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カノンちゃんはマイメロちゃんを海底神殿にお招きしていちゃいちゃしていました。 すると突然、海界の結界が大きく揺れたのを感じたのです。 「うわっ、なんだ!?」 カノンちゃんは慌てて北大西洋の柱から飛び出しました。 マイメロちゃんも一緒です。 「どーしたの?」 「判んない、けど、マイメロちゃんには怪我ひとつ俺がさせないさ。」 「きゃっ、カノンさん素敵v」 などといちゃつきながら、異常の発信源に向かってカノンちゃんが走っていくと。 「うわっ。」 海の空から人が落ちてくるのが見えました。 どうやら外の世界から、その人が落ちてきたようです。 カノンちゃんは大慌てでその人の下まで走り、受け止めました。
「うー……。」 ウソップは低くうめいて、目を開けました。 何だか目の前がきらきらしています。 「ようこそ、海底神殿へ。」 「……は?」 そこには金色の髪の、海のような瞳をした、とてつもなく美しい青年がいました。 床だか地面だかに寝せられているウソップを、その人が見下ろしています。 思わず呆然として見惚れてしまうくらい、夢のように美しい男の人でした。 「ようこそー。」 その視界にひょっこりと、ピンクの頭巾のうさぎのぬいぐるみさんが顔を出します。 あ、チョッパーの親戚?と、ウソップは一瞬、素で思ってしまいました。 「俺はカノン。北大西洋の柱を守護する、海界海将軍筆頭海龍のカノンだ。」 深くやわらかく響く声が、自己紹介らしき言葉を紡ぎます。 「わたしはマイメロディ。マイメロって呼んでね。」 とろけるように甘ったるい可愛い声も、自己紹介してくれました。 「でも、ごめんなさい。今はもう、海闘士の募集はしていないんだ。申し訳ないけれど、君の望む場所まで俺が責任を持って送り届けるので、すみませんがどうぞお引き取り下さい。」 あ、ぬいぐるみがしゃべってる……と、ウソップがぽかんとしていると、カノンと名乗った美青年は、ウソップに深く頭を下げました。 ウソップはますますきょとんとして、けれども、望む場所まで、という言葉に、そうだよサニーに帰らなくちゃ!と、今一番大事であろうことを思い出しました。 慌ててがば、と体を起こします。 「ここはどこだ!?」 「海底神殿だよー。」 「海の神、海皇ポセイドン様が司る海の底の世界だ。おまえもここまで落ちてこれたからには、海闘士の素質があるのだろう。けれど今は、半ば封鎖されているような状況なので、新しく募集はしていないんだ。本当にすまない。……ところでおまえ…………、タツノオトシゴの精霊かなんかか?」 「お鼻長いねー。」 「こりゃあ、母ちゃん譲りの自慢の鼻だ!」 美青年とぬいぐるみが二人して、不思議そうに鼻を見つめてくるので、ウソップは思わず大きな声をあげてしまいましたが。 「へー、そうなのか。」 「わー、すっごぉーい。」 2人そろって、妙にきらきらとした目でウソップのお鼻を見つめてくるので、何だか微妙にいい気分になります。 てゆーか、今はいつでここはどこでおれはどうしたんだ。 ついつい調子に乗ってしまいがちなウソップですが、それどころでは本当にないのだと思い直しました。 あんまり見ると目がくらみそうではありますが、ウソップは改めて、カノンと名乗った男を見直します。 きらきらの金髪はサンジの髪よりも濃い金髪で、その瞳は海のよう。膝をついているので判りませんが、身長はロビンくらいもあるでしょうか。よく鍛えているらしい体は、美しい筋肉の付き具合です。こんな場合じゃなかったら、絵のモデルになってもらいたいくらいでした。 ウソップはその視線を、その横でぴょいぴょい跳ねているぬいぐるみにも移します。 ピンクの頭巾の白うさぎさんは、真っ黒なお目目と黄色い鼻で、ふんにゃりした体のラインがとっても可愛らしいです。 訳の判らない組み合わせに、こんな異常事態ではありますが、ウソップは恐怖を感じません。 「おまえ、どこから来たんだ。名前聞いてもいいか。」 そこに質問されて、ウソップは思わず胸を張ってしまいました。 「おれ様の名は、キャプテーン・ウソップ! 8000人の部下を持つが、今現在は麦わらの一味に身を置いている勇敢な海の戦士だ!