇が告げると、男は顔を歪め
「はぁ?俺はこの通りほぼ無傷だぜ。このギブスだってただのポーズだし…」
 男がギプスを軽く叩き、不思議そうに言うと
「ああ、大丈夫だ。それは、こっちで用意してやった。あんたはただ寝てれば良い。陳さん、入ってくれ」
 門脇が入り口に向かって声を掛けると、扉が開き一人の老人が入って来た。
「陳さんだ。中国針の名人で、この人に針を打って貰う」
 門脇が紹介すると、陳と言う老人はあさっての方を向いて、ペコリと頭を下げた。

 白い杖を持った老人の黒いロイド眼鏡の奥は、何も映さないのだろう。
「早くして、ワタシ忙しいね」
 老人は木枯らしのような片言の日本語で、急かせる。
「この人の針で下半身の神経を麻痺させる。な〜に、あんたの主治医は、この病院の医院長の馬鹿息子で、筋がね入りのヤブだ。絶対に見破れ無ぇ。針を抜けば、元通りに成るし心配する事は何も無い」
 門脇が説明すると
「3ヶ月針入れたままだと、戻らないよ。ちゃんと説明するね。治らないと、ワタシヤブ扱いされるね」
 陳は補足説明して、門脇に文句を言った。
 男は一瞬顔を歪めたが、ニヤニヤと笑い
「あんたが此処まで準備したって事は、相当でかいな…。俺の取り分は幾らだよ…」
 門脇に問い掛ける。

 門脇は苦笑いを浮かべ
「500万円でどうだ」
 開いた手を突き出し、男に言った。
 男はピューっと口笛を吹き、クルリと腹這いに成ると
「おい、爺さんちゃっちゃとやってくれ」
 陳老人に言った。

 陳老人は男に近付きながら、上着から針を取り出し背中に手を当てる。
 暫く身体を撫で回し、尻の割れ目の根本辺りに、針を2本刺した。
 陳老人が針を打ち込むと男の左右の足から感覚が消える。
「うおっ!足の感覚が無く成った!」
 男は驚きながら、門脇を見ると門脇はニヤリと笑い陳老人と供に出て行った。
 門脇は陳老人に約束の金を払い追い返す。
(クックックッ、これで3千は堅いな…)
 ほくそ笑みながら、病室に戻った。

 門脇は病室に戻ると、男を仰向けにさせ
「俺が帰ったらこれでナースを呼べば良い」
 ナースコールを手渡し、踵を返し出て行った。
 扉が閉まる瞬間
「上手くやれよ」
 門脇は男に釘を刺し病院を後にする。
 かくして男は事故の後遺症として、下半身不随と診断され、重度の後遺障害者と成った。



▲ BACKNEXT ▼



この小説は、完全なフィクションであり、実在の人物、
団体等と何の関係もありません。
この小説へのご意見、感想をお寄せください。
感想メールはcopyright下のアドレスまで


NEXTBACK TO NOVELS INDEX


18's Summer : 官能小説、恥辱小説とイラストの部屋