マイメロちゃんがサニー号にいたら 7 

 マイメロちゃんがサニー号の上をお散歩していると、すみっこの方で、ゾロとウソップがくっついているのを見つけました。
 なのでマイメロちゃんは、ぽてぽてとそちらに近づいていきます。
 側まできて、声をかけようとしたマイメロちゃんは、大きなおめめをぱちくりとさせました。
 ゾロとウソップはむぎゅと抱き合っていて、そのお口とお口がぴったりくっついているのです。
「……ちゅーしてる。」
 マイメロちゃんの呟きに、ようやく観客がいることに気付いた二人は、大慌てで離れました。
 真っ赤になったウソップは、激しくうろたえています。
 ゾロは、まあ見られたならいいかという雰囲気ですが。
「だから真昼間からダメだって云ったのに!」
「おまえだって嬉しそうにしてただろうが。」
「なっ、……してねぇ!」
「してた。」
 どたばたといちゃついている2人を、マイメロちゃんはにこにこと見ていましたが、突然はたと気が付きました。
「やーん、マイメロ、空気読まなきゃ。」
 そうです。お邪魔をしてはいけません。
 ぱたぱたと走り去るマイメロちゃんの後ろで、ゾロが続きを始める気配と、ウソップが騒ぎたてる声がしましたが、マイメロちゃんは今度こそ、空気を読んで振り向かなかったのであります。


