マイメロちゃんがサニー号にいたら 11 

 図書館に行こうとしたロビンは、みかんの木の木陰で寝っ転がっているゾロが、マイメロちゃんを枕にしているのを見つけました。
「うがっ。」
 たくさんの手を甲板に生やしたロビンは、ゾロを転がすようにして放り出し、つぶれているマイメロちゃんを確保しました。
「いってぇ……、何しやがる、ロビン!」
「それはこっちのセリフだわ、マイメロになんてことしてるの!」
 ロビンはマイメロちゃんがとても大好き。
 その、可愛い可愛いマイメロちゃんに何という仕打ちをと、怒った顔をしていました。
「違うの、ロビンちゃん―。」
 ロビンに抱っこされたマイメロちゃんは、ロビンの胸をぱふぱふ叩いて、一生懸命云いました。
「何が違うの、マイメロ。あなた、ゾロに枕にされて押しつぶされてたんじゃないの?」
「あのね、マイメロ、ゾロくんに膝枕してあげてたの。」
「…………あら。」
 そうなのです。
 マイメロちゃんは、マイメロちゃんなりに、ゾロに膝枕をしてあげていたのです。
 ただ、そのお膝、というか、あるのかどうか判りませんが太腿からお膝にかけての、本来の膝枕の場合に使用する部分、その面積がとても少なくて、そこだけではゾロの頭を乗せきれなかったのです。
 マイメロちゃんは小さいので、体全体を使わないと、ゾロの枕になれなかった、と、そういうお話です。
「膝枕って……、奥が深いのね。」
 ロビンはマイメロちゃんのお話を聞いて、真剣なお顔になりました。
「マイメロね、ゾロくんの腹巻の中でお昼寝するのがとっても好きなの。でも、マイメロばっかりいつも悪いから、ゾロくんに膝枕してあげて、気持ち良く眠れるように、恩返ししようと思ったの。」
 マイメロちゃんはロビンに、こうなった経過をお話します。
「ああ、マイメロって、本当に優しいのね…。」
 それを聞いたロビンは、感激の面持ちでした。
「……なあ、どうでもいいから、おれもう昼寝していいか?」
 そんなロビンに、ため息混じりのゾロが声をかけます。
 ロビンは少し考えて、それから、マイメロちゃんを抱っこしたまま、その場に座りました。
「いいわ。私がマイメロの代わりに、ゾロに膝枕してあげる。」
「ロビンちゃん、いいの?」
「ええ。だって、マイメロだとゾロの頭につぶされてしまうもの。その代りに、代役の間、私がマイメロのことだっこしててもいい?」
「うん、ありがとー、ロビンちゃん。マイメロ、ロビンちゃんのだっこ大好き。」
「私もマイメロをだっこするの大好きよ。」
 ロビンはにっこり笑顔でマイメロちゃんを抱きしめ、そして、甲板に生やした手で、固まっているゾロを強引に引きずり寄せました。
「お、おい、ロビン待て、おれは枕なんかいらねえ…っ。」
「マイメロの厚意を無碍にするなんて、許されないわ。」
 花の手が嫌がるゾロを引きずり倒し、頭を引っ張ってきて、ロビンの太腿に乗せます。
「はい、じゃああなたはここ。おやすみなさい。」
 ゾロの体はしっかりとたくさんの腕に押さえられていて、それは勿論ゾロが本気で暴れれば何て云うこともありませんが、仲間を傷つける訳にもいきません。
 でもこのまま、眠れるような心境でもありません。
 マイメロちゃんの枕は綿がたっぷり詰まってふかふか。ロビンちゃんの枕も張りがあって暖かく良い弾力でありますが。
 仲間とは云え、妙齢の女性の膝枕。うっかり目を開けてしまえば、ロビンの豊満なおっぱいの、艶めかしい下乳のラインが目の前にあったりして、お年頃のゾロには激しく毒です。
 …………心頭滅却煩悩退散。
 逃げ出し損ねたゾロは、ゾロは必死に心の中で唱えて精神集中しながら、必死になって眠ってしまおうとしました。
 いつでもどこでも眠れるゾロが、こんなにも眠るのに苦労したのは、初めてだったかもしれません。
 そうして、何とかうとうとし始めた頃です。
「あああああっ!! ちょっとあんたゾロ、私のロビンに何してやがるのよ!」
 甲高い声に、ゾロはびっくりして目を開けました。
 ナミです。
「ゾロ、何で……。」
 その隣には、ゾロの大事なウソップが。
 何やら誤解をしたらしく、目をうるうるとさせていました。
 ウソップはものすごくネガティブなので、すぐに悪い方に考えてしまうのです。
「こら待てウソップ、逃げるな!」
「いいんだ、おれ、身を引くから…っ。」
 走り出そうとするウソップに慌てたゾロが飛び起きます。
「ぐわっ。」
