2011.06.18.

特別授業−現場主義
001
百合ひろし



■ 1

春、また新聞に出ていた―――。毎年毎年何処かの名門校と言われる高校が喫煙事件起こして大会出場辞退をしている。今年も例外では無かった。今回は野球部で、しかも甲子園出場10回、優勝経験もある名門中の名門だった。
中埜夏奈子は新聞を見ながらふぅ、と飽きれ気味に溜め息をついた―――。よそで発覚した時に仮にその時既に自分達も手を染めていたのならその時にやめておけば良かったのに、ましてやその後に始めたとしたら何を考えてるのか、と。
しかし、夏奈子は同時に一つの疑問が起こった。法律で禁止されているとか言う以前の問題として、煙を吸うわけだからスポーツしてる人に良いわけないではないか。しかしなぜ運動部にまん延しているのか―――?

ほんの出来心だった―――。夏奈子はそういった疑問は実際吸ってみれば解ると思って、態々隣町まで行って年齢確認しない店で買い、休み時間に学校の屋上で吸っていた。
「ゴホゴホッ」
夏奈子は激しく咳き込み、その後煙草の火を消そうとしたが、コンクリートの床に落として足で消したらばれてしまう可能性が高いので予め用意していた携帯用の灰皿に煙草を突っ込んだ。そして、疑問の答えを得る事は―――出来なかった。

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それから3ヶ月後―――。中埜夏奈子は何時もと同じ様に朝シャワーを浴びた後、髪をツインテールにまとめ、下着の上に通学している海浜学園の制服を着た。夏服は半袖のワイシャツに赤紫色の蝶ネクタイ、そして茶色のスカートである。夏奈子も例に漏れずスカートは短くしていた。いや、短いのを買って穿いていた。夏奈子は身長166cmと大柄で顔付きも整った大人びた顔で、それでいてこの年では珍しいツインテールの髪型、そして真面目な性格で人の陰口を言ったりしない為かそこそこ人気があった。何故そこそこなのかというと、夏奈子は口数が少なかったからだった。また、海浜学園は女子校なので夏奈子には彼氏は居なかった。
夏奈子はいつも小さなグループの中にいた。そのグループの中でも、またたまに他のグループの人と行動を共にした時も良く、他校の男子を紹介するとか言われていたが、実際に付き合うまでは行かなかった―――。


衣替えがあった直後にプール開きがあったが、それから暫くはどんよりとした気候が多かった為に水温が上がらず、水泳の授業は行われなかった。しかし、梅雨が明けると一気に気温が上がり待ちに待った水泳の授業が組まれた―――。
夏奈子は水着を忘れて行った事に気付いた。しかし自宅は高層マンション―――、学校までの道のりの半分以上行ってしまった上にあの高層マンションの20階まで、例えエレベーターとはいえ乗って戻る気にはならなかった。
「一日諦めて、見学すればいい―――か」
今来た道を振り返り、夏奈子は呟いた。

実際その授業の時―――、夏奈子は授業を見学した。唯プールサイドで座って見ているだけ、と言えばそれ程厳しいものではないだろうと思うかも知れないが、何と言っても夏の猛暑の中のプールサイドである。他の生徒はプールに入ったりしているので体が適度に冷やされるが夏奈子はずっと炎天下の中に居たのだからかなり厳しかった―――。まあもっとも熱中症にならない様に水を渡されていたが。
因みに海浜学園は教師も女性教師のみである。最近はセクハラ等が大きく取り上げられる他、電車の車両も女性専用が増えた。この学園も同じ様に何か起こる前に先に手を打って、生徒が女子のみなら教師も女性のみという風に理事長が決めたのだった。つまり、この体育の水泳の授業をしているのも女性教師―――なのである。

次の日―――、夏奈子は職員室に呼び出された。呼び出したのは体育の教師の富永恵子だった。夏奈子よりは身長が低く160cm前後、そして体育の教師らしく白いジャージ姿が似合うショートカットの髪型とスポーツマンな体型だった。彼女は夏奈子に向かって、
「ちょっと放課後―――、そうね、18時過ぎに体育館の体育教師室に来てくれる?話したい事があるわ」
と言った。夏奈子は、
「はい、分かりました」
と言ってその時は話はそれで終わった。夏奈子は、なんだろう、と疑問に思った。しかし考えても分からないのでその指示に従うしかなかった―――。



