by ネコタ斑猫

 青年は誠に美しい女性に自分が犯される夢を見た。女性は高貴であるように見えた。だが一方で人外のようにも見えた。
 (これは所謂夢魔ではないか)
 夢現に青年は考えた。青年は宙に吊られたようであった。体は自由に動かせるのかどうか試そうともせず、また試したところで動かぬのではないか、そんな風に薄ぼんやりと考えていた。自意識のゆらぎの中、青年は女性に唇を吸われ、体中を抓られ齧られしゃぶられ撫でられ擽られあらゆる優しい悪戯を仕掛けられた。それでも青年のペニスは柔らかい肉塊のままで、青年はじれた。ペニスの蹲る両腿の付け根あたりに欲望が渦巻きお陰で火山の地脈のようにそこいらが熱を帯びているのだがそれはちぃとも伝わらずペニス自身は変にぬるく醒めたままだ。青年は苛立った。
 (もしもこれが普段そうであるように立ち上がり稲妻のように鋭く芯満ちて猛ったならば! 僕はあなたに溢れるほどのお返しをしてあげるのに!)
 体が効くかどうかも定かでない状態でそんなことを思うのはどうか、それでももしもペニスが生え勃ったならば彼女のぬめり湿ったヴァギナに招かれ包まれることもできように、そう思うと青年は居ても立っても居られなかった。居ても立っても居られずとも体は効かぬ。縛られた馬のように切なく嘶いているのは唯彼の一個の精神のみである。彼は惜しんだ。夢を惜しんだ。夢の中の自分を惜しんだ。女性の悪戯を、いっそ惜しんだ。
 女性はさんざ彼の体を玩んだ後、彼を置き去りにして、一人夢から抜けていってしまった。

 朝になり青年は目を覚ました。覚ましたのだが夢が恋しくてならなかった。平素は嬉しいはずの新しい朝の輝きが疎ましく、少しでも影のあるあたりに身を寄せ夜の名残の闇を求めた。彼は夢に囚われたのである。
 (あの女性は夢魔なのだろうか)
 夢魔のことは聞いていた。夜の夢に訪れ、人を犯す。その際に受胎もあるという。
 (受胎なぞどうでもいい。
 とにかく僕はあの女性と交わりたい。一度。一度交わったなら二度。二度交わったなら三度。
 繰り返しあの女性と交わりたい。
 生涯の精を全てあの女性に捧げてもよい。)
 大分無茶な決意のように思われた。だが青年には、かの女性には吃度それだけの価値があると思われてならなかったのだ。

