涼しくて暖かい夏

  
「ただいま帰りました〜」
「ほほ、今日は遅かったのう……これ、どうしたのじゃ」
 力尽きて倒れこんだ俺を彼女は抱き起こしてくれた。途端、外の熱気にやられていた体が中からひんやりとしてきた。
「ありがとうございます〜、お陰で生き返りました〜」
「ほほほ、大袈裟なやつよ。わらわにかかればこれくらいは朝飯前よ」
「あ〜、お雪様ぁ〜」
 お雪様は、その名の通り雪女。去年の冬、雪山で遭難しかかったところを、彼女に助けてもらった。
 この後物語だと誰にも言うなと口止めされて、数年後彼女が人間に扮して現れることになるんだろうけど、事実は小説より奇なりとはよく言ったもの。彼女はそのまま俺に付いてきてしまった。俺の住んでいる所はとてもじゃないが雪女が住めるところではない。そう何度も説明したが、彼女は大丈夫だからと半ば強引に俺の家に住み着いてしまった。
 そしていざ夏が来て、彼女の言葉が真実だったことを知った。外の暑さにすっかりへばっている俺に対し、彼女はピンピンしていた。しかも、彼女の発する冷気のお陰で部屋の中はいつも快適で、エアコン要らず。外の暑さにどんなに体が火照っていても、彼女の手にかかれば一瞬の内に元通り。それに最近では彼女のお陰で俺自身もほんの少しだけだけど冷気を操れるようになった。
「ほれ、そろそろ己の足で立てるであろう?」
「はい、お陰で生き返りました。いつもありがとうございます」
 俺は彼女から離れ、深々と頭を下げた。
「ほほ、礼などよいのに。お互い様なのだからのう。夕餉の仕度が出来ておるゆえ、冷めぬ内に頂こうぞ」
 部屋の奥からはとてもいい匂いが漂ってきた。これまで何十人もの気に入った男の所へ通ってきたためか、彼女の料理の腕はまさにプロ級。しかも雪女なのに熱を使った料理まで作れてしまう。もちろん他の家事も完璧で、散らかり放題だった部屋は、今では埃一つない。
 俺はいつものように美味しいを連発しながら彼女の料理を貪った。それを笑顔で見つめる彼女。何だか新婚の夫婦みたいだ。
 あっという間に皿の上は空になり、俺は箸を置いて手を合わせた。
「ごちそう様でした。今日も美味しかったです」
「ほんにお前様は旨そうに食べるのう。わらわも作り甲斐があるわ」
 にっこりと笑う彼女の肌は雪のように白く、ピンクの唇だけが妙に浮き立って見える。人には作り出すことの出来ない完璧に整った顔立ち。黒目がちの瞳と目が合う度、魂を吸い出されそうになる。細やかな動作の一つ一つに目が吸い寄せられる度、知らず知らずの内に生唾を飲み込んでしまう。今は着物に隠されて見えないけれど、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる完璧なプロポーション。大きくて張りのある胸のせいで少しはだけてしまっている合わせの中に、ついつい目がいってしまう。いつの間にか健康な男の生理反応は、ズボンの中で存在を主張し始めていた。
「あ……あの、お雪様……俺……」
「おやおや、食事を終えたばかりだというに、せっかちよのう」
「う……すみません」
「ほほ、謝らずともよい。わらわもそのつもりだったからのう。早速いただこうとしよう。お前様の精は美味だからのう」
 そう言って、彼女は俺のスーツの上着を脱がせ、ネクタイを解いた。そのままソファーへ導かれ、腰を落とした。