放課後―――、夏奈子が恵子に指示された体育館の体育教師室に行った。ドアを叩くと、
「どうぞ」
と声がしたので中に入った。恵子は先程と同じ様に白いジャージ姿で椅子に掛けていた。夏奈子が入って来てドアを閉めたのを確認すると立ち上がって、
「貴女は補習です。昨日水着を忘れたでしょう」
と言った。夏奈子は、
「はい、忘れましたが……今日補習ってことでしたらさっき……」
と答えた。先程恵子はそんな事は一言も言わなかった。ただ、この部屋に来い―――と、それだけを言ったに過ぎなかった。つまり夏奈子は体育の授業の補習を受ける準備等全くしていなかったのである。恵子は、
「私がここに呼び出した時点で、その辺は空気を読んで欲しかったわ。まあいいけど……」
とにっこり笑って言った。夏奈子は、
「済みません、分かりました。準備して来るので待ってて下さい」
と言い、ツインテールを翻してドアを開けようとした。しかし幾等ドアノブを回そうとドアは開かなかった。
「先生、ドア開きません。開けてください」
と言ったが恵子は、
「準備する必要も無いし、ドアも開けないわ」
と目を細めて言った。夏奈子は、
「え……何故ですか?」
と聞いた。恵子は、
「そうね……、貴女が受けるのは特別授業までの補習だから―――ね」
と答えた。

特別授業―――聞いたことがあった。何だか訳有りの生徒が受けさせられるといわれる授業―――。しかし夏奈子はその内容までは知らなかった。何故なら、聞いた事があっただけで本当にあるのか無いのか分からない事について調べる必要など無いと思ったからだった。しかし恵子は特別授業とはっきり言った。
「特別授業……?私は何の特別授業を……?」
夏奈子は手をドアノブに掛けたまま恐る恐る顔だけ振り向いて聞いた。恵子は含みのある笑いをして、
「私が授業するって言うんだから体育よ。それにさっき昨日水着を忘れた事について言ったばかりでしょう」
と言った。夏奈子はそれを聞いて、
「じゃあ、水泳って事ですか?」
と聞いた。恵子は、
「そうよ」
と答えた。それなら話が矛盾する―――。さっき恵子は準備する必要は無い、と言ったが水泳だったら思いっきり準備する必要があるではないか?水泳どころか体育の授業さえ無かったのだから体育の準備が無いのは当然である。準備をしないといけないのではないか―――?
「水着―――今持ってませんが……」
確認する様に夏奈子は言った。恵子は、
「だからなのよ―――。貴女は今ある意味"ビキニ"着てるでしょ?」
と呆れるように言った。その位気付けよ、といった表情で夏奈子の背中を指差して―――。

夏奈子は恵子が何を指差しているのか気付いた。今は夏服―――、しかも少し暑い体育教師室の中なので夏奈子は汗をかいていた。その汗で白いワイシャツは肌にべったり付き始め、ブラジャーのラインがはっきりと見えていた。
「それは幾等なんでも無理です。生徒に対するセクハラじゃないですか?」
夏奈子は向き直ってきっぱりと言った。要は水着を忘れたのだから下着姿で泳げ、とそういう事なのだったので夏奈子は拒否した。すると恵子はクスクス笑って、
「そんな事言っていいのかしら?貴女にチャンスが漸く巡ってきたのに……。これを受ければ貴女の罪は無しにしてあげられるのに―――ね」
と言った。夏奈子は恵子の言っている意味が分からなかった。自分が犯した罪とは一体何なのか?そもそも校則を大きく破る等そんな事をした覚えは全く無い。スカートが短い事を言っているのであれば夏奈子だけでなく殆どの生徒が特別授業を受けないといけない事になってしまうのである。
「身に覚え―――無いんですが」
夏奈子は後ろ手でドアを開けようとしながら言った。こんな言い掛かりをつけてくるのだから兎に角逃げないと何されるか分からない。そしてセクハラをされた事を教育委員会に訴えてこの教師を首とまでは言わなくても謹慎位にはして貰わないと被害者はどんどん増えると思った。それ以上に、恵子がこんな事を言って脅してくる教師だとは思わなかった―――。
「これは何かしら?」
恵子はA4の紙にプリントアウトされた写真を手に持って見せた。丁度夏奈子の目の高さに―――そして夏奈子に奪われぬよう夏奈子に近づき過ぎずに―――。
「こんな写真……撮られていたなんて……」
夏奈子はその写真を見た後、観念して目を伏せて言った。その写真は、夏奈子が春に屋上で煙草を吸っていた時のもので、遠くから撮ったものの様だが、解像度が良く、写っているのは夏奈子だと分かる写真だった。恵子は、
「これを見せられてもまだ拒否するのかしら?逃げるのかしら?受ければ、これ、つまり煙草を吸った事は無かった事になります。逆に逃げたら―――」
と言った。夏奈子は、恵子の机の上にパソコンが置いてある事に気付いた。今恵子が手に持っている写真を奪っても意味が無い。元を断たなければ何枚でも複製されてしまう。しかしここにパソコンが置いてある―――。叩き壊せば写真の元データはもう無い事になる。後は今恵子が持っている物を奪って燃やしてしまえば―――。
夏奈子はパソコンを奪いに行った。すると夏奈子がそう動く事は予想していたとばかりに、恵子は素早く間合いを詰めて夏奈子に裏拳と回し蹴りを見舞った。夏奈子は勢い良く倒れて頬を押さえて蹲った。恵子は、
「諦めの悪い娘ね。残念だけど特別授業の教師全員がこの写真持ってるわ。今の食らって分かったと思うけど、私達全員格闘技の心得もあるわよ」
と言った。今の夏奈子の様に証拠を奪おうとするのが居るのでそれをさせないように格闘技を習っているのである。ここまで完璧に巧妙にされたらなすすべは無い―――。夏奈子は頬を押さえながら床にはいつくばったまま悔しそうに下を向いているしかなかった―――。因みにこの写真は恵子が撮ったものではなく、特別授業を担当する事になっている恵子を含む5人の教師に対して匿名で送られて来た写真だった。その写真を撮って送った人は夏奈子を狙い撃ちにしたものではなく、屋上で煙草を吸っている人が居ないかどうかを常に観察していた、という事だった。
「私は―――、何をすればいいんですか?」
夏奈子はゆっくりと立ち上がって頬から手を離して聞いた。恵子は、
「そう―――、最初から素直にそう言っていれば痛い目見ずに済んだのに」
と笑顔で言った。それからA4の紙に印刷された写真を二つに折ってノートパソコンに挟み、夏奈子の胸元を指差した。
「制服脱いで下着姿になりなさい」
と言った。夏奈子は恵子から目を逸らして左前に視線を落とし、ふぅ、と諦めた様に溜息をついた。