 けれどロビンが、甲板に腕を生やしてウソップの脚を捕まえてくれたので、ウソップは見事に床に鼻を打って倒れました。
 ゾロはその隙に、急いでウソップに駆け寄り、抱き起こします。
 ナミが何やらぎゃんぎゃん騒いでいますが、ゾロはそれどころではありません。
「違うんだウソップ、おれだって好きであんなことになってた訳じゃねえ!」
「でも、ゾロ、気持ち良さそうに寝てた……。」
「う……、あ、いや、でも、おれは本当は、おまえを枕にしたい!」
「…………え、う、うん……、いいけど。」
 真っ赤になってしまったウソップを抱きかかえて、ゾロは甲板に転がりました。
「え、ゾロ、これ違う!」
「違わねえ。抱き枕だ。」
 ゾロはもがくウソップをむぎゅむぎゅと抱きしめて、ついでに脚でもしっかりと絡めつけて、ほうっと息を吐きました。
「これが一番気持ちいい……。」
 甘くささやくゾロの背に、ウソップはもじもじしながらも、そっと手を回しました。
 一方ナミには、ロビンがここまでの経過の説明をしていました。
「……大体、どうして膝枕なんて思いついたのよ、マイメロ。」
 呆れたナミは、ため息混じりにマイメロちゃんに聞きます。
「サンジくんが、膝枕は男のロマンだって云ってたの。」
「…………そう。」
 思わず両手をぽきりと鳴らしてしまうナミです。
「だから、ゾロくんにもしてあげたら喜んでくれるかなって思って。」
「それで私が代役をしていたの。」
 マイメロちゃんもロビンも、全く悪気がありません。
「あんな女好きの云うことなんか、信用するな、マイメロ。」
 それを聞いていたゾロも、マイメロちゃんに釘を差しました。……そのつもりでしたが。
「はーい。そうね。ゾロくんは男好きだから、サンジくんのお話とは合わないのね。」
「誰が男好きだ!」
 何だかマイメロちゃんがとんでもないことを云いだしたので、ゾロは思わず、ウソップを抱きしめたまま飛び起きてしまいました。
「いいか、おれが好きなのはウソップだ、男でも女でもねえ!」
「ありゃま。」
 全力で主張するゾロに、マイメロちゃんはきょとんとし、ウソップはますます全身真っ赤になりました。
「いいか、おれは今度こそ寝るからな、邪魔するな、それから、人を話題にもするな!」
 そうしてゾロは、ウソップを抱きしめ直して寝転がり、今度こそ寝るのだと全身で主張していました。
「仕方ないわね。じゃあ代わりにナミ、あなたを膝枕してあげましょうか?」
 膝が開いてしまったロビンは、ナミにそんなことを云いました。
 ナミはまだ御機嫌斜めの様子だったので、少しお昼寝すればいいんじゃないかなとロビンは思ったのです。
 案の定、ナミはとっても嬉しそうになりましたが。
「私、あんたの膝より、胸の方が好きだわ!」
 突然飛びかかってきたナミに、ロビンは、ゾロの隣へばったりと倒れてしまいました。
 ナミはロビンにのしかかり、大きな胸にすりすりと頬ずりしてきます。
「あーん、ロビンのおっぱいって気持ちいい。やわらかい……。」
 谷間に埋もれて幸せそうなナミは、何度かすりすりと顔を擦りつけると、くーと眠ってしまいました。
「ナミちゃん、もう寝ちゃったの?早ーい。」
「……こういう時、どうすればいいのか判らないわ……。」
 ナミの寝顔をのぞきこむマイメロちゃんに、ロビンは困惑して訴えました。
 マイメロちゃんは、ロビンににっこり笑います。
「こういう時は、皆でお昼寝しましょ。おひさまは暖かいし、風も気持ちいいわ。」
 そしてマイメロちゃんは、ロビンちゃんの顔の横、ゾロとの間に転がりました。
「ね、ロビンちゃん。」
「ええ、マイメロ。」
 ロビンもマイメロちゃんに笑顔を返し、それから、胸の上のナミの髪をそっと撫でました。
 ちょっと重たいのですが、それが何だか幸せです。
「ウソップくんも、お昼寝よね?」
「……おう。」
 そしてマイメロちゃんは、ゾロの背が邪魔で見えませんが、ゾロの向こう側にいるウソップにも声をかけます。
 ウソップは、ゾロの背中を抱いている手を、マイメロちゃんとロビンに向けて、ちょっとだけ振ってくれました。
 ゾロにしっかり抱きこまれたウソップも、多分少し苦しいのではないかと思われますが、きっと、ロビンがナミの重みを喜びと感じているように、ウソップも幸せを感じているのでしょう。

 今日も海は穏やかで、気持ちのいい、お昼寝日和でした。
 
2009/04/06 






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