 彼女は雪女。なのにどうしてこの暑さの中でピンピンしていて、さらに熱を使った料理を作っても平気なのか。
 答えは簡単、俺が人並み外れた霊力の持ち主だからだ。といっても、今までそれを意識したことなど一度もなかったけど。遭難した俺を助けた時、本当はいつものように精をほんの少しだけいただいた後、記憶を消して麓まで下ろしてくれるつもりだったらしい。けれど、俺の精は常人とは比べ物にならない霊力を含んでいて、彼女がすっかりそれに惚れ込んでしまったのだという。
「ぺろ、ぺろ……ほほ、もうこんなにしおって……わらわがちゃんと鎮めてやるからのう」
「うっ」
 慣れた手際で俺の服を全て脱がせた彼女は、俺のものに舌を這わせ始めた。ひんやりとした舌の感触が、触れられる前から熱く勃ちあがっていたものにとても心地よい。
「ほほ、こういうのはいかがかのう」
「うわぁ……んっ」
 いつの間にか彼女も全裸になっていて、豊満な胸に包み込まれていた。俺にわざと見せるように上目遣いのまま先端に舌を這わせる彼女。とんでもなく淫猥な光景と刺激に俺はすぐに我慢できなくなった。
「お雪様……俺、もう……」
「ほほ、よいぞ、いつでも出すがよい。全てわらわが吸い取ってやろうなぁ」
 彼女の動きがさらに激しくなる。彼女の唾と俺の先走りのせいか、ぐちゅぐちゅと厭らしい音が響く。
「もう、駄目だ……ううっ」
 彼女が先端をちゅっと吸った瞬間、ついに俺は果て、彼女の口の中に精を放った。生臭いはずのものを、恍惚の表情でゴクゴクと飲み干した彼女。美味かったぞと舌で唇を舐める仕種がとても淫らで美しい。
「ああ……もう、わらわも我慢出来ぬわ」
 出したばかりだというのに全く萎えていない俺自身が、彼女の秘部に吸い込まれていく。冷たいはずの彼女の中は、ほんの少し熱を帯びているように思えた。襞という襞が俺を締め付け、全てを搾り取らんとする。それに彼女の腰の動きが加わって、あっという間に出してしまいそうだった。
「んっ……熱い……いい……ちゅっ……んん」
 腰を振りながらうっとりと目を閉じている彼女の唇を奪う。少しでも彼女を感じさせようと、がむしゃらに出し入れを繰り返す。
「んんっ、むぅ……ん、んん、んふうっ……」
「んっ、ふぅっ、ぷは、ああっ……」
「はぁ、はぁ……た、隆俊、様……ああっ」
「お雪……ううっ、お、俺……」
「来て……ああっ……わらわの、中に……あああっ」
「くぅっ……お雪……愛、してる……うわああっ」
「わらわも……わらわも、あああああっ」
 互いを抱きしめながら、ほぼ同時に果てた。全てを焼け尽くすような熱い精を彼女の中に放つと、彼女の体がびくびくと震えた。強く抱きしめると、汗ばんだ体が彼女によって瞬時に冷やされていく。荒い息と、今だ繋がったところだけが情事の跡を残している。
「はぁ……はぁ……相変わらず、お前様の精は凄いのう……これで一月は大丈夫よ」
「そう、ですか……じゃあ、今月はもうしないんですか?」
 俺の意地悪な問いに、彼女はにやりと笑った。
「たわけ……んっ……はむ……」
 妖艶に微笑んだ彼女の唇に、再び自分の唇を重ね、抱き寄せた。冷えていく体とは逆に、ポカポカと暖かくなる心。
 彼女とのこんな生活がいつまで続くか分からない。いつしか俺の霊力も尽きてしまうかもしれない。でも、出来ることならいつまでも続いて欲しい。それが今の俺の唯一にして最大の願い。彼女さえいれば、他には何もいらない。
  
