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邪恋8
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「ノアには見せたくなかったのに……俊明さんのバカ……しかも脱がされてるし……」
拗ねたような口調は幼稚で可愛らしいが、見当違いな恨み節に思わず
苦笑が浮かぶ。
「脱がせたのは俺じゃない」
言葉に視線だけ上げた香芝がむくれた。
「俺も脱いだりしてない。ちゃんとジーンズを履いて寝た」
「それならノアだろう?」
「ノアが脱がす理由がわからない」
だったら誰が脱がしたのかとこちらこそ聞きたくなるが、どうやら本気でノアを
安全牌だと思い込んでいるらしい香芝は疑いの眼差しでじっと見上げてくる。
「明日はどこに行くんだ」
面倒臭くなり話をそらすと、不服そうにしながらも香芝は答えた。
「本屋と服屋かな。あとは適当にふらふらしてくるつもり。なにかいるものある?
あるなら買ってくる」
「特にはない」
ベッドに腰掛けながら香芝の髪を撫でると、ほわっと香芝が嬉しそうに綻んだ。
「わかった。それなら適当に土産買ってくる。そういえばこの前のサボテンは
元気か?」
買い物に出かける度に何かを買ってくる香芝から贈られたものは、
事務所に自宅にと溢れている。
つい先日もらったばかりの陶器に入った小さなサボテンは、強面だらけの
組事務所で健気に赤紫の花をつけていた。
「若いのが世話をしてる。世話というほど何かをしているわけではないが、
水やりの頻度だとか調べていたな」
「冬場は放置で、夏は月に数回だっけ?買ったものの詳しくないんだよな。
……俺のは根腐りしたし……」
「もう腐らせたのか。最短記録だな」
「なんで我が家にくる植物は腐るんだろう。不思議だ……」
「前にもらっていた胡蝶蘭は?」
「カビたから捨てた……」
「どうすれば蘭がカビるんだ」
「わかんないけど久しぶりにみたらカビてたんだ。不思議だな……」
「枯れたならまだしも、カビるとはな……」
繊細そうな見た目とは裏腹に香芝はなかなかにズボラだ。
その話は既に組関係の一部にまで広がり、香芝に何か渡す場合は
腐らないものにしろという厳命がなされているほどだ。
植物や加工していない食物を腐らせることには定評があり、一度はキノコから
正体不明の別のキノコを生やすなどという荒技まで繰り出したことがある。
仕事で突発的に長期で家をあけることがあったから半数は仕方がないにしろ、
それにしても酷い。
「そんな切ない話はまぁいいとして。おかえり、俊明さん。会いたかった」
「今更か?」
「ノアのこともあったし、言うタイミングを逃したんだよ。お疲れ様。
酒でも準備しようか?」
もそもそとシーツの上を這い腰に抱きついてきた香芝は甘えるようにぐりぐりと
額を擦り付けてくる。
そして眠そうに欠伸を噛み殺した。
「必要ない。眠いなら寝ていろ」
「誰かさん達のせいで薬が切れたから無理。中途半端に眠気はあるんだが、
寝るほどではないな」
「相変わらず不眠症か」
「相変わらずのインソムニアっ君だよ。深刻なレベルではないんだけど……
慢性的に眠気が残っていてだるいな」
ズボラなくせに神経は細やかにできている香芝はよく心因性の不調を
起こしているようだ。
大抵の場合において神近が関係していることが多いのだが、滅多に申告は
してこない。多くの場合は自力で解決しているようだが、今回は派手に体調を
崩したために流石に連絡をしてきた。
暫くは自宅外で療養していたが、今は不眠以外は完調したらしい。
戻ってきてからは今まで以上に甘えてくるようになったから、
それは怪我の功名といえなくもない。
今の香芝は解き放たれたかのように自由そのものだ。
そんな香芝が腿の上にぽてっと頭を置いて、なにやら思案げに溜息を吐いた。
ころころと思考があらゆる方向に飛び回るだけに、もう不眠症の話題は
終わったのだろうと予測をつける。
髪を摘まむと拗ねたように香芝が唸った。まるで動物のようだ。

      

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