マイメロちゃんがサニー号にいたら 20 

「ゾロくんゾロくん、はい、バレンタインたこ!」
「おう。ありがとな。」
 マイメロちゃんから差し出されたものを、ゾロは素直に受け取りました。
 そうです、今日は2月14日、バレンタイン。チョコレートを貰う日です。
 マイメロちゃんが差しだしているのは、たこの形の、ソースと青海苔の匂いが食欲をそそる、たこ型のパンでした。
 ……たこ?
「いや待てマイメロちょっと待て、おまえ今、なんつった?」
「バレンタインたこだよぉー。はい、あったかいうちに食べて。おいしいよぉ。」
「お、おう。」
 熱いものは熱いうち、冷たいものは冷たいうちにというのは、厳しいコックさんから、麦わら一味の皆が仕込まれていることです。
 ゾロはそのたこパンを受け取り、はむ、と頭から噛みつきました。
 たこやき風味なのかおこのみやき風味なのかはゾロには判りませんが、とてもおいしいお総菜パンです。
「んまい。」
「えへへー。」
 一口食べてゾロが感想を述べると、マイメロちゃんはとても可愛く、とても嬉しそうににっこりしました。
「じゃあ、まだパン配りに行くから、後でねゾロくんー。」
「あ、おいこら待て。」
 まだたこの意味を聞いていません。
 ゾロは慌ててマイメロちゃんを呼び止めましたが、急いでいるマイメロちゃんは、てけてけと走っていってしまいました。
 仕方ないのでゾロがそのおいしいたこパンをはむはむと食べていると。
「……ずるいわ。ゾロばっかり、マイメロから愛を貰って……。」
 どこからともなくロビンがにじり寄ってきていました。
「人聞きの悪いこと云うな!」
 いえ、人聞きというより、ウソップ聞きでしょうか。
 とても可愛いゾロの愛しい恋人は、けれどもとってもやきもち焼き屋さんなのです。
 たこパンを食べ終わったゾロは、汚れた指をぺろりと舐めて、ごちそうさましました。
「あーロビンちゃん、こんなところにいたー!」
 するとまた、パンを抱えてぽふぽふ走ってくるマイメロちゃんの姿が見えました。
「まあマイメロ。」
「はーい、ロビンちゃんにも、バレンタインたこだよ!」
「私にもくれるの?」
「もちろん。マイメロ、ロビンちゃん大好きだもん。」
「私もマイメロが大好き!」
 満面の笑みのロビンは、マイメロちゃんからたこパンを受け取りました。
「じゃあマイメロは忙しいから、また後でね。」
 そしてマイメロちゃんは、またぱたぱた走っていきます。クルー全員にたこパンを上げるので、マイメロちゃんは忙しいのです。



