マイメロちゃんがサニー号にいたら 14 

「ぴょーん、ぴょーんっ。」
 マイメロちゃんは、芝生に寝っ転がったゾロのおなかの上で楽しくトランポリンごっこをしていました。
 ゾロもその飛び跳ねる動きに合わせて、腹筋に力を入れてマイメロちゃんを上に弾いてあげたりしています。
 そして、その楽しそうなマイメロちゃんの声に釣られて、ロビンもふらふらと引き寄せられてきました。いつものことです。
「楽しそうね。」
 ロビンはぴょんぴょん飛び跳ねるマイメロちゃんの姿に笑み崩れながら、ゾロのおなかのすぐ横あたりに座ります。
「せーぇのっ。」
 ぴょーんと、一際大きくジャンプしたマイメロちゃんは、芝生の上に上手に着地しました。
「とっても上手だったわ。」
 ロビンはぱちぱちと拍手をして、それから、マイメロちゃんを抱き上げました。
 マイメロちゃんをロビンが回収してくれたので、ゾロは、もう寝てもいいかなあと思っていたのですが。
「ロビンちゃんもやる?」
「あら素敵。」
「おいこら待て。」
 がんばれば耐えられないこともありませんが、ゾロは思わず、二人に突っ込んでしまいました。
「失礼ね、私がそんなに重たいとでも?」
 ロビンはマイメロちゃんを抱っこしたまま、ゾロの腹の上にぱたりと倒れてきました。
 うっかりうめきそうになったゾロですが、何とか声を飲み込みます。女性にとって体重の話は厳禁のようで、ゾロは今まで何度もナミに殴られているので、さすがに学習していました。
 とは云っても、今うめきそうになったのは、ロビンが重たかったからではありません。
 昨晩一生懸命ウソップにあれやこれやと語ったゾロでしたが、やはりこうもロビンにスキンシップを取られると、やはり一瞬、どきっとしてしまうのでありました。
 ロビンはくすくす笑いながら、呼吸に合わせて上下するゾロのおなかの上で、頭を弾ませて遊んでいます。
 ゾロはため息をつくと、ぽんぽんとロビンの頭を撫でました。
「なあ、おれ、寝たいんだが。」
「寝ればいいわ。」
「わーい、ロビンちゃんも寝るなら、マイメロも寝るー。」
「だから待て。」
 一緒にお昼寝する気満々の二人を、ゾロは慌てて制止しました。
「あのなロビン。悪いんだが昨夜ウソップに散々泣かれたところで、宥めんのにえらい苦労したんだ。だからっつってお前を避ける気はねえんだけど、昨日の今日じゃ日が悪いから、寝るんならおれから離れて寝ろ。」
「ナミちゃんも御機嫌斜めで、昨夜はたくさん泣かされちゃったの。眠いのよ、私。」
「………………。」
 あっさり答えるロビンに、ゾロは赤面して黙りました。確かに自分もウソップとのことをほのめかしましたが、ロビンがさらりと彼女達のことを口にするものだから、ついうっかりいけない想像をしそうになったのです。
「喧嘩は、めっ。だよ。」
 泣いたの意味を素直にとったマイメロちゃんは、二人を可愛く叱ります。
「ああ、大丈夫よ、マイメロ。私とナミちゃんはとっても仲良しだから。」
 ロビンはよしよしとマイメロちゃんを宥めて、それから、ゾロに向かって小さくため息をつきました。
「どうしてナミちゃんが怒ってばっかりなのか、私には判らないの……。」
「それは判ってやれ。……まあおれも、ウソップが何であんなに嫉妬すんのか、判んねえんだけどな。」
 原因は判りますが、動機が判りません。けれど、ゾロは何とか原因は判っているので、それすら判らないロビンよりはましだと思っていましたが、しかし実際のところはどっちもどっちです。
「私もよ。何でナミちゃんが怒っているのか、全く判らないわ。ただ私は、ゾロと普通に喋れるようになって、嬉しいだけなのに。」
「あー。」
 少し前まで、正式に云うならエニエスロビーでのあれこれまで、ロビンへの警戒心を無くさずにいたゾロは、不明瞭な声で相槌を打ちました。
「ゾロと、マイメロと、こうして一緒にいるの、大好きよ。とても楽しいの。」
「マイメロもとっても楽しいわ。ロビンちゃん大好き。」
「私もマイメロが大好きよ。」
 マイメロちゃんもロビンもにこにこ。そんな二人に向かって、ゾロはちょっと照れつつも云いました。
「おれも、ロビンが好きだし、マイメロも好きだぞ。」
「わーい、マイメロもゾロくん大好き!」
 マイメロちゃんは元気よく、ゾロにの胸の上に飛び乗ります。ロビンは真っ赤になって、それから、もじもじしながら云いました。
「……あ、ありがとう。私もゾロが大好き。」
 照れまくっているロビンを、マイメロちゃんをだっこしたゾロは、優しい目で見つめます。
「ロビンは、おれ達に好きだって云われて、素直に喜べるようになったな。」
「え…?」
 ゾロの云いだした言葉の意味が判らなくて、ロビンは軽く首を傾けました。
「マイメロのおかげかも知れないし、お前がそれだけおれ達に心を開いたってことでもあるんだろうし。」
 ゾロはマイメロちゃんをぽんぽんと撫でつつ、ロビンにゆっくりと話しました。
「おれがお前を信用する気になれなかったのは、多分そのせいだったと思う。」
 ロビンは少し不安げに瞳を揺らしながらも、真剣にゾロの声を聞いています。
「ロビンがおれ達を、本当に好きだったのは、お前があんなことをする前から多分判ってた。でもお前、おれ達が、それに負けないくらいお前のことを思ってたの、判ってなかっただろう。」
 ゾロはマイメロちゃんをだっこしたまま上半身を起こし、近くなった視線でロビンと目を合わせました。
「おれ達は皆、ロビンが好きだぞ。」
「……ご、ごめんなさい……。」
「違うだろ。」
「ありがとう……。」
 ぽろ、と、ロビンの目から涙が落ちました。
 そのままぽろぽろと、透明な大粒が零れます。
「ロビンちゃん、ロビンちゃん泣かないで、ロビンちゃん。」
 マイメロちゃんはびっくりした様子で、ロビンに手を伸ばします。
 その手にロビンはそっとふれて、涙を流しながら微笑みました。
「違うの、マイメロ。とても嬉しいの…。」
 そう答えるロビンの頭に、ゾロが手を伸ばして優しく撫でます。
 ロビンは自然な仕草で、ゾロの肩に顔を押し付けました。
 しっとりと肩を濡らされながら、ゾロはロビンの頭を撫で続けます。
 それを見たマイメロちゃんも、ロビンの肩によじ登り、ゾロと一緒にロビンの頭を撫でました。
「ありがと……、マイメロ、ゾロ。大好きよ。」
「マイメロもロビンちゃんが大好き。ゾロくんも大好きよ。」
「知ってる。おれも、ロビンもマイメロも大好きだ。」
 そしてゾロは、ロビンの涙がおさまるまで、マイメロちゃんと一緒に滑らかな黒髪を撫で続けていたのですが。