 その晩青年は再び夢を見た。
 女性は果たして現れた。世にも美しい宵闇色した薄物を纏い、青年の上にふうわりと降り立って。薄物よりもなお儚く軽くたおやかなその身振り。青年は薄く唇開けうっとりとその様眺めていた。
 女性は青年の好意を確信しているという様子で事を進めた。いや、むしろ青年の好意など意にかけぬ様子でもあった。自分が何かしらを仕掛ければ相手の男性は当然こちらに好意を抱くので、つまりそれを自分が気に掛ける必要などないというのが女性の確証であるらしかった。女性は時折青年の目を覗き込んだがそれは意中を確認するためではなくといって確認しないためでもなくただそこに当然備わっているはずの好意を見て取るためであった。そして好意は確かにそこにあった。青年は陶然と女性を見つめ、そのまなざしはどんな上等の美酒に酔ったよりもなお酩酊していた。女性の備えたあらゆる色あらゆる形は美しく青年のまなざしによる愛撫に応えなお余って燦然と輝いた。女性の体が青年に与えるあらゆる感覚は全てが滑らかで若々しく完璧な生殖を予感させそれゆえに全ての接触は青年にとって不足だった。青年はただ核心の交わりをのみ欲していたからである。それも繰り返し何度も何度も飽き果ててもなお続く程に。交わりがもし終わるなら生が枯渇したときであろうとまで青年は思い詰めていたがそれは若さと未然が与える夢想のためであっただろうか? 否女性との交わりは実際汲めども尽きぬ花々の生まれ来る泉のようであろうと予想された。天鵞絨のように滑らかで蜜に満ちたその秘色の場所は絶えず新しい仕立ての花弁を装い来訪者を飽き果てさせることがないだろうと思われた。そしてそれこそが女性が夢において主導権を有する所以であった。夢魔には形がなく、それゆえあらゆる形をとることが可能だったのである。今日始めて出会った女のように。
 青年はそしてその秘色の仔細を知ることができたのだろうか? 否! 否! 女性は青年の体中を愛しく擦り欲望で燃え立たせたあげくに立ち去ろうとしたのである。青年は叫んだ。動かぬ体押して、麻痺した唇叱咤して、開いたままの喉を絞り、訴えた。
 「お待ちくださいあなた! 」
 女性は唾液に濡れた唇を隠そうともせずに振り向いた。それゆえに口元は淫らに光った。
 「あなたは何者ですか。何故僕を抱きにくるのですか。抱いてしかも交わらずに立ち去るのですか。僕はあなたが愛しい。あなたを抱きたい、あなたに抱かれたいのです。」
 女性は来たときと同じように薄物を閃かせ、そして今度は青年の横に立ち、見下ろした。
 「私の可愛い坊や。
 あなたは私に交われというの?
 あなたを犯せと?
 そんなことをしたらどうなるかご存知? 」
 言って女性は青年の顎に手をやり、指で皮一枚を容易く剥いだ。痛みが走る。女性は青年の薄皮を舌の上に載せ味わいながら続けた。
 「私はあなたが思っているほど穏やかな性質ではないのよ。
 私があなたを犯さないのはあなたを殺さないためよ。
 性欲が摂食衝動に勝らないように。
 あなたと交わり精を体に容れた途端、私はあなたを食らってしまうわ。
 それはそれは痛い残酷な遣り方で。
 あなたそんなことを望むというの?
 刹那の悦楽の対価に、命を捧げるなんて。
 そんなのは愚か者のやることよ。」
 くすくす笑って、おまけのように青年の髪の毛を毟り取ると、それすらもむしゃむしゃと食べて女性は夢から飛び去ってしまった。
 ニンフのように軽々と。
 後には頬と頭から少しの血を滲ませた青年一人きり。
 青年は泣いていた。痛みからでは無論無い。取り残された切なさからだ。青年の狂おしい恋情は、たとい女性に食い尽くされてもいい、それがどれほど惨い遣り方であったとしても、こうして夢に焦がれては孤独に落ちるよりも大分ましだ、と知見と人生観まで歪ませていた。それを見かねていた老人が一人。一体どこから青年の夢に入ったのか、どうも女性がまた男に通い始めたというので相手の行く末を案じて後を付け立ち入ったもののようである。老人は小さななりで青年の元に行くと、声をかけた。
 「お前はそれほどあれに魅入られたのか」
 そんな風に話は始まった。
 「あれは昔悪い男に騙され夢に死んだ女でな…可哀想な女だ。恋慕と憎悪の区別が付かない、交わりと滅ぼしの区別がつかない。誰かあれに応えてやれる男が居ればいいと思って居たのだが、お前がそれほどあれを慕ってくれるのなら、方法を教えてやろう」
 そうして老人は青年に術を伝えた。

 老人は、未だ色も恋も知り染めぬ少女の愛液で女性に洗礼を授けよと言った。
 無垢な淫らの精髄の味で、女性は再び穢れの前に立ち返るだろう、と。
 それによってお前たちは、対等な交わりを結ぶことができる。
 ただそれが現実のものであるか夢の中のものであるか、そこまではわからない。

 老人は青年の四肢を解き、小さな腕輪を与えた。この腕輪を嵌めた手で夢の境に触れれば越えることができる。たくさんの夢をさまよい、無垢な少女を探し、その少女の愛液を得なさい。
 ただし、少女を直に誘惑してはならない。
 それは穢れの源であるからだ。
 愛液を穢れから護るため、お前はあらゆる表象を駆使して、無垢なる少女のエロスの花芯を目覚めさせ蜜を分泌させねばならないのだ。
 難しいことだ。その前に女性が飽きて、お前と交わり喰らうやも知れぬ。
 
