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それは悪夢にほど近いなにか1
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麗らかな朝の陽射しの中で、甘ったるい香りがこれでもかというほどに充満している。
そんなものとは本来は無縁のはずの東明の家。
すなわちヤクザの家。
それなのに、甘ったるい。
「やっぱり焼き立てのワッフルは美味しいな。安物だとしても焼き立ては美味い」
ほくほくと幸せそうに、甘ったるい匂いの発生源にうっとりと呟くのは香芝だ。
夜眠ったままの姿で――つまりは半裸なのだが、そんな身体で布団にくるまりながらワッフルを口に入れられては小動物のようにもぐもぐと味わっている。
「それはなによりです」
ベッドの下で正座をして控えながら、東明はまた小さめにワッフルを千切っては香芝の口に放り込む。
互いに行儀だなどとこんな場所で口にすることはないからやりたい放題だ。
唐突に泊まりにきた香芝のために買い出しに行き、朝からせっせと5つも焼いたワッフルはもうあと残り僅かだ。
よく朝からこんなものを大量に摂取する気になるものだと思いながらまたワッフルを千切る。
考えたところ、だからといって今更なにを言うつもりもない。
もはや東明は慣れたのだ。
東明が個人的に契約している別宅に唐突に香芝が泊まりにくることも、甘い物を目の前で過剰に摂取されることも。
風呂に誘われることも同じベッドで眠ることも、良いか悪いかは別にしてすっかり慣れたものになってしまった。
重坂が用意した半同棲用のマンションとは別に未だに契約しっぱなしのこのアパートに帰ってくるのは、いまとなればこうして香芝が泊まりにくるときくらいだ。
生活の拠点が移ったから前よりも物が減った。
そんな空間に東明の私物の半分の割合に至ろうかというほどに香芝の私物が増えた。
そんなことにすらも慣れた。
「はい。これで最後ですよ」
残りの一切れを与えると、香芝は嬉しそうに枕に突っ伏して額をカバーに擦りつける。
喜び方が本当に動物のそれだ。
ちらりと視線だけ向けられる。
「美味しい。ありがと」
「いえ。片してきます」
微笑まれ、未だに慣れることができない動揺に不自然にならないように立ち上がる。
すぐにたどり着いてしまうキッチンからちらりと後ろを窺えば、なんとも艶めかしい白い肌を朝日が照らしていた。
掛け布団からはみ出した脚は楽しそうに揺れていて、穏やかで優雅な姿だと溜め息が漏れそうだ。
何度見てもあの色気過剰な視線と空気には慣れないし、変な感情があるわけでもないのにあの身体は直視すれば心臓に悪い。
本当に優雅だ。
香芝は東明とは違い、纏う空気が『高級』なのだ。
(……背景がこの家では台無しだけどな)
その背景は東明の身の丈にあったものだと思えば今度はしっかりと溜め息が押し出された。
なんとも残念な背景を背負った麗人は、そんなことを考えている東明に気づくこともなく東明が買ってきていたファッション雑誌をどこかから引っ張り出してきてページをめくっていた。
どう見ても香芝は買わないだろうギャング系ファッションを興味深そうに眺めている。
そんな姿を時折視界の端にうつしなからも紅茶をいれて戻ると、鼻歌まで歌っていた香芝がふふっと上機嫌に微笑みかけてきた。
恐らく、禄なことではない。

   

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