おれの高名は5つの海を駆け巡るぜ!」 「わー、すっごぉーい。」 マイメロちゃんはまた歓声をあげました。 けれどもカノンちゃんは、ウソップの言葉に深く眉を寄せました。 「おまえ、今、5つの海って云ったか。」 「……お、おう。」 突然深刻になったカノンちゃんの様子に、ウソップはびくびくしてしまいます。 「その5つの海の名を云え。」 「あー?何云ってんだ?」 この大海賊時代において、海の名を知らない者などいる筈がありません。びっくりするウソップに、けれどカノンちゃんはもう一度急かしてきます。 「おれの故郷イーストブルー、それからノースブルー、ウエストブルー、サウスブルー。そしてグランドラインだ!」 ウソップは精一杯堂々と答えますが、カノンちゃんの表情は険しくなるばかり。 カノンちゃんは突然、ウソップに顔を寄せると、体のにおいをくんくんと嗅ぎ出しました。 「え、な、何、おいちょっとあんた!」 何だか無性に気恥しくなり、ウソップはじたばたしますが。 カノンちゃんはすぐに顔を離すと、重々しく云いました。 「俺の知らない海の匂いがする……。」 カノンちゃんは、まっすぐにウソップを見つめ、結論を述べました。 「おまえは、他の世界からここに来たようだ。ここの海はおまえの海じゃない。この世界の海は七つの海、俺の守護する北大西洋、そして南大西洋、北太平洋、南太平洋、北氷洋、南氷洋、インド洋。」 「……え?」 カノンちゃんの云いだしたことも、初めて聞く知らない海の名前も、ウソップが一瞬で理解できることではありません。 「ひとまず、ここに落ちてくる前のことを、全て話せ。」 カノンちゃんは腰を据えて聞く構えで、地面に座り直します。 その膝の上にマイメロちゃんがよいしょとよじ登り、これまた真剣に話を聞く構えです。 「え、えーとだな……。」 ウソップは内心では非常に焦りながらも、懸命に記憶を掘り起こしました。
嵐が来たのです。 敵襲も来たのです。 多少船員が増えても、それを同時にこなすことは果てしなくたいへんです。 ましてや悪魔の実の能力者が4人もいる麦わら一味。雨が激しくなり、波が甲板まで乗り上げるようになってきてはどうしようもありません。 そして、あれやこれやの何かの拍子に、ウソップはサニー号から荒れ狂う海へと落ちてしまったのです。 ゾロが必死に呼ぶ声を最後に、ウソップの記憶は途切れていました。 「あれっ、おれ、肩撃たれてなかったっけ。」 「治した。」 「治した、の……?」 「おう、治した。」 「大丈夫よ、もう痛くないわ。」 カノンちゃんのきっぱりした声を、マイメロちゃんも優しく補足します。小宇宙治療です。 「マイメロちゃんのばんそーこだけじゃ、治りそうになかったからな。」 「ねー。」 カノンちゃんとマイメロちゃんは顔を見合わせてにっこりしましたが、マイメロちゃんはばんそーこを張るのがものすごくお上手の反対なので、カノンちゃんに治してもらえたのは幸いでした。 ウソップは不思議そうに自分の肩を眺めましたが、薄く痕が残っているだけです。 「まあとりあえず、何らかの偶然で、ここと繋がったんだろうな。ここまでこれたんだから、おまえにも海闘士の素質はあるんだろうけど、云った通り今はもう募集してないから、海界に置いてやる訳にはいかないし。おまえの世界は俺がどうにか探してやるよ。」 「えーと、おれも、自分のところに帰りたいです。よろしくお願いします。」 何だか頼りがいがあるような感じのカノンちゃんに、ウソップはまだ状況をつかみきれないながらも、ぺこんと頭を下げました。 「わーいカノンさんかっこいーv」 「えへへ、マイメロちゃんもかわいーよv」 かと思うと、いきなり生きて動くぬいぐるみときゃっきゃと戯れていて、つかみどころのない人ではありますが。 この場合、他に頼る人もいなければ、サニー号に帰る手段も見つけられそうにありません。 皆心配してるだろうなあ、と、ウソップは深くため息をつきました。
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2010/02/19 |
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