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「早く……」
切羽詰まった声が可愛い。
また着衣の上から舐めると弱々しい声が必死にかみ殺される。
指が髪を握り締める様に頭をかき抱き、それでも足りないとばかりに腰が揺れる。
ねだるように押し付けられた場所はもう張り詰めて下着から顔を覗かせていた。
舐めたからではない染みが広がり、その場所を指で撫でるとスカートを
握りしめていた指が震えた。
大きくなったそこにストッキングが食い込み痛そうだ。
「忠臣……ちゃんと触れ…」
「ちゃんとって？」
下着に隠れた裏筋を舌先で撫で上げるだけで内腿が小刻みに震える、
快楽に容易く蕩け落ちる身体。
その奥に眠る欲求を引きずり出して愛でたい。
狂おしいほどの愛欲と恋慕を見せつけたい。
圧倒するような愛情で埋め尽くして、何度でもこの身体に長村の証を刻みたい。
先程までの強気が失われてきた百瀬に気分は高揚する。
もうすぐで手に入る。
百瀬が何もかもを手放し、長村だけを欲しがる瞬間が。
「脱がせて………ちゃんと、中も……触って…」
命令から懇願へと変わる言葉におかしくなる。
これが付き合いだした当初であれば百瀬の陥落はもう少し遠い場所にあっただろう。
今や百瀬を落とすのは造作もないことだ。
そんな幸せが長村の中の獣を勢いづかせる。
百瀬の愛撫を願ってその肌に牙を突き立てる。
抱きしめて欲しくてその身体を抱こうとする。
そんな長村の獣を百瀬が許すからもう止まれない。
愛しい人を手放せないから、どんなことをしてでもさせてでも、溺れさせたくなる。
「いいよ。それなら、今度はあなたが這い蹲る番だね。さぁ、裕也。
這って舐めて。上手にできたら中をたくさん犯してあげるよ」
興奮に呼吸を荒げた百瀬の瞳がぎらついた。
ゆっくりと顔を上げ、そしてじっと長村を見つめたかと思うと、
その身体は浮かされたように動き、長村を床に引き倒して躊躇いもなく
下肢に顔を埋めた。
手が急くように前を寛げ、すぐに濡れた熱い感触が張り詰めたペニスを包んだ。
「ん……ん……っ…」
焦らして舐めることもせず、いきなり喉奥まで飲み込んだ百瀬の喉から
陶酔した声が溢れ落ちる。
味わうように舌を強く絡めながら何度も上下に頭を振りながら、
根元を指で扱かれる。
奉仕というよりは貪っているようなその姿にどれほど百瀬が乱されているかを知り、
熱を持った息を吐きながらいつもとは違う髪を撫でる。
その手を滑らせ頬を撫でると切なげな瞳が長村を射抜く。
焦がれるように激情を浮かべ細められる目が狂気に似た何かを滲ませた。
「…んぅ……は……忠臣……好きだ……愛してる………」
ねっとりと這う舌の合間で熱っぽく囁かれる言葉にどくんと下肢が疼いた。
「……大好き………だから、もっと俺にくれ………どんなお前も……全部欲しい」
貪欲な獣が夢中で獲物を食むように雄芯を舐る。
唇で裏筋を擦られ、何もかもを欲しがるように見つめられ軽く歯を立てられると
我慢などできなかった。
百瀬がしたように頭を押さえつけ、えずくほど奥まで突き入れると
百瀬が苦しさに涙を浮かべる。
それを見た瞬間、どくっと先端から勢いよく精液が溢れ出た。
「ぐ、っ…ぅ……」
喉の奥で出された百瀬が咥え込まされたまま噎せ、それでも開放されない
苦しさに長村の足に爪を立てる。
見開かれた瞳から生理的な涙が溢れ、くぐもった呻きだけが漏らされる。
粘膜が苦しさから逃げるためだけに何度も動き、それがたまらなく気持ちがいい。
苦痛を与えてしまうだけの長い放出を終えようやく引き抜くと、百瀬が喉を押さえて
咳き込んだ。
あんな状態にも関わらず大部分はちゃんと飲んだらしいが、それでも咳き込むたびに
床に粘度のある唾液とともに精液が落ちた。
「お前……っ」
流石に文句を言いたくなったのか百瀬が睨みつけてくる。
それに笑むことで返す。
「気持ちよかった？」
驚いたように百瀬が目を瞠った。
そして、また落ちる。
震える指先が頼りなくスカートを握り締め、視線が逃げるように俯いた。
僅かの時間を置いて、ちゃんと見ていなければわからないほど小さく百瀬が頷いた。
「いい子だね。さぁ、そろそろあなたも満足させてあげようか。……ああ、違うね。
あなたが天国に連れて行ってくれるんだっけ」
耳元で誘うように囁くと、百瀬が息を呑んだ。
そして、ゆっくりと持ち上がる視線はまた強さを孕ませ熱情に煽られていた。
心地いいその色に耳の後ろを擽ると、百瀬はうっすらと微笑んだ。
「ちゃんと連れていってやるよ。……どこまででも」