 他を選ぶことなど、どうしてできるだろう。
 否も応もなく、青年は腕輪を受け取り、夢の世界を辿り始めた。

 夢の世界は深く広く色とりどりに閃いて定まらず誠に宛てのないものであった。青年は一つの夢を越してまた次を訪ねそうしながら無垢なる少女の精神を探した。まるで自身が夢魔になったように、青年はいつの間にか自分が夢を一瞥するだけでその夢の主の心栄えがわかるようになっていることに気付き驚いていた。美しい夢、醜い夢、楽しい夢、哀しい夢、希望に満ちた夢、絶望に落ちた夢、けざやかな夢、黒い夢、明るい夢、寂しい夢、清らかな夢、穢い夢…およそ人が一生に見る種々の夢を抜けて、青年はようやく己の目的にふさわしい夢を見つけた。
 それは、長く意識を失ったままの少女が、現実から遠く離れて見る途切れ途切れの夢だった。
 それは三つの点で青年に好都合だった。一つは少女が眠ったままであるために青年が夢に居続け夢を保つことができるということ、一つは少女が生まれた最初から眠る少女ではないため現実の欠片を持ち合わせているということ、一つは少女が醒めぬために外から新しい色恋の情報を得て精神の穢れる心配がないということ。
 少女は眠りについた折は幼女であり全く無垢の存在であった。世界は童話の中にあり、精霊と温もりと親しい人々だけが満ちていた。だが眠りの間に少女の体は育ち、女の兆しを見せ始めていた。確かに青年が選ぶには格好の相手だったのである。
 (後はいかに、少女にエロスを知らせるか)
 青年は絵本の頁を捲るような少女の夢を遠くから眺めながら、考えた。

