「ソドム1999 あるいは悪徳の世紀末」

あとがき


  「リレー小説なんてやってみませんか?」
  そんなメールが僕に届いたのは1996年12月。僕がまだホームページを開設して4ヶ月目のことだった。
  僕が制作するホームページ「サドマニア」は、当時サド侯爵を文学・哲学的見地から真面目に研究するというサイト(現在は単なるファンクラブといった色合いが強くなってきたが…)で、本質的に創作小説とはまったく関係のないページだった。読者からの主体性に溢れた提案は嬉しかったが、そのときは正直言って、企画そのものには首を傾げざるを得なかった。
  しかしその後、幾人かのオンライン作家の方々との出会いがきっかけとなり、いったん意識の底に沈んだリレー小説の企画は、再び実現に向けて浮上することになる。協力者も見つかり、企画はとんとん拍子に進んでいった。
  最終的にリレー小説は僕の胸のなかで、お気に入りのオンライン作家の方々をひとつの物語に終結させたいというドリームプロジェクトとして大きく膨らんでいった。
  そしてついに1997年10月、リレー小説「ソドム1999 あるいは悪徳の世紀末」はスタートしたのである。
  最初はサド侯爵の未完に終った大作「ソドムの120日」の近未来パロディという形でスタートしたが、そこはやはりリレー小説なので、一筋縄にはいかない。
  僕はリレー小説の面白さとは、ひとつの物語のなかで如何にそれぞれの作家が己が個性を主張するかにあると思っていた。ひとつ前の話を、次の作家が裏切りつつストーリーが進んでゆくようなものこそ理想のリレー小説であるという持論があった。
  だから、僕が第一話「破壊への序曲」を書き上げた後、僕は二話のヘルカッツェさんに「一話で僕が意図したことを、二話で見事に裏切ってください」と頼んだ。彼女は「まかせなさい」と喜んで承諾してくれ、ひと思いに第二話「サンドフィッシュ作戦」を書き上げてくれた。出来上った作品は、第一話の閉鎖性を見事にブチ破る素晴らしいものだった。
  しかし、アスラ氏の書いた第三話「石になろうぜ」を手にしたとき、二話の裏切り方など序章にすぎなかったことを僕は思い知ることになる。それはリレー小説最大の異色作の誕生であった。続いて第三話のパターンを受け継ぐ形で、夜長さんの第四話「愛と快楽主義者」が出来上り、女性読者の間で圧倒的な人気を誇ったキャラクターであるキリエムが登場した。
  既に物語はサドからかなり離れてしまっていたが、当時掲載規約にあった「サド的な内容に限る」というのは、単なるサドのホームページに創作小説のコーナーを作る為の口実であり、僕としては内容など面白ければどうでもよかったのだ。僕は一話一話のクオリティには大変満足していたし、「サド研究のページにリレー小説は場違いではないでしょうか」という批判のメールを受け取っても、とりあえず協力してくれた皆の為にも、ここはこのまま強行突破しかないと思った。
  ところが、初めは調子よかったかと思われたリレー小説も、だんだん雲行きが妖しくなってくる。
  一番の問題は、初期の作家があまりにも伏線を広げすぎたため、ストーリーの収集がつかなくなってきたのだ。皆、話のつじつまを合わせようとするあまり新たな伏線を追加し、ますますストーリーは複雑化していった。複雑化すればそれだけ続きを書くのは難しくなり、回を重ねるのに反比例して更新は滞っていった。生来プロデュースの才能もなければ、忍耐力もない僕は、後半かなり精神的に憤っていた。原稿が遅い作家を、「もうこれ以上待てません」と断ってしまったことも一度や二度ではない。一話一話のクオリティは相変わらず高かったが、その喜びも更新直後だけであった。
  度重なる更新停滞に限界を感じた僕はついに1998年秋、夢想していた作家の大半の参加を待たずして、物語に終止符を打つ決断をした。もともとこのリレー小説はタイトルに1999の年号が入っている為、実際の1999年が訪れる前に終らせるべきだという考えを持っていたし、この辺が潮時だと思った。
  最終回はリレー小説開設当初からの予定で、それまでの作家のなかから選抜し、内容は僕と相談の上決めるという形をとった。最初は第二話を執筆したヘルカッツェさんにするつもりだったが、彼女とはとある理由で仲違いになってしまったので、5話のtomomiさんの再登場となった。第一話は男性作家で始まったので、最後は女性作家で締めくくるというのも一興であろう。
  内容に関しては、tomomiさんと僕との十数回にも及ぶ長文メールのやりとりによって決めていった。ラストはとにかく善と悪の対決でいこうということで話は進んだ。
  そして年が明けた1999年1月2日、ついに最終話の更新により、1年と3カ月続いたリレー小説「ソドム1999 あるいは悪徳の世紀末」は完結したのである。
  いろいろあったが、インターネットでこういった企画をプロデュースできたことは、いい経験だった。辛かったことも、そのうちいい思い出になってゆくだろう。
  振り返ってみてつくづく思うが、よくこれだけ個性的な作品がひとつの物語を軸に集まったものである。個人的にどの作品も愛着のあるものばかりで、ひとつひとつの話が独立した短編小説として楽しめる完成度をもっていると言えよう。
  初めて犠牲者の視点から描かれたtomomiさんの第五話「鎖の果て」、話がいきなりSFに飛んだ静夜さんの第六話「天使降臨」、出所したばかりの大変なときに執筆してくれた雅珍公君の第七話「1999進化の記憶」、突然のピンチヒッターに戸惑いつつも3日で書きなぐった僕の第八話「ジュスティーヌ」…。
  そして最後は、サドの「悪徳の栄え」にオマージュを捧げ、雷にすべての決着を委ねさせてもらった。結末があっけないと思われる方もおられるかと思うが、僕はこれでいいと思っている。
  キャラクターのなかでは、やはりアンチナチュル大統領は、本リレー小説が生んだ最大の財産だったのではないかと、最終話の彼の数々の台詞を読み返してしみじみ思う。

  最後に、参加してくださった6人の作家の方々には、この場を借りて深く感謝の意を表したいと思います。言うまでもなく、この作品の完成は、皆様ひとりひとりのご協力なしには実現は不可能でした。
  皆様の努力を無に帰することなく、永遠にこの作品をインターネットで読んでもらう為に、このホームページが作られたといっても過言ではありません。

  今までありがとうございました。

ザッピー浅野
1999年2月3日


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