マイメロちゃんが女神だったら 8 

 カノンちゃんはマイメロちゃんのお世話係ですが、マイメロちゃんだけではなく、望まれれば他の幼い黄金聖闘士達のお相手もしています。
 今まで年長者として彼らの面倒を見ていたのはアイオロスとサガで、デスマスクとシュラとアフロディーテが、何となくその補助をしたり、面倒を見てもらうこともあったりという感じでした。
 年少者6人と、その上の3人の計9人が、年長者2人の取り合いになることも良くある光景ではありましたが。
 面倒を見てくれる人が増えたのならと、特にアイオロスにもサガにも特に執着の無いカミュさんなどは、空いているカノンちゃんの方にさっさと移動をしていました。
「これ、読んで。」
 そしてまた、今まで人に頼られるという経験のなかったカノンちゃんは、誰かの面倒を見てあげるのがとても楽しかったりしています。
 カノンちゃんが一生懸命絵本を読んであげていると、マイメロちゃんもカミュさんに並んでそれを聞いていてくれたりして、3人で色々な絵本を楽しんだりしていました。
 それから、シャカさんやムウさんなども、カノンちゃんのところにやってくるようになりました。
 頭が良く難しい話をしたい彼らは、アイオロスさんが相手では物足りず、しかしサガちゃんはサガちゃんで、優しく微笑んで聞いてはくれるものの、子供扱いされている感が拭いきれずに不満に思っていたのです。
 その点カノンちゃんは、幼い彼等とも対等に接し、真剣に考えて話し合ってくれるので、シャカさんもムウさんもカノンちゃんとお話するのが楽しみになっていました。
 アイオリアさんとアルデバランさんの体を鍛えたい派は、元々アイオロスさんがお気に入りです。
 少し上のシュラさんはアイオロスさんが大好きで、いつもそちらのお手伝い。デスマスクさんはどちらかというとサガちゃん派で、アフロディーテさんは我関せずの中間派という感じでした。
 なので、ここぞとばかりにサガちゃんに構ってもらおうとしたのは、ミロさんでした。
 ムウさんやシャカさんが嫌がる子供扱いは、ミロさんにはむしろ嬉しいことだったのです。
「サガー、遊んでー。」
 邪魔者のいない隙にと、ミロさんはうきうきしてサガちゃんにねだりましたが。
 最近のサガちゃんは、以前に比べて、随分と明るく快活になっています。
 サガちゃんは、満面の笑みを浮かべて、きっぱりとミロさんに云いました。
「いや。」
「………………なんで。」
「私は、カノンと遊ぶの。」
 サガちゃんはスキップするような足取りで、12宮の階段を登っていってしまいました。
 女神神殿にカノンちゃんがいるからです。

 そう。今のサガちゃんは、毎日毎日、カノンちゃんを構うことで忙しいのです。
 少し前までは、いい子にして、一点の非の打ちどころもない立派な聖闘士となって、教皇に選ばれることを目指していたサガちゃんですが、カノンちゃんがマイメロ女神様のお世話係として存在を許されるようになった今、その目標は無意味なこととなっていたのでした。
 なのでサガちゃんは、すっかりやりたい放題です。
「サガー、お勉強教えて。」
「サガ、組手の相手してー。」
「一緒に修行しないか、サガ。」
 等々の皆さんからのお誘いの全部を、にっこり笑顔できっぱりはっきり、
「いや。」
と、お断りしているのでした。
 だってサガちゃんは、カノンちゃんと遊ぶので忙しいのです。
 お勉強も組手も修行も、カノンちゃんとやりたいのです。

 サガちゃんが、あんまり毎日カノンカノンとそればかりなので、とうとうミロさんは怒って泣き出してしまいました。
「サガの馬鹿ー、なんだよ、カノンカノンってそればっかり!俺、カノンなんかだいっきらい!!」
 ミロさんがわめくのを聞いて、サガちゃんは顔色を変えます。
「なら、私も、ミロなんか大っ嫌い。カノンを悪く云う人は、皆嫌い。」
 サガちゃんは、険しい声と表情で、ミロさんにきっぱりと云いました。
 ミロさんは大声で泣き出してしまいます。
 その騒ぎを聞きつけて、マイメロちゃんを抱っこしたカノンちゃんと、アイオロスさんが駆けつけてきました。