「あああああ!ちょっとぉ、私のロビンに何してやがんのよ、ゾロ!!」
「…………ゾロ……。」
 そうするといつものごとくまた、ナミの盛大な怒鳴り声と、泣きそうなウソップの声が聞こえてきたりするのでした。
 全く今日もまた、言い訳に困るような密着体勢です。
「こっちこい、ナミ、ウソップ。」
「何よ! あんたも来なさい、ウソップ!」
 半泣きでもじもじしているウソップの手首をひっつかみ、ナミはずかずかとゾロに近づいてきました。
「ナミ……。」
 ロビンは目元に残った涙を拭いながら、困り顔でナミを見上げます。
「…!! ど、どうしたのロビン、ゾロに泣かされたの!?」
 ナミはびっくりしてロビンに飛びつきました。
「違うの、ナミ。」
 ロビンは自分の二本の腕でむぎゅとナミを抱きしめ、抱きしめたまま、ゾロの肩にぱふんともたれかかりました。
 たくましいゾロの肩は、揺らぐことなくロビンとナミを受け止めてくれます。
「大好き、ナミ……。」
 ロビンの唇が、ふわりとナミの頬にふれました。
「えっ、え、何、ロビン!?嬉しいけど、いやすっごく嬉しいわよ、でもあんたが、こんな真昼間からそんなこと…。」
 ナミは真っ赤になってうろたえています。
「マイメロも、ナミちゃん大好きー。」
「おれもナミが大好きだぞ。」
「……はい!?」
 そして、マイメロちゃんとゾロにも告げられ、お目目が飛び出そうになりました。
「お前は?」
「ナミちゃんは、マイメロのこと好き?」
 ゾロと、その膝の上に下りたマイメロちゃんが、ナミの言葉を要求します。
 ナミは何度も瞬きして、ロビンとゾロとマイメロちゃんを順繰りに何度も眺め、それから、何となく理解したような顔になって、ぎゅっとロビンを抱き締め直しました。
「大好きよ、ロビン。マイメロも大好き。ゾロも大好き。――それから、ウソップも。大好き。」
 ナミは3人に微笑み、それから、振り向いて、立ち尽くしているウソップにも云いました。
「え?あ、あの、えーと。」
 ウソップもものすごくびっくりしていたので、涙は引っ込んでしまっています。
「ウソップ。」
 そんなウソップに、ゾロは手を差し出しました。
 大きな、固くなった掌をウソップはまじまじと見つめ、それから、そっとその上に手を乗せます。
 その手をゾロはぎゅっと握って、ナミとロビンがいるのとは反対の側へ、ウソップを導きました。
 ウソップがゾロの隣に腰を下ろすのを待ちかねたように、ロビンが云います。
「大好きよ、ウソップ。」
 まだロビンの目には涙が残っていましたが、とても暖かい、美しい微笑みが浮かんでいました。
「私もウソップ大好き。」
「マイメロもウソップくんが大好きだよー。」
「……おう、ありがとな。」
 まだ少しびっくりしていましたが、ウソップは女の子三人に、大きくうなずきました。
「おれもロビンが大好きだ。ナミも大好きだし、もちろんマイメロも大好きだぞ。……それから……、ゾロも、大好き。」
 ゾロに云う時はちょっとだけ照れましたが、ウソップはゾロのことを、恋人としてもですが、仲間としても大好きです。尊敬してて、憧れて、何があっても守りたいと思う、大切な仲間です。
「おれもウソップが大好きだ。」
 ゾロは明るい笑顔で答え、そっとウソップの手を引き、こっそりと耳打ちしました。
「それから……、愛してる。」
 ウソップは一気に真っ赤になり、慌てて首を振って、やきもち妬いてない!と仕草で訴えましたが、ゾロは楽しそうに笑っているだけでした。

「ヨホホホー、皆さん楽しそうですね、何してるんですかぁー?」
 そのまま5人でくっついていると、他のブルックが甲板に現れました。
 そして、チョッパー、フランキー、サンジと続き。
 最後には船長のルフィが来て。
「おまえら、皆、大好きだー!!!」
 彼のどこまでも伸びる腕に9人まとめて抱きすくめられ。
 大音量で叫ばれることになるのです。
 全員が全員を大好きな、とても幸せな麦わらの一味でした。
 
2009/06/27 






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