夏奈子はツインテールを後ろに流してから蝶ネクタイを外して隣の机の上に置いた。それからワイシャツのボタンを1つずつ外した。そして全てのボタンを外した後、ワイシャツの袖から腕を抜いて隣の机の上に置いた。白いブラジャーが露になり、肩や背中には少し汗が浮いていた。そしてスカートからベルトを引き抜き、スカートのホックを外して足元に落とした。すると白地に水色の縞模様のパンティが露になった。
「……」
夏奈子は何も言わずに頬を赤らめて足元に落ちたスカートを拾って机の上に置いた。それから指を通してパンティを直した後、上履きを脱いで靴下を右、左と脱ぎ、上履きを再び履いた。
「……これで、いいでしょうか」
夏奈子は恵子に目を合わせずに顔を赤らめたまま聞いた。恵子は満足そうに笑い、
「そうね。いいでしょう。じゃ、プールに行きましょうか」
と言った。そして、パソコンのキーを叩いた。するとドアの鍵がカチッと音を立てて外れた。恵子は、
「自分で開けてプールに向かいなさい。私は後ろから付いて行くわ、貴女が万が一逃げないように―――ね」
と言った。この時の表情はまるで餌を追う肉食獣の様であった。

全ての生徒は部活動を終えて帰宅し、夏奈子の耳にカチッと鍵が動作する音が入って来た。夏奈子はビクッと反応し、逃げ出したくなった。人が出て来たら下着姿で歩いているのは丸見えである。もしそれが生活指導部の教師だったとしたら大問題になりかねない―――。
「早く行きなさい」
恵子が急かした。しかし鍵の音が気になってそれ以上進めなかった。
「人に見られたら……もう学校来れません」
夏奈子は顔を赤らめながらも恵子を睨みつける様に言った。恵子はクスクス笑い、
「その心配はいらないわよ。今日の見回り当番は私と養護の佐伯先輩だから。他の人はもう居ないわ」
と答えた。夏奈子はそれを聞いても安心は出来なかったが、進まなければ急かされるだけなので急いでプールに向かった。

プールに着いた―――。
恵子は昨日の授業と同じメニューを夏奈子に課した。違うのは夏奈子の姿のみ。授業ではみんな水着だったが、今たった一人で泳いでる夏奈子は下着姿である。更に恵子はツインテールをほどく事は許さなかった。夏奈子は当然相当恥ずかしかったがプールは外からは見えない―――いやさ、覗かれない様にと言った方がいいかも知れない―――様に高い壁で仕切られていて、その上、その壁をよじ登って来れない様に壁の上に有刺鉄線が張り巡らされていた為、少なくとも他の誰かに覗かれる心配は無かった。
兎に角、この時間を耐えて水泳の授業を終えれば煙草の件は忘れてくれると言うのだから気が楽になった気がした―――。



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