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「もうすぐバレンタインですが、何かなさいますか、マイメロちゃん。」 2月に入ってすぐ、カノンちゃんはマイメロちゃんにそうお伺いを立てました。 マイメロ女神様は、聖闘士達をとても大切にしてくださる御方です。今回のこの行事でも、聖域に住む者達との交流を深めようと思し召しならば、そのお手伝いをするのがマイメロちゃんのお世話役のカノンちゃんの務めというものでした。 御衣裳や用意するもののことを考えると、そろそろ準備を始めなくてはなりません。 「ええ、もちろん。バレンタインには、皆にたこをあげないとね。」 「……たこ、ですか?」 「うん、たこ。」 マイメロちゃんはにっこり笑って云いました。 マイメロちゃんは女神様。 マイメロちゃんのおっしゃることは絶対なのです。
そして当日。 「みんなー。ばれんたいんたこー!」 マイメロちゃんの素敵な笑顔は、今日もきらきらと輝いています。 「黄金聖闘士は12個、白銀聖闘士は8個、青銅聖闘士は6個で、その他の人達は4個ね。」 「はい、気合いを入れて焼きます!」 「俺もがんばりますよ、女神。」 今回のお手伝いは、カノンちゃんだけではたいへんなので、教皇のアイオロスさんも参加することになりました。 「わーい、がんばって、カノンーv」 サガちゃんは脇でカノンちゃんを応援する係に勝手に立候補し、勝手に当選していました。 今回、バレンタインで配るものは、たこやきです。 最初カノンちゃんは、たこを取りに海に潜る気満々でしたが、けれども聖闘士だけでも88匹のたこが必要になります。 雑兵達の分まで入れたら、近くの海のたこを取りつくしてしまうかもと心配したマイメロちゃんは、たこを分割して使えるたこやきを配ることを提案なさったのでした。 女神は地上を守る神様なのに、海の平和にまで心を配るとても心優しい御方だと、カノンちゃんのマイメロちゃんに対する敬愛は深まるばかり。 カノンちゃんは今日の為に、たこやきを美しくひっくり返す訓練を欠かしませんでした。 そしてもちろん、マイメロちゃんの御衣裳もお作りいたします。 今日のマイメロちゃんは、たこのような赤い可愛らしいはっぴを着て、額には凛々しくはちまき。 可愛らしく口ずさむのは、たこのあーたまにはーちまきまいて、きゅーっとしーめてーもーしまらーないー♪ でした。アイオロスさんもこの歌が大層気に入ったようで、マイメロちゃんと一緒に歌っています。 そんな教皇様も、マイメロちゃんと色違いのお揃い姿。たいへんありがたい、女神と教皇のデュエットです。 ついでにカノンちゃんと、何故かサガちゃんまではっぴにはちまきだったりしています。サガちゃんは何もお仕事をしてはいませんが、大きなたこやき機の鉄板と、『ばれんたいんたこ』ののぼりまで立っているので、多分サガちゃんも、ちょっとはお祭り気分を盛り上げるのに役立っているのかもしれません。 本日はバレンタインです。 けれどもカノンちゃんは、たこやきを焼くのに一生懸命。銀河の星々をひっくり返すかのように、カノンちゃんは鮮やかな手つきでくるくるとたこやきをひっくり返していきます。 アイオロスさんはそのたこやきを船皿に乗せてソースとかつおぶしと青のりをかける係で、マイメロちゃんはそれにつまようじを差して、一人ずつに手渡す担当でした。ちなみにマヨネーズは、お好みでセルフサービスです。 聖闘士や雑兵達は、あちこちの国から集まっているので、中にはたこを食さない国の人達もたくさんいるのですが。 そんなあれやこれやも、マイメロちゃんの可憐な笑顔と、女神の御威光の前には些細なものです。 「ぱくーって食べてね。たこやき、とーってもおいしいよv」 可愛い可愛いマイメロちゃんの笑顔に、皆は素直に、ぱくーっとたこやきを食べました。 「ははは、ちょうど一口サイズだからな。」 アイオロスさんもさりげなくそれを奨励しながら、楽しそうに笑っています。 カノンちゃんが一生懸命焼き続けているたこやきは、できたてあつあつ。外側はぱりっとして、中はとろとろ、たこの噛みごたえも最高です。 「たこやきをひっくり返すカノンって、なんて素敵なんだろう……v」 そしてサガちゃんは、一心不乱にたこやきを焼き続けるカノンちゃんの横で、きらきらしながらその雄姿を見つめ続けてうっとりしていました。 女神様のおっしゃる通り、ぱくーっとたこやきを食べる聖域の皆さんは、滝のように涙を流している者達も少なくありませんでした。マイメロちゃんの愛が心に染みたり、たこが怖かったり、口の中があつあつはふはふだったりと、様々な理由のようでした。 「みんなー。ばれんたいんたこー!」 「「「たこー!」」」 マイメロちゃんの素敵な笑顔に、皆のかけ声が返ります。 聖域のバレンタインは、問答無用でたこでした。
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2010/02/11 |
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