 まず青年は自分の体をチョッキ着たウサギの姿に仕立てた。少女を誘惑しにくる者はそのような姿しているものだろうという無意識の了解があり、また青年の姿のままでは少女の精神を汚すのではないかと恐れたためであった。ウサギは森の中を散歩する少女の側に歩み寄り挨拶した。「こんにちは」
 「こんにちはウサギさん。一体何の御用? 」
 そういわれて端と困った。まさか君のからだの分泌物に用があるなどとはいえまい。そこでウサギは繕った…よもや真意が見抜かれぬように。
 「余り退屈なので遊びに来たのだよ。何か遊びをしないかね。」
 少女はウサギのことをじっと見るとにっこりと笑った。
 「遊びよりも私ウサギさんのことを抱っこしたいわ。いいかしら。」
 断る理由も見当たらなかったのでウサギは大人しく抱かれた。少女は気持ちよさそうにウサギの白く柔らかい毛皮に頬をうずめた。
 「ああふかふか。素敵。私絵本でウサギを見て、いつか触ってみたいと思って居たのよ」
 少女は暫く顔中でウサギの毛皮を味わった後、それでも足りぬ風で膝に載せた。
 「ねぇずうっと私の側に居て頂戴よ。ここ誰もいなくてつまらないの。」
 「ずうっとは無理だな」ウサギは言った。頭の中に女性があった。
 「でも暫くの間は大丈夫だと思うよ。」
 「ねぇウサギさんとっても素敵な声をしてるわね。男の人みたい。あなたほんとうにウサギさん? それとも王子様なの?」
 ウサギはうろたえてのどのあたりをこつこつ叩き、わざと甲高い声になった。
 「ああ今はどうも喉の調子が悪かった。これが本当の声さ。ところであちらに何があるか行ってみよう」
 それにしてもウサギは悪趣味な森を仕立てたものだ。木のうろはヴァギナ、茸はペニスに酷似していた。だが訳知り顔の娘たちならともかく、少女はまったくのところ子供なものだから、そういう形のものもあるのだろうというほどの印象しか持たなかった。それからウサギはかたつむりを見つけてきてそれを茸に這わせてみたりしたが、少女は少しばかり気持ちの悪い遊びという印象を持ったばかりで、どうということはなかった。次にウサギは眩い程に美しく華やかな蝶をたくさん招きよせて鱗粉撒き散らした交尾をさせた。だがお尻で繋がった宝石を見た少女は「まぁ畸形みたいね、別れるのに失敗した双子のよう」と憂えるばかり。それではとウサギは頭を捻ったが出てくるのは直截に淫らな表象の群れ、ニンフがサテュロスに犯されたり或いは逃げ惑う処女が獣に犯されたり或いは三人四人の大勢が団子のように絡み交わり或いは塀や扉の隙間から透見した身近な人の淫らな姿、そんなものが脳裏に冴え渡り形になってあふれ出しそうになるのでウサギは慌てて手を引き少女を野辺に連れ出した。「あんな森はつまらない」「どうしてつまらないの変わった森だったわ別にもっと居たいとは思わないけど」
 少女は野に座りウサギを膝に抱いて背を撫でた。それから横になり腕枕するようにウサギを抱いた。
 「あなたが好きよ、ウサギさん」
 少女は囁いた。
 「あなたはほんとうは立派な男の人で、私をこの夢の世界から助けに来たんじゃないかしら。私長い長い夢の中にいるの。このまま死んでしまいそうなほどに。」
 言って少女はウサギにキスをした。桃色の鼻先がひくひく蠢き、髭がくすぐったかった。青年はこの少女を救うことができたらそれもいいだろうに、と思ったが、そもそも熱情の全ては女性にのみ捧げられていたため、そんな思いは使いでの無いほどに薄く浅い同情でしかなかった。少女の方は体の成熟の兆しに伴い心も恋を探し始めていたものだから、意識の異物であるウサギを未知の対象として認識し、それが異性であるらしいことから、異種であることを気にもせず、仄かな恋心の相手に仕立てようとしていたのである。少女のエロスは無邪気で大胆だった。少女は仰向けになると、胸にウサギを抱き、自分の素肌のあちこちをその鼻先で擽るように導き始めた。
 「くすぐったいわウサギさん」
 言う声が濡れ始めているようで、ウサギはうろたえた。こんなにもたちまち少女は女になろうとするのか。柔らかい毛皮で首筋を愛撫させられながら、まろい肉球で胸元を刺激させられながら、ウサギは困惑していた。
 (穢れてしまっては元も子もない。なんとかエロティックな表象を探さなければ)
 ウサギはきょろきょろとあたりを見回した。折りしも少女はどうしてそんな仕草を知るものか、立てひざにした足の間にウサギを挟みこみもじもじと動かし始めていた。これでは自分の精が漏れてしまう、慌てるウサギの目に今を盛りと咲き誇る美しい白百合が映った。白百合の花弁は今開いたばかりのように瑞々しく清廉だ。十分な細胞液を満たした薄い花びらの中に、誇らしく伸びた雄蕊と、内に恥じらい含んで居静まる雌蕊とがある。雄蕊の先にはあの厄介な取れにくい橙の粉がついていて、それはさして関心を惹かなかったのだが、
 雌蕊。
 雌蕊は、白百合は、一体何処からそんなものを溢れさせるのか、蜜のような淫らな滴りを染み出させては零していた。透明で清らかな、淫猥。浅緑の花芯は花弁の付け根からすぅっと伸びてきて僅かに割れた膨らみに迎えられ。そこはただ組織として瑞々しいだけでなくうちから溢れてくる潤いによって絶えず濡らされている。それは受粉しないうちは身に余るのかいかにも物欲しそうに先に滴のように溜まってはこらえきれずに滴り落ちまた溜まっては滴り落ち。そうやって花弁の内側を濡らし地面には染みまでこさえて。
 ウサギが見とれているのを追いかけるように少女のまなざしが白百合の雌蕊を捕らえそこで止まった。何を覚えているのか、少女のまなざしは滴りから離れない。僅かに頬が上気している。
 (今、ではないのか)
 ウサギは予感した。しかしここから一体どのように一押しすれば少女の花芯から蜜を滴らせることが出来るのか。
 しゅるしゅる、と何かが擦れるような音がした。
 (蛇!)
 そこには、愛らしいつむらな黒い目をした細い小さい可愛らしい蛇が居た。蛇はウサギの意を知るように白百合に向かい絡みつき這い登りそして白百合の花弁の中にもぐりこんだのである。白百合はこのときとばかりに蜜を溢れさせそして瑞々しい花弁を震わせ蛇の長く冷たい体を受け容れた。それは蹂躙なのか、痛みのある蹂躙かそれとも甘い蹂躙か、震えと共に蜜に濡れた花弁の元の合わさりは入ってくるのに堪えかねて僅かに避けそして青い植物質の匂いを漂わせた。その瞬間小さな悲鳴が聞こえたようにさえ思われたが妄想の中の声色は艶やかでいっそ淫らであった。蛇は僅かずつ潜り込みその様は酷く不遜だった。相手が望んでいるのを承知しているといいたげな、焦らすような、からかうような侵し方だった。
 蛇のからだで白百合は裂けたが、だが蛇は萼から出て来はしなかった。一体どこに行ったのか、蛇はそのまま白百合の中に失せ、長い長いからだの最後の細い尻尾がもぐりこんだ後は、ただ僅かに裂けた白百合が斜めに揺れてあるばかり。
 ウサギは少女を盗み見た。
 その目は潤み、エロスに酩酊していた。体が濡れていることも、わかった。
 (やった! )
 青年はウサギを脱ぎ捨てると横になったままの少女の足の間に指を差し入れ花に触れた。そこは確かに温かくしとどに濡れていた。無作法にも三本の指で躊躇うことなく掬い取ると、それでも足りず、携えていた小さな瓶を直接当てて拭おうとした。少女は今目の前で白百合が蛇に受けたと同じ質の蹂躙を身に受けながらまた白百合と同じように叫びたかった。
 ああ、そのまま、私に知らせて! あなたを! 私の中に入って頂戴!
 だが無情にも青年は滴ばかりを盗み取るととそのまま夢から出て行ってしまった。醒めぬ夢の中に一人残された少女は切なさに太ももを擦り合わせその後にウサギの中の王子様が仕掛けてきたとおりの悪戯を手ずから行おうとしたのだがそんなことはいかにも行儀が悪いように思われてその葛藤に泣き出してしまった。スカートをきりきり噛みながら蛇かウサギか青年がやってくるのを暫く待って居たのだが新しい表象が何も来ないのを知るや立ち上がりあの森を訪ねた。森の大地には淫らな茸が猛っていた。少女は下穿きを取ると恥じらいに頬を染めながら体の衝動に負けて茸を内股に挟んで擦って悶えた。少女は夢にエロスを知ったのである。
 