「ゾロくん、ウソップくん。先刻はごめんね。」
 食事中はおしゃべりをする余裕なんかないのが、麦わら一味の通常です。
 なので食後、おいしいお茶が出されてから、マイメロちゃんはゾロとウソップに謝りました。
「何だ、何かあったのか?」
 心配そうなチョッパーに、マイメロちゃんはこくんとうなずきます。
「あのね、ゾロくんとウソップくんがちゅーしてたの。マイメロ、お邪魔しちゃったの。」
「ぎゃー!!」
 ウソップが止めようとしたけれども間に合わず、思いっきり暴露されてしまって、盛大な悲鳴が上がりました。
「てめえら、レディの前で何してやがるんだ!」
 サンジはウソップを蹴り飛ばし、ゾロと喧嘩を始めました。
「アウ!若いもんはいいねぇ。」
「仲良きことは美しきかなですね、ヨホホー。」
「……びっくりしちゃった?マイメロ。ゾロもウソップも、男同士だしね……。」
 フランキーとブルックが陽気にからかっていますが、自分も最初はびっくりしたチョッパーは、マイメロちゃんを気にしています。
「ううん。愛さえあればそんなの関係ないって、マリーランドのママが云ってたわ。」
 マイメロちゃんはにっこり笑って云いました。
「そっか。ならよかった。」
「うん、ゾロくんとウソップくんはラブラブなのね。」
「そうなんだ。人間は、愛があれば同性でもつがいになるんだって。素敵なことらしいぞ。」
「そうね、素敵ね。」
 ぬいぐるみとトナカイは、幸せそうにうなずきあいました。
「な、ロビン。」
「え、ええ、そう……ね。」
 突然話を振られてびっくりなのはロビンです。かつて悩んでいたチョッパーに、色々教えてあげたのが彼女だったのでした。
「……素敵なことなの、ロビン?」
 普段なら、こんなうるさい騒ぎになったら、元凶を一発殴っておくナミですが、今はロビンに迫る方が先決です。
「ナ、ナミっ。」
「素敵なことなんでしょ?」
 嬉しそうにロビンに迫っているナミを見て、マイメロちゃんはびっくりしました。
「ナミちゃんとロビンちゃんも、ラブラブなの?」
「なんだ、知らなかったのか?」
「うん。そっかー。ナミちゃん嬉しそう。」
「ロビンもな。」
 マイメロちゃんとチョッパーはますますにこにこ。
 大人組も優しい目をして、いちゃつく女たちを見守っています。
「そんなー。ナミすわーん、ロビンちゃあぁん……。」
 今の今まで、ゾロと盛大な喧嘩をしていた筈のサンジだけが、淋しそうにぐるぐる眉毛をへにょんと落としていました。
「どうして俺じゃ駄目なんですかー……。」
 よよよと泣き崩れるサンジの姿に、マイメロちゃんは、あれ、と首を傾げます。
「サンジくんは、ナミちゃんとロビンちゃんがらぶらぶなのが嫌なの?」
「え、あ、そんな、反対してるんじゃないんだよマイメロさん、ただ、あの、俺は…。」
 不思議そうに尋ねるマイメロちゃんに、サンジは大慌てで云い訳を始めました。
 決して反対している訳ではないし、むしろ応援だってしているのです。ただ、サンジは本当に本当に本当にものすごく女の人が大好きなので、ちょっと淋しいだけなのです。
「サンジくんだって、ルフィくんとちゅーしてたのにー。」
 ルフィくんがいるのに、そんなことを云ったら、めっ。だよ。
 と、マイメロちゃんはとっても可愛くサンジを叱りました。
 普段なら、そんなマイメロちゃんにめろめろになる筈のサンジですが、今は真っ青になっています。
「な、マ、マイメロさん、いつ見てたの……?」
「何だ、知ってたのか、マイメロ。」
 今まで黙っていたルフィが、にししと笑って云いました。
 マイメロちゃんは、うん、とうなずきます。
「夜遅くに、お台所でしてるの見たの。でも、どうして2人とも、はだかんぼさんだったの?お風邪ひいちゃうよーって思ったんだけど、その時はマイメロ、ちゃんと空気読めたの。」
 マイメロちゃんは、えっへんと胸を張ります。
「それは交尾の最中だったんだな。邪魔しなくて偉いぞ、マイメロ。」
 そんなマイメロちゃんを、チョッパーが褒めてあげました。
「こーび?」
 でもマイメロちゃんには、その言葉の意味が判りません。
「ああ、それはだな。」
 チョッパーはマイメロに交尾が何なのかを教えようとしましたが、それより早く、2人の間ににょっきりと腕が生えました。
 ロビンです。
「やーーーーん。」
 ロビンの腕に放り投げられてしまったので、マイメロちゃんはチョッパーの説明を聞くことができませんでした。
「チョッパー、マイメロに変なことを教えないで。」
「変なことなのか?」
「変だなんて、失礼ね、ロビン。それも素敵なこと、に、含まれるんじゃないの?」
 不思議そうなチョッパーと、逃げても追いかけてくるナミに、ロビンはとても困っています。
 さて、マイメロちゃんはどうしましょう。
 ぐるりとダイニングの中を見渡してみますと、ルフィはいつのまにかサンジにぐるぐる巻きついていますし、ゾロもウソップを羽交い絞めにしています。
 マイメロちゃんは空気の読める女の子。
 なのでマイメロちゃんは、騒ぎに加わっていない、ブルックとフランキーのところへ行きました。
 フランキーがテーブルの上に乗せてくれて、ブルックはマイメロちゃんのカップを取って紅茶のおかわりを注いでくれました。
「はー、紅茶がおいしい。」
「ええ、紅茶はおいしいですねー。」
「コーラもうまいぞ。」
 3人だけで、仲良くティータイムの続きです。
「この船の人たちは、皆、とってもなかよしさんね。」
 マイメロちゃんは、もう収拾のつかなくなっている騒ぎを、この一言でまとめました。
「そうですね。いやいや、若いとは羨ましい。」
 ブルックも、その一言で終わらせようとしています。
「…………まあ、馬に蹴られたくはねえからな。」
 超然とした2人に苦笑して、フランキーは云いました。
「ええっ、お馬さんに蹴られちゃうの?おんまさんやーん。」
 マイメロちゃんは、フランキーの言葉にぶるぶるして、やーんやーんと首を振ります。
「大丈夫ですよ。マイメロさんのことは、私がお守りします。」
「わーい、ありがとうブルックさん。」
 ブルックさんに撫で撫でしてもらって、マイメロちゃんはとっても嬉しそうに笑いました。
 とても楽しそうなぬいぐるみと骸骨の姿に、フランキーはまた苦笑です。
「……やれやれ。本当に羨ましいねェ。」
 今日もサニー号はとってもにぎやか。
 船内の空気は、マイメロちゃんの頭巾にも負けないくらいの、濃厚なピンク色でした。
 
2008/10/17 






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