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いつもの修行の後、ゾロはお風呂に入って汗を流していました。 頭も体も石鹸ひとつで、あわあわになっていた時です。 浴室の扉の向こう側に人の気配がしました。 「ゾロくーん、お風呂入ってるのー?」 マイメロちゃんです。 「おー。」 ゾロが適当に返すと、マイメロちゃんはとんでもないことを云いました。 「マイメロも一緒に入っていーい?」 ゾロはびっくり仰天です。 可愛い女の子と若い男が、一緒に入浴するなど言語道断です。 ……いや待て。 ゾロは慌てて断ろうとして、はたと気付きました。 それはまあ確かに、マイメロちゃんは女の子です。 でもぬいぐるみです。 てゆーか、マイメロってあいつ、そもそも服着てないよな……? ええ、だって、マイメロちゃんは可愛い可愛いうさぎさんのぬいぐるみさんですもの。 いつもいつもサンジが、マイメロちゃんのことも麗しいレディ扱いしているので、うっかりゾロも影響されてしまっていたのかもしれません。 ぬいぐるみさん相手に動揺してしまった自分がむしろ恥ずかしくなって、ゾロは投げやりっぽい口調で扉の向こうに声をかけました。 「好きにしろ。」 「わーい。」 ゾロがシャワーで全身の泡を流していると、扉が開いて、マイメロちゃんが中に入ってきました。 「ゾロくん、マイメロのこと洗ってくれる?」 「……いいぞ。」 てけてけと近寄ってくるマイメロちゃんに、ゾロはまたちょっと動揺してしまいつつも、素早くタオルをかけて前を隠すと、膝の上にマイメロちゃんを抱き上げました。 「あー……、女用の使うんだよな。」 ゾロは石鹸を泡立てようとして、マイメロちゃんはそちらではなく、女性用のボディソープを使うのかと思い直しました。 そしてまた、スポンジ……いるのか? マイメロの中身って綿だよな? と悩みながらも、手に取ったボディソープをマイメロちゃんに塗りつけました。 さすがはマイメロちゃんはぬいぐるみ。とっても良く泡立ちます。 「あーきもちいー。」 「……そうか。」 ゾロはチョッパーを洗うのに慣れているので、マイメロちゃんを洗うのも不自由はないといえばないのですが、色々と複雑な気持ちです。 その時です。 「私もお邪魔するわね。」 浴室の扉がまた開いて、すっぽんぽんのロビンが入ってきました。 「――――っ!!!!」 ゾロは動揺のあまり、声も出ません。 「ロビンちゃん、遅ーい。」 「だって私、服脱がないとならないんだもの。」 どうやらマイメロちゃんと一緒に上がってきていたらしいロビンは、服を脱いだり髪をまとめたりする分、入ってくるのが遅れたようでした。 「あらマイメロ、気持ち良さそうね。」 「うん、ゾロくん、洗うの上手ー。」 「まあ、じゃあ、私も背中流してもらおうかしら。」 ロビンはつかつかと洗い場のゾロのところに寄ってきました。 「てっ、て、ててててててめえ、何でてめえまで入ってきやがる!」 「だって私もマイメロと一緒にお風呂に入りたいもの。ゾロばっかりずるいわ。」 そういう問題ではありません。 絶対にありません。 マイメロだけならまだしも、ゾロとロビンが一緒にお風呂に入るなど、許されていいことではないとゾロは思います。 動揺しまくりのゾロをロビンは不思議そうに見て、それから、ああ、と手を叩きました。 「大丈夫よ、余計なところは見ないであげるから。」 「………………。」 どうやらロビンは、自分の裸をゾロが見ることではなく、ゾロが彼の体を見られることを恥ずかしがっているのだと思ったようです。 それはとっても違います。 いや、まるっきり違うということもないのですが。 「マイメロ、とってもあわあわ。気持ち良さそうね、さわらせて。」 固まってしまったゾロに構わず、ロビンはマイメロに手を伸ばして、あわあわの体を抱き上げました。 「ふふふ、いい香り。ナミちゃんが新しいボディソープ出したって云ってたのこれね。苺の匂い、おいしそう。」 「マイメロ、苺、大好きよ。」 マイメロちゃんとロビンは、そんな話をきゃっきゃとして、とても楽しそうです。 そしてゾロはとってもいたたまれません。 壁に張り付きたいような気分のゾロの背中を、マイメロちゃんとロビンちゃんがふと見ました。 「ゾロくん、胸は大きなお傷があるけど、背中はとっても綺麗なのね。」 「……背中の傷は剣士の恥だ……。」 「そっかー。ゾロくんはとっても強いものね。」 マイメロちゃんはこくこくとうなずきました。 「そうだ、マイメロ、ゾロくんの背中洗ってあげる!」 マイメロちゃんはゾロの背中にぴょんと飛びつきました。 「え、お、おいっ。」 あわあわな体のマイメロちゃんは、ゾロの背中から滑り落ちそうになりましたが、ロビンが手を伸ばして押さえつけてあげます。 「なら、私も手伝ってあげるわ。」 「ありがとー、ロビンちゃん。」 にっこり微笑むロビンとマイメロちゃんです。 ロビンはマイメロちゃんの体をしっかりつかむと、マイメロちゃんをスポンジ代わりにして、ゾロの背中をごしごしと擦り始めました。 「お、おれはもう、体洗った…っ!」 「あら、女の子の好意を無碍にするものではないわ。」 うろたえるゾロが真っ赤になっているのを見て、ロビンは意地悪な笑顔になりました。 マイメロちゃんで体を洗われて、真っ赤になって照れているゾロを、可愛いと思ったのです。 でも多分それはちょっと違いますが、可愛い可愛いマイメロちゃんが大好きなロビンは、そう信じて疑わなかったのであります。 「マイメロみたいな可愛い子に、無料で泡踊りしてもらえるなんて……、あなたって幸せ者ね。」 ……いやまあ確かに、体で体を洗ってもらっている状態ではありますが。 「てめ、なんつーことを……。」 云いやがる、と、ゾロは最後まで文句を云うことはできませんでした。 うっかり振り向いてしまったゾロの腕に、すぐ側まで来ていたロビンの胸が、ぽよよんとぶつかってしまったのです。 「わり…っ。」 焦ったゾロは、うっかりして、ロビンのすっぽんぽんを思いっきり見てしまいました。
そして。
「チョッパー! チョッパー、早く来て!」 「やーん、ゾロくん、死なないでー!」 豪快に鼻血を吹きだしたゾロに、ロビンもマイメロちゃんも大慌てすることになったのでした。
更に。 「マイメロに体を洗ってもらって、興奮しすぎちゃったのね。仕方がないわよね。からかいすぎて悪かったわ。」 ロビンに果てしなく見当違いの同情をされたり。 「てめえ、マイメロさんとロビンちゃんと一緒に風呂に入っただなんて、何て羨ましいことをしてやがるんだ! おれも誘えよ!」 サンジに激しく絡まれたり。 「私のロビンの裸を見たなんて、許せないわ! 100万ベリーでも足りないくらいよ、借金上乗せよ!」 ナミに目一杯怒鳴り散らされたり。 「……ゾロはおれ相手じゃ鼻血なんか吹かないよな……。」 ウソップに拗ねられて一週間くらいお預けを食らわされたりと。
大量の災難が、ゾロを待ち受けていたのでした。
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2009/01/26 |
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