「あのね、マリーランドでは、バレンタインにたこをあげるの。」
 何人かの口から出た質問に、マイメロちゃんは胸を張って答えました。
 全員がそろった、昼食後の食卓でのことです。
 マイメロちゃんからのバレンタインたこパンが皆に配られていたので、お昼ごはんはちょっと軽め。
 そしてデザートには、サンジが作ったチョコレートケーキが全員に提供されていました。
「この海域、たこいなかったんだよなー。」
 ウソップも、やはり事前にマイメロちゃんに相談されていたのです。タコつぼを仕掛けたけど、残念ながら何もかからなかったんだ。と云いました。
「それでサンジくんに相談して、たこ型のパンを焼いたの。」
「お役に立てて光栄です、マイメロさん。」
 ありがとー、と、にっこりするマイメロちゃんに、サンジもにっこり微笑み返しました。
「私とロビンからも、あんたたちにチョコの配給があるわよー。」
「配給ってなんだよこら。」
「ナミさんとロビンちゃんから愛のこもったチョコレートをいただけるなんて、とても幸せです~。」
 そこにナミが口を挟み、思わずウソップが突っ込んで、サンジがめろめろしています。
「おお、食べる物くれるのか。くれ!」
 食べ物ならなんでも喜ぶルフィは、即座に腕を伸ばして手を差し出しています。
「ヨホー、チョコレートも素敵ですが、できればぱんつ見せていただけませんか。」
「大丈夫よ、ブルックのチョコはぱんつ型なの。探すのとても苦労したのよ。」
 ロビンは満面の笑みで、ブルックにチョコの包みを渡しました。
「そ、それはありがとうございます……。」
 喜べばいいのか悲しめばいいのか、非常に難しいところです。
「来月は、3倍以上返し、よろしくね。10倍推奨よ!」
 そんなナミのにっこり笑顔に男達がびくついておりますと。
「きゃあっ。」
「うわっ!」
 突然船が大きく揺れました。
 皆が慌てて甲板に出ますと、海王類が船を襲ってきていました。
「わあ、たこだー。」
 マイメロちゃんがそれを見て、歓声をあげました。
 そうです。しかも、たこっぽい形の海王類です。
 ちなみにそのマイメロちゃんは、船が揺れた次の瞬間に、ゾロのおなかの腹巻の中に保護されていました。
「噂をすれば影ね。」
 そうですね。皆でたこの話をしていましたから、きっと、たこ海王類さんが、やあとばかりにやってきたのでしょう。
 それを云ったロビンの目は、ゾロのおなかにばかり行っていましたが。ロビンだってマイメロちゃんを胸のところに入れて保護したかったのに、ゾロに先を越されてしまったのです。
「ったく、チョコ食うとこだったのに! ゴムゴムのー。」
 サンジからのケーキは即座に食べていましたが、ルフィはこれからナミとロビンからのチョコも食べるところだったので、ちょっぴり御機嫌斜めです。
 すぐにぐるぐる腕を回してたこを殴ろうとしていましたが。
「ちょっと待て、ルフィ!」
 それをゾロが大きな声で止めました。
「おいコック、あれ食えるか?」
「いい感じだよな。足、1~2本貰っとけよ。」
 毒性の生き物でなければ、優秀なコックさんは何でも料理してくれます。
 ましてやたこです。
「おれが行く!」
 ゾロはおなかのマイメロちゃんを背中にずらすと、剣を抜いてたこ海王類に斬りかかり、3本の足を斬り落としました。
 たこ海王類は、それで慌てふためいて逃げていきました。
「わーい、ゾロくんつよーい。」
 マイメロちゃんはゾロの背中できゃっきゃとはしゃいでいます。ゾロの背中はどこよりも安全なところですから、マイメロちゃんにも全く不安はありません。
「ヨホホー、まだ動いてます~。」
「あわわわわ、絡まる吸いつくっ。」
「よーしサンジ、今夜はたこ尽くしだっ!」
「うおー、吸盤でけー。」
 ブルックと年少3人は、わいわいとたこ足を取ろうとし、その足に絡みつかれてわいわいと騒いでいました。
「1~2本つっただろうが、多いぞ。」
「1本とは云わねえから、うまそうなとこ、適当によこせ。」
 1本でも何メートルもある巨大なたこ足は、甲板をほとんど占領してしまっています。
 サンジが苦情ともなくゾロに云いますと、ゾロはサンジにそうねだりました。
 そしてちらっと視線を、たこ足に巻き付かれ中のウソップに流します。
「いいぜ。」
 サンジはゾロの考えを理解したので、にやりと笑って云ってあげました。
 食材はどんなにあってもルフィが食べますし、余りそうなら保存しておけばいいのです。
「よーし、下処理するぞ、ルフィ以外の野郎共、手伝いやがれ!」
「何だよそれひでえよおれだけ仲間はずれかよサンジ!」
「うるせえ、てめえに任せたら、調理前に食っちまうだろ!」
 拗ねるルフィに大声で返し、サンジは、喜々としてたこ足を運び始めます。
「マイメロ、大根でたたくのやるー。」
「……大根?」
 腹巻から飛びおりたマイメロちゃんに、ゾロはきょとんとして聞きました。
「たこさんは、塩で揉んで大根でたたくとやわらかくなるのよ。」
「そうなのか。」
 ゾロはひとつお利口さんになりました。
 そして、自分も何かお手伝いしようと、たこ運搬組に参加したのでした。



 その晩はもちろんたこ祭りです。
 ゾロは一杯お手伝いをした御褒美に貰ったたこの一番いいところの串焼きを、ウソップに持って行きました。
「やる。」
 ちょっと頬を染めて照れながら、ぐいと差しだされたたこに、ウソップは目を白黒させます。
「いや……、おれも食ってるよ?」
 多少はルフィに取られつつも、たこはたくさんあるので、充分たこにありついています。
「いいとこ、分けてもらった。バレンタインたこだ。」
 ゾロはますますウソップにたこを差し出してきました。
 その言葉にウソップもますますびっくりして、でも、とても嬉しかったので、そのたこを受け取りました。
「ありがとう、ゾロ。……でもおれ、バレンタイン何も用意してないや……。」
「構わねえ。来月、3倍返しよろしく。」
「おいっ。」
 ナミよろしくそう返すゾロに、ウソップは思わず突っ込みましたが、顔は笑ったままでした。
 ゾロから貰った串のたこは、その晩、いえ、今までウソップが食べたどんなたこより、一番おいしいと思いました。



「ほらルフィ。バレンタインだ。」
 その夜遅く、けれども日付が変わるまでにはまだ大分あるような時間に、ルフィはサンジのいるキッチンへ、こっそり戻ってきました。そういうお約束をしていたからです。
 そのルフィの前に、サンジは、ルフィの頭よりもでっかい壷をどんっと置きました。
 先日ウソップがたこ漁をするのに設置していたたこ壷です。
 サンジはそれを綺麗に洗って消毒して、その中に、生クリームをたっぷり混ぜたやわらかいチョコレートを詰め込んでいました。
「すっげー!」
 ルフィは目がきらきらです。
「食っていいか、サンジ!」
「おれの愛、たっぷり味わえ。」
 サンジは大きなスプーンでチョコレートをすくって、最初の1口目は自分の手で差しだしました。
「おう、いつも味わってるぞ!」
 ルフィは満面の笑みで云うと、でっかく口を開けて、スプーンまで食べてしまいそうな勢いでチョコレートを食べました。
「サンジ、すっげーうまい!」
「……当然だ。」
 サンジは真っ赤になって、ルフィにスプーンを押しつけました。
 こんなところにもバレンタインたこの影響が出ていましたが。
 ルフィもサンジもとっても幸せだから良いのでした。



 ナミとロビンは、普通に高級チョコを交換していた模様です。
 めでたしめでたし。
 
2010/02/11 



ばれんたいんたこ3部作のひとつ、マイメロちゃんのばれんたいんたこ です。


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