info_page
火照り病1
【重要】ホームページビルダーの名前を付けて保存で別名にして保存すると、スタイルシートのリンク構成が変更されることがありますので、フォルダ内でpage.htmlをコピーしてください。(ウインドウズの基本操作ですね)
風邪ひいてまんねん、というコマーシャルが昔あった気がする。
いや、今もあるのかもしれない。
すっかりゴールデンタイムにテレビ番組を視聴しなくなったせいか、
目にするコマーシャルは限定される。
そもそも、今患っているのは風邪ではない、と自分の脳にツッコミをいれ、
香芝はもぞりと重苦しい身体で寝返りを打った。
軋むというにはやや軽くて鋭い痛みが関節に響いた。
縛られている時の痛みとは違う、ぶっ叩かれた後かのようにじんじんと
身体の内側から痛みは訪れる。
そして、それすらもどろどろに滲ませてしまいそうなほど高温になった身体。
吐き出す吐息までもがすっかり熱に侵され、視界はぼんやりとしている。
インフルエンザ。
まさかこの年齢になってそんなもののデビューを果たすとは思わなかった。
怪我は平均をブチ抜くほどに多い香芝だが、病気にはあまり縁はない。
それこそ水責めを受けた後などに数回風邪になっただとかそんなことはあるが、
本当に病気には縁がないのだ。
それなのにこの年齢になって初めてかかったインフルエンザは想像以上に苦しく、
香芝を苦しめた。
(やっぱり病気はプレイとは苦しさの種類が違うというか……。
ああ、でも今俺に突っ込んだら気持ちいいんだろうなぁ……。うん、38度7分。
間違いなく気持ちいい………)
つらつらと愚にもつかないことを考えながら全く快復に向かっていない状況を
伝えてくれた体温計を放り投げ、世を儚んでいるような沈痛な溜息を漏らす。
ベッドの近くに移動させた円形のテーブルの上に乗せたスポーツ飲料が遠い。
喉が渇くがそこまで腕を伸ばすことがもう嫌だ。
何もかもが嫌になり、湿った布団の中きつく目を閉じる。
もう呼吸すら苦しい。着ている物も汗で気持ち悪い。いつ治るのかもわからない。
暗澹たる気分が今や脳だけではなく部屋までも埋め尽くしそうなほど広がっている。
なによりも、恋人に会えないことが一番辛い。
感染するといけないからと会うことを頑なに拒んだのは一昨日の自分だ。
今はその自分を特殊警棒で貫いてやりたい。だが、警棒は貫くためのものでは
ないので今更悔やんでも仕方がないと意味不明な思考を紡いだところで
枕元に転がる携帯電話を発見した。
水分は遥か彼方だが、携帯電話は目と鼻の先の此方だ。
(テレフォンセックスでうつると思う人ー?はーい、いませんねー。俺、超勝ち組)
意味不明な文字列を脳内で躍らせながらぐわしっとイメージ上だけでは力強く
携帯電話を握り締め、ずりずりずりっとシーツの上で引き寄せる。
(俺だってうつしたくない。うつしたくないけど……本当に電話ひとつすらくれないって
どういうことだよ!鬼畜なのは知ってるけど、そこは好きだからいいけど、
薄情過ぎじゃないのか!?俺はこのままインフルエンザによる欲求不満で
死にそうなのに……!!)
相当に分断された思考の回路が常であれば絶対に思わないような不満を撒き散らす。
身体は慣れない高熱と痛みに苛まれ冗談ではすまないほど辛いというのに、
そんなときですら主張するもうひとつの熱が余計に身体を苦しめる。
悪質な本能に根付く熱病が大好きなものを渇望して内側から身体を崩壊させていく。
「もしもしー……あ、まだかけてなかった」
携帯電話は未だシーツの上に転がっているのに何故だかもう発信したものだとばかり
勘違いして喋り、一人でツッコミをいれたらけほっと咳が出た。
出たせいで関節がまた痛む。
「うー………ふふっ……」
呻きの後に何によるものかわからない笑い声が漏れる。
理由などわからないがやけに楽しくて楽しくて携帯電話の画面の上で指をくるくると
動かして履歴を呼び出すとついでにスピーカー設定をオンにする。
発信音に次いで呼び出し音が鳴り始めた電話をわくわくしながらじっと見つめる。
布団から出していた手を戻し、落ち着かずはやる衝動のままに下肢を
ハーフパンツの上からまさぐる。
そこはもうガチガチに滾り、高熱も手伝っていつもとは比べ物にならないほど
熱くなっていた。
(こんだけ熱いとーー精子は死滅してそうーー)
どうせ誰に出すわけでもない。残念ながら悲しいことに今夜の香芝は一人だ。
全く繋がる気配のない電話を凝視しながら愛しい人の声を思い出し、
心細さを紛らわすようにそっと手を下着の中へと差し入れる。
「ん………」
久しぶりに触れる熱に早くも揺れる指に唇を噛み締める。
(早く……早く出て………俊明さん………)
焦がれるように願うと、想いが通じたのかようやく長い長い呼び出し音が途切れた。

   

Page Top



この改行は必要→