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愛染2
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はぁ、と小さな溜息が漏れた。
燦々と陽射しに照らされた明るいカフェの窓際で、雪乃は憂いていた。
さらさらと栗毛色の髪が溜息の度に微かに揺れる。
性格を表すかのような真っ直ぐな髪は、顔の輪郭に沿うように丸みを帯びている。
顎のラインまである髪を指で梳くように頬杖をつき、手元にある資料を眺めていた。
昼時からやや外れた昼下がりの大学内にあるカフェ。
講義が入っていない学生達でそこはそこそこの賑わいを見せていた。
他には学生ホールや、いくつかの飲食店しか時間を潰せる場所はない。
いつもならば雪乃は図書館にいるのだが、生憎と昨日から蔵書の点検とやらで、
三日間は閲覧室が使用できないとなっていた。
珍しくカフェにいる雪乃に周りは少し浮き足だっているようだが、とうの雪乃のは
全くそれには気づかない。
雪乃は秋久を美形だと思っているが、はたからみれば雪乃もタイプは違えど
十分過ぎるほどの顔立ちだった。
行く先々で話題になるのだが、そんなことには生憎と本人だけが気づいていない。
「あれ、雪乃。珍しいな、こんなところにいるなんて。ああ、図書館は今は確か
使えないんだっけか」
「聖哉こそ。火曜日のこの時間はいつもいないのに」
「ちょっと用事。昨日のニ限のノート見せて」
向かいに座った中学時代からの友人である藤倉聖哉に雪乃は笑顔で頷いた。
いつもはどこか物憂げな慎ましやかな顔は、そんな風に笑うと一転して華やかな
印象を与える。純粋な黒ではない、よくみればアーモンド色をした瞳は
表情豊かで多弁だ。切れ長の二重は長い睫毛に彩られ、それを後押しするように
瞬きの度に楚々と揺れる。
顔を出せという秋久の言葉に従って、前髪は左右に流しているか、作業時は
上でピン留めしてしまうために、その造形は隠されることもない。
ただいつもは顔を伏せていることが多いから気づかれにくいだけだ。
すっきりとした鼻梁や、自発的には話さないふっくらとした唇。
そんなものもクールな性格だと誤解される理由だが、実際の雪乃は人懐こく、
ころころと表情を変える明るい性格だ。
ただ引っ込み思案なところもあるために、友人は極めて少なく、その表情は
その数少ない友人の前でしかしないから、相変わらず誤解は解けないままだ。
なにより、雪乃は鈍い部分が多分にあり、そんなことを思われているとは
微塵も考えていなかった。
「そう言えば昨日は一日いなかったよね。だから、欲しがるかなと思って
全部コピーしておいたよ。あとは課題が結構出ていたんだけど、
資料はまだ全部集まってないんだ。ある分だけでもコピーとる?」
「ああ、悪いな。あとでよろしく。で、もう就職先を絞ってんのか?」
雪乃の手元に視線を落とした藤倉が問いかけてきた。
つられたように雪乃もまた紙に視線を向けて苦笑する。
「迷ってるんだ。院に進むか、就職か。院に行くにしても、海外か県外に
出ようと思ってる。就職も地元はあまり考えていなくて。聖哉は?進学だっけ?」
「俺は紫峰の院に行くつもり。受かればだけど。学部卒では雇ってもらえないからな」
「確かにね。学部卒だと任される仕事が限られるし……研究職は無理だもんね」
頷きを返しながらも新卒採用要項が書かれた紙面に視線を走らせる。
言葉通り自宅から離れた場所ばかりを選んでいるのは、勿論秋久から離れるためだ。
秋久は今年受験生だが、志望校は今雪乃が通っている大学だ。学部まで同じ。
秋久の学力ならば間違いなくもう1ランク上の大学が目指せるだろうに、
この大学以外は考えていないらしい。
間違いなく、雪乃がいるからだ。
だが、雪乃と一緒に大学に通う時間は僅かに1年しかなく、そんなことのために
進路を決めるなど馬鹿げていると雪乃は常々考えていた。
ただ、怖さがあるために未だにそれは伝えられていない。
能力があるのだから、相応しい場所にいって力をつけて欲しいと思う。
雪乃との関係以外に秋久に問題行動は見られないため、余計に離れなければ
ならないと決めていた。
進学や就職はまたとない機会だ。家をでても誰も訝しむことはないだろう。
関係はどうあれ、容姿や能力など、自慢の弟であることに変わりはない。
だからこそ、雪乃になどとらわれ道を外して欲しくはなかった。

      

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