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邪恋9
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「……ジレンマだ」
「なにがだ」
「キスしたいのにできない」
「何故?」
「だって……」
またむくれた香芝が抗議するようにばんばんとシーツを叩く。
そして悲しげに溜息をひとつ零した。
「だって俺、ノアの飲んじゃったし!」
「ああ……それはごめんだな」
香芝の後味ならともかく、あの男の味など知りたくもない。
そんな味を香芝が知ったのかと思うとまた自爆としかいえない腹立ちが苛んだ。
「俺も嫌だ。奴隷としてなら俺は誰の相手をしろと言われても構わないし、
俊明さんが誰を抱こうと何も言わないけど……恋人としては嫌だ。
他の人の味なんて俊明さんに知って欲しくない。俊明さんは俺だけのだもん」
「もんとか言うな」
可愛すぎて困る。
離すまいと強く抱きついてくる腕は健気で、思わずキスしたくなる。
だが、できない。確かにこれはジレンマだ。
「歯磨きをして酒でも飲め」
「アルコール消毒のつもりで?歯磨きの後の酒は不味そうだな」
文句を言いながらも香芝がベッドをおりた。
近くの椅子にかけられていたバスローブを羽織るときょろきょろと辺りを見渡す。
「おっかしいなぁ。俺のジーンズはどこに行ったんだ?あれ、かなりの
お気に入りなのに。生地がくたくたに柔らかくなっていて寝やすい」
「ちゃんと服を着て寝ろ。風邪をひく」
いつも上は着ていないから見ているだけでも寒いことがある。
素直に頷いた香芝がふふっと小さく笑った。
茶目っ気たっぷりに細められた瞳が見つめてくる。
「俊明さんもちらリズムの方が好きか?それならちゃんとパジャマとか着ようかな」
また甘えるように抱きつかれる。
本当に甘えたがりになって帰ってきた恋人は照れたように笑みを浮かべた。
「どうせなら俊明さんの服がいいな。いらない服があったらくれ。
寝ているときまで俊明さんを感じられるなんて幸せだろ?」
甘ったるいことを言う香芝を抱きしめる。
それに香芝が困ったように苦笑した。
「歯磨きしてくる。やっぱりキスしたい。そばにいるのにできないなんて辛いから」
急くように身体を離した香芝の手を掴み引き止める。
「俊明さん?」
不思議そうに首を傾げる香芝はあまりに無防備で、
思わず掻き乱したくなるほどに可愛かった。
「キスだけでは足りないだろう?ついでに風呂に入っていろ。準備をしたら行く」
「え……?一緒に入るのか?いつも断るのに!?」
香芝が赤くなりながらも興奮したようにまた抱きついてくる。
「嬉しい。一緒に風呂とか最近は滅多に入ってくれないから凄く嬉しい」
ぎゅうっと抱きついて頭を摺り寄せて盛大に甘えられると
馬鹿な意地を張ることも阿呆らしくなった。
これほどに熱心に神近だけを愛する香芝が他を見ることなどありえない。
通常の恋愛では括れない場所で繋がった絆は死ですら分かつことが
できないのではないかと思うほどに業が深い。
ノアの片想いが報われることなどない。
それなのに見せつけて思い知らせてやりたいと思ってしまう愚かさに
苦笑するしかない。
愛すれば愛するほどに狭量になっていくにも関わらず、
触れさせ、視線に晒すという矛盾。
そんなことをしても離れていかない温もりに甘えているのは神近の方だ。
「たまにはいいだろう。待っていろ。……俺が隅々まで洗ってやる」
他の誰でもないこの手で、その全てを。
馬鹿なことをしていると常々思う。
真っ赤になった香芝が神近の服を握り締め俯くと、小さく頷いた。
そして恥ずかしそうにしながらもぱたぱたと部屋を出て行った。
許して受け入れてくれるから、欲望は止められない。
どこまでも深い愛に終など見失うほどに溺れていく。
まるで永えに続いていきそうな愛が囁く。
あなたの全てを受け止めると、あの穏やかな声が言う。
香芝が出て行った扉を見つめ、知らず笑みが浮かぶ。
きっと可愛らしい犬は一途に神近を待っているのだろう。
そう考えた瞬間に胸を満たす熱い感情は香芝が与えてくれたものだ。
一刻も早くその身体に触れたくて部屋を出た。
許しと解放を統べる恋人のもとへと向かうために。
その愛に触れる以上の幸せなど、ありはしないのだから。

   

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