2006.05.29.

Stranger
01
リバイアサン



■ 01

 コツッ、コツッ、コツッ。

暗い道を一人の少女が歩いている。

工藤彩夏、市立中学校三年生。長く美しい髪が印象的な彼女は部活帰りのこのくらい道を独りで歩いている。

「もう、イヤ。何でこんな目に会わなきゃいけないの」

 彩夏は陸上競技部の長距離ランナーだ。その実力は全国でもトップクラスで、常に優勝争いをするうえ、美しい顔立ち、モデル並みのスタイルで陸上界ではとてつもない人気であった。

 しかし、そんな彼女にも唯一弱点があった。その弱点のおかげで、今日も帰りがこんなに遅くなってしまった。その弱点とは…………朝に弱いのである。

 彩夏の通う私立第三中学は陸上が強くて有名である。県大会はもちろん、関東大会、全国大会に出場する選手も数多い。その一番の要因は顧問の松下にある。若い頃はマラソンのオリンピック候補にもなったほどの実力の持ち主で、練習は厳しいが、プライベートでは生徒の相談もよく聞く、人望厚い教師である。

 松下は彩夏の才能も早くから見出し、厳しい練習を課してきた。その結果、彩夏は全国でもトップクラスの実力者になったのである。

 そんな厳しい陸上部だから、当然朝練がある。それは全国トップクラスの彩夏にも課せられていた。しかし、彩夏は朝に弱いため、ほとんど毎日遅刻していた。

そしてとうとう、一週間前、

「工藤! また遅刻か!!!」

「す、すみません」

「まったく、毎日毎日遅刻しやがって。今度遅刻したら放課後みっちりしごいてやる。そのつもりでいろ!!!」

「そんなぁ〜」

ということになってしまったのだ。

 そして一週間後の今日、彩夏にしてはがんばったのだが、とうとうこの日、ちこくをしてしまった。そして約束どおり、みっちりしごかれて終わったのは、全体練習が終わってから一時間後のことだった。

「お疲れ。今日はもう帰っていい。もう遅刻するなよ。」そう言うと松下はみんなには内緒だからなと缶ジュースをくれた。

 あたりはもう真っ暗だった。他の部員はもうとっくに帰ったようだ。

「みんな冷たいなぁ」

そうぶつぶつ言いながら、着替えて帰ることにした。

「もう、イヤ。何でこんな目に会わなきゃいけないの」

彩夏はそうぶつぶつ言いながら、暗い夜道を一人歩いていた。幸い彩夏の家は学校から歩いて二十分くらい。彩夏の中学は全員、徒歩通学が義務付けられていたので、この距離なら割と近いほうだった。しかし、今日はすでに八時を回っていた。九時から毎週欠かさず見ているドラマを見るため、普段なら決して通らないこの近道に行くことにした。

「あ〜あ、こんなことなら録画しとけばよかった。」

この近道は公園の中にあって、この道を抜けていくと彩夏のマンションに五分ほどで着く。逆にこの道を使わず遠回りをしていけば、十分ほどかかるのだが彩夏はいままでこの近道を使ったことはなかった。なぜならこの道は以前から悪いうわさが耐えなかったからである。痴漢が出たとか、露出狂が出たとか、襲われそうになったとか、そんなうわさばかりだ。公園の入り口にも「チカン注意」の文字と、いかにもオタクっぽい男の顔が札に書かれている。しかし、彩夏はひるむわけには行かなかった。ドラマを見るため、彩夏はこの薄暗い近道を行くことにした。 

とはいえ、外灯の少ないこの薄暗く不気味な道は、中学生の女の子には嫌なものである。

彩夏の歩くスピードが上がる。あと少し、あともう少し。一歩一歩近づく危険からの脱出に彩夏はだんだん気が緩んできた。

「なんだぁ、なんてことないじゃん。楽勝楽勝。」

そう思っていると突然、後ろから口を布状のものでふさがれた。と同時に、急激な眠気に襲われた。意識が朦朧とする。そして彩夏は気を失った。



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