  
  
 というわけで、暑中お見舞い申し上げます。このお話を読んで少しは涼しくなっていただけたら幸いです。それでは、今後ともよろしくお願いします。
  
                                           2005年 7月30日       ウェイフ

  

寒くて暖かい冬

  

「お帰り」
「ただいま帰りました……あー、体から冷気が抜けていくぅ〜」
 靴を脱いで玄関に上がるや否や、割烹着姿で迎えてくれたお雪様に抱きついた。全身を覆っていた冷たい空気があっという間に何処かへ消えてしまう。
「ほほ、これくらいの寒さでだらしないのう。わらわの住んでおった山の冬は、こんなものではなかったぞ」
「お雪様と一緒にしないで下さいよぉ。それに、俺が寒さに弱かったお陰で、俺達こうして出会えたんですから」
 俺は苦笑した。寒さ対決で雪女と勝負して勝てるはずがない。そう、その名の通りお雪様は雪女。遭難しかけていたところを助けてもらったのが縁で、今に至っている。
「確かにそうよの。さて、隆俊様も帰って来たことだし、早速夕餉にしようぞ」
 ふむ、俺の言葉にお雪様は頷いて、全く、お前様の口には敵わぬのう、と笑いながら俺を奥へと連れて行ってくれた。その間にいつものように鞄とコートと上着を脱がせてくれた。
「わ、だから後は自分でやりますってば」
「ほほ、遠慮するでない。自分で脱ぐ手間が省けてよかろう」
 お雪様の手がネクタイにかかったところで、俺はストップをかけた。けれど、これまたいつものごとくその手は止まってくれない。
「ちょ、ちょっと、いいですってば」
抵抗も空しく、上半身を裸にされてしまった。すぐさまTシャツとセーターを着せられ、俺は暖を求めて急いで袖を通した。
「ほほ、ここも寒さで縮こまっておるのう」
「お雪様、そ、そこは、えっ?」
 袖を通している間に、下半身に冷たい感触が現れて、俺は焦った。けれど、それ以上に俺は驚いた。
「メリークリスマス、隆俊様」
 いつの間にかお雪様は割烹着を脱いでいた。その下から現れたのは、超ミニスカートのサンタクロース。上着も胸がぎりぎり隠れる程度の物で、明らかに実用向きではない。お雪様、一体こんなの何処から見つけてきたんだろう。
「ほぉ〜れ、寒いの寒いの飛んでゆけ〜」
「あ〜、暖かい……」
 お雪様の触れたところからぽかぽかと暖かくなっていく。本来熱は暖かい方から冷たい方へ移動するものだけれど、お雪様はその逆に冷気を吸い取ることも出来るんだそうだ。夏は冷房要らず、冬はお雪様一人の時は暖房要らずで、今年の電気代は今までの半分以下に減った。家事全般お手の物、モデル顔負けの白く透き通った肌と黒い髪、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだナイスバディー、こんな完璧な女性が俺と一つ屋根の下で暮らしているなんて、これはひょっとして夢なんじゃないかって今でも思うことがある。
「おや、もう汁が出てきよったのう」
「うっ、お、お雪様、それ以上は」
 俺が回想に耽っている内に、愚息はすっかり勃ち上がってしまっていた。
「お前様と一緒に熱い料理を食したいというわらわの願いを叶えては下さらぬのか?」
「うっ」
 もう限界だ。俺のものを舐めながら、切なげに、ちょっと拗ねたように俺を見上げる仕種に耐え切れず、俺は射精した。
「ん、んっ……………………ごく、ごく…………ふぅ……ほほ、お前様の精は相変わらず霊力が凄いのう」
 そう言って妖艶に微笑むエッチなサンタクロース。俺は実は凄い霊力の持ち主だったらしく、お雪様はそれを取り入れることで夏の暑さなどの熱に耐えられるのだそうだ。 
「あ、あの……」
「続きは食事の後で、たっぷりと……な?」
 まだ元気なままの愚息に手が当てられ、今度は逆に熱が奪われていった。高ぶる気持ちごと無理やり冷まされるような、不思議な感じだった。
「うわ……」
 彼女に導かれるままに奥の部屋のドアを開けると、そこはまるでレストランだった。サラダ、スープはもちろんのこと、七面鳥の丸焼きや年代物のワイン、ケーキなど、どれもこれもとても美味しそうなものばかり。
「いっただっきま〜す」
「いただきます」
 色々と他愛のない話をしながら、俺達はお雪様の料理を味わった。一度この味を知ってしまうと、下手な外食は出来なくなりそうだ。見た目だけじゃなく、匂いも、味も、全てが完璧な料理を絶世の美女と食べる。これ以上の幸せなんてないんじゃないだろうか。
「ごちそうさまでした。いつ食べても、お雪様の料理は絶品ですね」
「ほほ、そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」
 ほほほ、とお雪様が笑う。彼女の笑顔を見ていると、こっちもとても幸せな気分になる。そうだ、忘れるところだった。丁寧にハンガーにかけられたコートのポケットを探り、小さな箱を取り出した。
「お雪様、これ、クリスマスプレゼントです」
「おやまあ、そんなに気を使わずともよいのに。では、早速開けさせてもらうぞ」
「はい、どうぞ」
 綺麗にラッピングされた箱を丁寧に開けるお雪様。
「これはまた、大層なものを」
「着けてあげますね」
 中に入っていた箱の中から小さなリングを取り出し、お雪様の左手の薬指に嵌めた。
「似合いますよ、お雪様」
「ありがとう……ほおお、綺麗よのう」
彼女の指元でさらに輝きを増す俺の給料三か月分の指輪。新しいおもちゃを与えられた子供のような無邪気な笑顔のお雪様。気に入ってもらえて、俺もとても嬉しい気持ちになった。
さて、そろそろ本題に入ろうかな。
「これでちゃんとしたプロポーズが出来ますね。お雪様、俺と結婚して下さい」
 今まで言えずにいた言葉。やっと言えてホッとした反面、恥ずかしさで心臓が勝手にバクバクと騒ぎ始めた。
「……こ、こちらこそ……不束者ですが、よろしくお願いいたします」
「あはは、お雪様顔が真っ赤ですよ」
「うっ、そ、それはお前様も同じではないか」
「さて、これで正式に夫婦になれることですし、今夜は寝かせませんよ」
 白い肌がすっかり真っ赤になってしまったお雪様を、俺は抱き寄せた。
「ほほ、その前にわらわからのプレゼントも見て欲しいのう」
「うわぁ……」
 お雪様が指差す方を見ると、窓の外には雪が降っていた。
「ホワイトクリスマス。わらわからのプレゼントよ」
「ありがとうございます、お雪様!!」
 きっと明日の朝には一面の銀世界が広がっていることだろう。それを、静かな夜を堪能しながら待つことにしよう。俺はお雪様をお姫様抱っこでベッドへ運んだ。
「メリークリスマス、お雪様」
「メリークリスマス、隆俊様」
 いつになく寒い冬。けれど、俺達の周りだけは、何処よりも暖かかった。

  

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