滝川は懸垂を終えて、ハンガーへと向かっていた。あの機体はまだまだ完成には程遠い。整備士の部署の方は三人がかりだが、こちらは一人だ。早く完全に調整しなければならない。 ―――と、声が聞こえた。 あの声か、と思ったが、声の響きが違う。この声は、もっと厳しく、また優しかった。あの声よりずっと重い声だ。 『――お前は何故あしきゆめを殺す?』 滝川は足を止めて、周囲を見渡した。誰の姿も見えない。 『お前は今人と、おそらくは――伝説の境界線上におる。これ以上殺し続ければ人としての生を全うすることかなわぬことになるやもしれぬ。友として忠告する。あしきゆめを倒す手を休め、人として生きよ。――我らの心は不死ではないのだ』 滝川は何を言われているのかよくわからなかった。ただ、この声にどこかで聞き覚えがあるような気もした。 もう一度周囲を見渡す。少し先にブータが座って、こっちを見ていた。 見つめると、ブータはたたっと走って去っていく。 それだけだ。それだけのことだったが、妙に心に残った。 滝川はまたハンガーに向かって走り出す。走りながら考えた。 『俺があしきゆめを殺すのは―――』 士翼号に取り付けられたタラップを登る。 『他にどうしようもないからだよ』 |