 少女の心の貞操を奪った青年は、老人の待つ己の夢へと帰った。老人は青年の差し出した瓶を見て頷いた。
 確かに無垢なる少女の淫らな精髄だ。あなたはそれを男根に塗りあれを待ちなさい。あれはどうしても交わらずにはおれなくなるだろう。あなたがあれを愛し、少女の愛液とあなたの精液と女性の愛液とが交わったとき、あれが自らかかった呪いが解けるだろう。もはや運命の違うことはない。迷わず待ちなさい。
 「あなたは一体誰なのです?」
 青年は尋ねた。
 「私はあれの父親です。」
 言って老人は夢から消えた。

 青年は言われたとおりにペニスに少女の精髄を塗りつけた。するとじき女性が現れた。苦しげな顔をしている。青年の体の自由を奪うことも忘れたのか、愛しそうに青年に抱きつき、体を預けた。青年は夢見たとおりに存分に女性を慈しんだ。その非の打ち所の無い曲線をなんども掌で味わい、髪や脇の匂いを嗅ぎ、そしてとうとう生え勃った男根を濡れそぼるヴァギナに打ち込んだ。
 女性は惜しみなく自由に悦び声を上げた。滅ぼそうなどという考えは頭から抜け、ただ愛される喜びと、愛されることが同時に相手の悦楽でもあるという一体の営みに充足していた。
 「早く、早く、私の中に頂戴」
 女性はせがみ、応じて体ももどかしく急いて痙攣した。もう高みだと思いながらまだ先があるようなそんな焦らしを繰り返して追い詰め追い詰められとうとう女性は極まり青年も絞られるようにまた達した。三者の精髄が混じり神秘の呪力となって女性にかかった呪いを体の内から解き放った。女性は伏せた目じりから涙を流し、それから目を閉じて青年に体をゆだねた。
 「あなたを喰らったりはしませんが、あなたはもう現実に還れなくなってしまった。
 いいのですか。」
 青年は笑って首を振った。それは、僕にとってなんでもないことだ、と。

 数日後、長い間眠っていた少女が目を覚ました。家族のものは奇跡と喜んだが、少女は飢えたような憂い顔だった。皆が喜びに包まれる中、少女はひっそりと姿を消した。少女の胸にはあのウサギ青年の顔があった。どんなことがあっても探し出す、少女は強く心に誓っていた。
 長い旅の末、どうやって探し出したのか、少女は青年の眠る寝台の横に立った。
 (皮肉ね。
 ようやく巡り合えたのに、私ではなく、あなたの方が眠りっぱなしだなんて。
 でもいいの。
 私、あなたの夢の続きが、どうしてもほしかったの。
 そこから、私の現実が始まるから。)
 少女は躊躇うことなく同じ寝台に入ると、誰にも教えられたことのない愛撫を始めた。程なく青年のペニスは生え勃った。少女は、あの森で茸にそうしたように、跨り、暫く擦りつけた後、秘色の場所に迎え入れた。そこは白百合がそうであったように僅かに悲鳴を上げまた裂けたようだけれども、凌駕する欲望が先を急かした。
 (もっと奥に! あなたを頂戴)
 根元まで迎え入れて、少女は青年に体を寄せてため息をついた。ありがとう私の王子様、ここから私の現実が始まるの。ありがとう、ありがとう。





UP