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愛染3
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「聖哉はちゃんと決まっていていいな。僕はなんとなく考えているだけで
具体的な計画がない。ただ、外にでようってそれだけ決まっているだけで」
「憂いてるなぁ。うじってんのはいつものことだけど。何かあったのか?」
「ううん。特別何があったわけではないんだけどね」
あんな行為が、こんな捻れた関係が、すでに特別なこととは感じられないほど
日常になった。その事実を己の言葉で痛感する。
平日も夜は束縛され、休日は秋久にアルバイトの予定がない限り、常に一緒だ。
することといえばセックスばかり。その間、意味のある会話などない。
雪乃にとって秋久は、全く意味の解らない存在だった。
何故雪乃にこんなことをするのかさえわからない。
彼女だってちゃんとできるのに、雪乃との関係は終わることはない。
むしろ、雪乃に割く時間が長すぎて恋人と別れてしまうことの方が多い。
そんなことではいけない。だから、変えないといけない。
こんな関係でも、秋久は大切な弟だ。堕落させるわけにはいかない。
「何もないって顔ではないけど。……また弟?」
「………ん」
付き合いの長い藤倉には、弟と微妙な関係であることは知られている。
流石に内容までは言ってはいないが、父の再婚時にいきなり落ち込み、
その後長く塞ぎ込んでしまったために、そばにいた藤宮に隠すことは不可能だった。
そりが合わずいきなり喧嘩したものの、今は過剰に懐かれていると
無理やり誤魔化している。
どこか信じていないようではあるが、優しい藤倉は何も聞かずにいてくれた。
その好意に雪乃は甘え切っていた。
「それで、実家から離れるのか。相変わらずブラコンなん?」
「……大学、ここにするって。僕があの子の可能性を潰してしまっている気が
するんだ。このままでいいわけがないから……大学を出たら、家から距離を
取ろうと思ってる」
雪乃の言い分に藤倉は不服そうに肩をすくめた。
「それって雪乃が責任を感じることか?むしろ嫌がってんだから、弟が悪いんだろ?
雪乃が潰してるんじゃなくて、自滅してるだけだろ。間違ったところに責任を
感じるのは弟の為にもならないんじゃね?」
「……そうなのかな。僕が何かしたからこうなったんじゃないのかな……。
なんだかもう、原因も、どうすればいいのかもわからなくて……」
出会った時のことをいつも思い出す。
弟ができるのだと喜んだ雪乃とは対象的に、秋久はただ静かに何かを
考えているようだった。思い当たる変化といえば、雪乃が兄弟なのだから
仲良くしようと言った時だ。
秋久は露骨に苛立ったように雪乃を睨めつけた。
もしかしたら再婚になど反対で、雪乃の言葉が癪にさわったのかもしれないと
後になって思ったが、当時は直後にあんなことになり、怖くて生活もままならなくて、
気づけば聞く機会を完全に逃していた。
秋久の心はわからないままだ。
とはいえ藤倉にそんなことを言えるわけもなく、暗くなってしまった雰囲気も嫌で、
雪乃は努めて明るく笑った。
「でも、わからないなりに色々してみるよ。ごめんね。暗くなるようなことを
話しちゃって。コピーとってくるよ。ノート、わからないところがあったら聞いて」
畳み掛けるようにして立ち上がった雪乃の腕を藤倉が掴んだ。
驚いて見下ろせばすぐに手は離れた。
「水臭いこと言うなって。辛いなら辛いって言えばいいから無理すんな。
ほら、座って待ってろ。見せてもらうんだし俺がとってくる」
有無を言わさず雪乃を座らせた藤倉が立ち上がり、まるで励ますような笑顔を
向けてくる。
そんな顔をすると、まるでアイドルみたいだなどと思ってしまった。
毛先だけ外に自然にはねさせるようなパーマに男らしさを失わない甘い顔立ち。
そんなただでさえ甘い容姿なのに更に甘やかすようなことを言うから
藤倉のそばは居心地がよかった。
だから雪乃は素直に笑顔で頷いた。
「ありがとう。それなら、待っているから」
「ああ。ついでにシナモンロール買ってきてやるよ。ここの、好きだろ?
ノートのお礼に」
優しい友人はそう言って笑顔を残して行ってしまった。
その姿を見ながら、雪乃は弱すぎる己を痛感せざるを得なかった。
もしかしたら藤倉ならば、打ち明けても受け止めてくれるのではないかと。
そんな逃避という名の願望すら過ぎる。
されど願いはまだ、願いのまま静かに眠り続けていた。
まだ頑張れるという根拠のない弱さの下で。

   

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