「……ばか。」
 話を聞いたアイオロスさんは、サガちゃんの頭をごつんとぶちました。
「うわーん、カノンー、アイオロスがいじめるー。」
 サガちゃんはここぞとばかりにカノンちゃんに抱きつき、カノンちゃんはため息ばかりです。
 マイメロちゃんはミロさんの肩に乗り、よしよしとその頭を撫でていました。
 マイメロ女神様に慰められては、聖闘士として泣いてはいられませんが、でもやっぱり、カノンちゃんにべたべたして幸せそうなサガちゃんを見ていると、嫉妬で胸が焼き切れそうです。
「サガ、ミロに謝れ。」
 アイオロスさんはサガちゃんにそう云いますが、サガちゃんはカノンちゃんをだっこしたまま、つんっとそっぽを向きました。
「ミロが先に、カノンを悪く云った。私の弟を悪く云う人は、たとえ誰だって許さない。」
 サガちゃんの言葉に、カノンちゃんは真っ赤になります。
「おまえだって、アイオリアが悪く云われたら、絶対に怒るくせに。」
「うっ……。」
 弱いところを突かれて、アイオロスさんは呻きました。
 アイオロスさんは、マイメロ女神様の次にアイオリアさんが大事です。世界で一番可愛い、大事な大切な愛しい弟なのです。
 おんなじ兄の身として、そして、カノンちゃんが今まで隠されていたことを思えば、サガちゃんがカノンちゃんとくっついていたいという気持ちを自分に置き換えて考えると、アイオロスさんはサガちゃんに強いことが云えません。
「カノンが大好き。一番好き。私は、1分でも1秒でも長く、お前の側にいて、お前のことを考えて、お前の目に私を映していて欲しいのだよ。」
 サガちゃんはカノンちゃんをむぎゅむぎゅと抱きしめて、甘い言葉をささやいています。
 カノンちゃんはサガちゃんの激しい愛情が、本当はとても嬉しくてたまらないのですが、素直に喜ぶには、サガちゃんよりもちょっとだけ多く持ち合わせている羞恥心が邪魔をしていました。
 それでもぽんぽんとサガちゃんの背を撫でていたりして、傍目からはどう見ても、ラブラブ仲良しの双子さんの図です。
「あー、何だ、その、ミロ。」
 アイオロスさんは頭をぽりぽりとかきながらも、苦笑を隠して、ミロさんに話しかけました。
「サガはな、長いこと、カノンと引き離されていたから……、今はカノンを補充してるんだ。もう少しして、サガがカノンに満足したら、お前らのことも構ってくれるだろうから、もうちょっとだけ、サガにカノンを満喫させてやれ。」
「でもー、サガぁー。」
「よしよし。俺がミロと遊んでやるから。な?」
「マイメロも、ミロと遊んであげるー。」
 しくしく泣いてるミロさんを、肩に乗ったマイメロちゃんごと、アイオロスさんは片手でひょいと抱きあげました。
 そして、もう一方の手を、近くで心配そうに見ていたアイオリアさんに差し出します。
「おいで、リア。」
「うん、にーちゃん。」
 アイオロスさんは、弟のアイオリアさんの手をしっかりと握りつつ、サガちゃんの方をちらりと見ました。
『貸しひとつだぞ、サガ。』
 アイオロスさんはサガちゃんに、こっそりと小宇宙通信を送ります。
 弟を愛する者同士の、共感と譲歩のつもりだったのですが。
 しかしサガちゃんは、全くそれを聞いていませんでした。
『ごめんな~。』
 代わりに返ってきた小宇宙は、半泣きのカノンちゃんからのものだったりして。
 アイオロスさんは、色々と不安になったのでございます。
 そして、その不安通り、サガちゃんがカノンちゃんを満喫し終わるその日は、永遠にこなかったのでありました。
  
2008/05/13 






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