歌ちゃんとマイメロちゃんとカノンちゃん 

「ぴんぽーん
「はーい、どちら様ですかー。」
 夢野家のチャイムが鳴り、歌ちゃんは急いで玄関に向かいました。
「マイメロさんが風に飛ばされてきたのを保護したので、こちらまでお連れしました。」
「ええっ。」
 扉越しに聞こえた声の内容に、歌ちゃんはびっくりです。
「歌ちゃーん。」
 そして続けて聞こえるマイメロちゃんの声に、歌ちゃんは慌てて覗き窓から外を見ました。
 するとそこには、にこやかな笑顔で手を振っているマイメロちゃんの姿が。
 マイメロちゃんを連れてきてくれた人の姿が見えないのは、その人がマイメロちゃんを、のぞき窓のところに掲げているからなのでしょう。
「い、今あけますっ。」
 歌ちゃんは、玄関のドアを開けました。
「わーい、歌ちゃんただいまー。」
 嬉しそうなマイメロちゃんの声と、それから。
「こんにちは。」
 マイメロちゃんを手に乗せ、同じくらいにっこり笑うその人は、鮮やかな金髪を腰より長く伸ばした、言葉も出なくなるくらいに美しい外国の青年でした。
 しかし目線を下に移せば、たくましい肉体を覆っているのは、色褪せて擦り切れた洋服です。
 更に下を見れば、太腿の真ん中あたりから生足がまるだしです。
 その人は、反応ができずにいる歌ちゃんを見て、何か誤解した様子です。
「日本語は問題なく話せます。俺はカノン。どうぞよろしく。」
 丁寧に挨拶してくれる声は甘く低く、どこか柊先輩に似た響きを持っていましたが(笑)、そういうことを知りたいのではありません。
「今日は風さんが強かったからー、マイメロ、とっても大変だったんだよぉー。」
 マイメロちゃんは一生懸命歌ちゃんに訴え、そんなマイメロちゃんを、カノンと名乗った外国の青年は幸せそうに見つめています。
 その表情もまた幸せに満ちて麗しく、首から下さえ見なければ、ついうっとりしてしまいそうなほどなのですが。
「でもそのおかげでマイメロちゃんと知り合えたから、俺は風さんに感謝したい気分だな。」
「マイメロも、カノンさんとお友達になれて、とっても嬉しー。」
「俺も、マイメロちゃんとお友達になれて、とっても嬉しい。」
 青年は、頬を染めてマイメロちゃんと見つめ合っています。
「……あ、あの、マイメロがお世話になりました。良かったらお茶でも……。」
 歌ちゃんは更に反応に困りながらも、青年にそう勧めました。
「マイメロ、お礼にタルト焼いてあげる。マイメロのタルト、とぉってもおいしぃんだよぉー。」
「わあ、嬉しい!ありがとうマイメロちゃん、とっても楽しみー。」
 青年は、幸せそうにマイメロちゃんを抱きしめて、きゃいきゃいとはしゃいでいます。
 マイメロちゃんも、青年の真っ赤に染まった頬を擦り寄せられて、とてもとても嬉しそうです。
 けれど歌ちゃんは、立派な大人であろう、怪しい恰好の美貌の青年が、満面の笑みでピンクのぬいぐるみと戯れている様子を見て、激しく微妙な気分になっていたのでした。
 
2008/02/03 






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