身体を起こした百瀬が少しだけ照れくさそうにしておもむろにスカートの中に
手を突っ込んだ。
そうして聞こえてくる布が引き裂かれる音。
もどかしげにベッドの下からクリームを取り出した百瀬がそれを指に取り、
まだまだ勃起の収まらない長村のペニスに丁寧に塗り込んだ。
そして、静かに押し倒される。圧し掛かる重みが囁いた。
「我慢できないからもう突っ込むぞ」
痛くても知るかと言いながら、乱暴な恋人がおざなりに自らの穴にもクリームを
塗りたくる。
そんなことをしてより痛いのは百瀬の方なのに申告通り我慢はできないらしい。
それほど欲しがってくれるなら多少の痛みなど幸せなだけだ。
「愛してるよ、忠臣……ずっと一緒にいような」
跨るようにしてペニスをあてがった百瀬が幸せそうに言う。
それだけで天国にいけそうではあるが、まだ早い。
「愛してるよ。おいで、裕也」
「んっ……あぁ…く、……ふ……凄いな。出したばっかりなのにもうこんなかよ……」
「あなたが可愛いこと言うからだよ…」
「人のせいにするな、変態っ……あぁ、ん……すご…奥までいっぱいになる…」
じゃれあうような言葉を繰り返しながらも百瀬がゆっくりと腰を落としていく。
解れてもいないそこはただただきつく、痛いほどだ。
一番太い部分を抜け、苦痛に表情を歪ませた百瀬が勢いよく腰を落とした。
「ひッ…ぁ………もう、無理………ッ」
苦しげに頭を振った百瀬が、堪えられないというように後ろに手をつき、
足を開いたまま激しく腰をゆする。
すっかりあらぬところまで捲れたスカートから脚も何もかもが露になる。
見せ付けるようにうっすらと強気な笑みを浮かべながら片手で自慰を始めた百瀬に
思わず苦笑してしまう。
落ちてなお落ちない恋人に愛しさが募る。
押し寄せる感情のまま腰を突き上げると女のように甲高い嬌声が漏れた。
「あ、ぁ……もっと……もっとここ擦って…」
淫らに動く腰が張り出した先端に一番感じる場所を擦りつけて快楽に泣き咽ぶ。
ぬるぬるとした気持ちよさがないかわりに離すまいときつく締め付けてくる粘膜に、
何もかもを搾り取られてしまいそうだ。
百瀬が動く度に収縮を繰り返す内壁が長村を貪るように包み込み、奥へと誘い込む。
「……締めすぎ………緩めて」
そんなに締められては長くはもたない。
もっと楽しみたくて願えば、涙まで伝わせているというのに百瀬がふふっと
愉しげに笑った。
「ん、ぁ……だーめ。好きだから離したくない」
「裕也ッ」
近づいてくる限界を察した百瀬が腰の動きを速めて一層強く長村に絡みつく。
身体を前に倒した百瀬が耳元にそっと口付けた。
「何度でもすればいいだろ。だから我慢するな。お前の、俺にちょうだい？」
囁かれ、理性は焼ききれた。
細い腰を掴み、下から乱暴に突き上げると百瀬が身体を
起こしていられなかったのかしがみついてくる。
ぬくもりに眩暈がした。
愛しげに粘膜が締まり、また絶頂が向かってくる。
「ん、く……ぅ……ああッ」
悲痛な嬌声が鼓膜を揺さぶった瞬間、また二度目とは思えないほど勢いよく
百瀬の中に吐精していた。
腕の中で百瀬の身体が痙攣したように震え、そして腹部に熱い濡れた感触を感じた。
きゅうきゅうと締め付けてくる肉襞が卑猥な水音を立てる。
荒い呼吸を繰り返す百瀬が突っ伏したまま、不意にくくっと喉奥で笑った。
「最高に気持ちいい……もう一回やろう？」
「………その格好で？」
「どっちでも」
くすくすと笑った百瀬が額にキスをくれた。
その身体を抱きしめ、長村も笑う。
「今度はありのままのあなたをちょうだい」
女装した百瀬も悪くはない。むしろ綺麗だ。
だが、それよりも何も偽らない百瀬の方が魅力的だ。
そんな願いに、年上の恋人は微笑んで、またキスをひとつくれた。



その後日。
百瀬と長村は、招かれた香芝とともにマフィンを食べていた。
正確にいえば、食べていたのは百瀬と香芝だけだ。
そして不意に、香芝が口を押さえて咳き込むことすら失敗してテーブルに突っ伏した。
何事かと驚いた長村に、百瀬はそれはそれは愉快そうに笑った。
曰く、「悪い子にはお仕置きしないとな」
百瀬がテーブルの上に放り投げたスライスアーモンドの袋と粉末状の唐辛子の袋を
見て、香芝が悔しそうに唸った。
流石に庇うこともできずに見守っていた長村に、懲りない人は帰るときには
また新作を持ってくると耳打ちした。
それをしっかりと耳に入れていた恋人は困ったように笑っただけだ。
まぁ、結局。
そんな恋人の表情も可愛くて、長村としてはそれは得でしかない出来事だった。