マイメロちゃんがサニー号にいたら 21 

「わあ!」
「何だ、どうした?」
 お風呂上がりのウソップの足元を通ったマイメロちゃんが、突然大きな声をあげました。
 ウソップはびっくりして、マイメロちゃんを持ち上げます。
 そのマイメロちゃんは、真っ黒なおめめでまじまじとウソップを見ました。
「なーんだ、ウソップくんかー。誰かと思っちゃった。」
「ああ、……これか?」
「うん。」
 これとは、ウソップの髪の毛のことです。
 普段、ウソップはバンダナとゴーグルをしているので、頭を洗って濡れたままの髪をそのままにしていると、一瞬、随分違った雰囲気に見えるようなのでした。
 今までにも、同じことを何人かのクルーに云われたことがあります。
「マイメロ、おれ、風呂上がりでのど乾いてんだ。一緒にキッチン行くか?」
「はーいv」
 とりあえずウソップは、マイメロちゃんと一緒にダイニングに行きました。
 するとそこでは、ロビンとサンジが、夜のコーヒータイム中でした。
「サンジ、冷たいものくれー。」
「マイメロにもー。」
「はいはーい、マイメロさん、今すぐただちに!」
 マイメロちゃんがいたので邪魔にされることもなく、すぐにサンジは飲み物の用意をしてくれました。ウソップの前にもグラスが出されます。
「おいしー。」
「んまい。」
 マイメロちゃんとウソップは、ごくごくとそれを飲みました。
 そんなマイメロちゃんを、ロビンは幸せそうに見つめています。
「ロビンちゃんは何飲んでるの?」
「コーヒーよ。」
「マイメロ、寝る前にコーヒー飲むと眠れないなあ……。」
 お話をしながらジュースを飲み終わったマイメロちゃんは、ウソップの肩に乗って、やっと乾いた髪の毛をまとめてあげていました。
「ウソップくん、髪の毛くるくる。意外と長いのね。」
「んー、親父譲りの髪質らしいんだけど、まとまらなくてさあ。」
 まだちょっと湿り気の残る髪の毛を、ウソップは指に巻きつけながら云います。
 それに、頻繁に床屋に行けるほどの余裕もなかったので、ある程度伸ばして、バンダナでまとめるのが、一番楽だったのでした。
「ウソップは髪の毛下ろしてると男前なのに、ちょっともったいないわね。」
 にっこり笑うロビンちゃんに、ウソップはびっくりして赤くなりましたが、照れ隠しに大げさな身振りをしてみせました。
「何を云うのだねロビンくん。吾輩のヘアーセンスはイースト最先端なのだよ。時代は今、クールなバンダナ!良ければ君も一枚どうだね。」
「サンジくんの髪の毛もとても綺麗ね。きらきらで、とってもさらさら。でも、おめめ両方出さないの?」
 ウソップの口上はまだ続いていましたが、マイメロちゃんの興味はサンジの髪型に移っていました。
「マイメロ、サンジくんのおめめ、両方見たいなー。」
 マイメロちゃんはお得意の、おねがいポーズを取ろうとしましたが、サンジはすかさず、手で左目を髪の毛の上から隠しました。
「駄目ですよ、マイメロさん。おれの左目は、おれの生涯の伴侶にしか見せてはいけないんです。それともマイメロさん、おれと結婚して、おれの一生のレディになってくださいますか?」
「ごめんなさい。」
 マイメロちゃんは、ぺこんとサンジくんにお辞儀して、辞退しました。
「そんなー。マイメロさーん。」
 あっさりきっぱり、ふられてしまったサンジでした。
「……嘘だよな?」
「そういう風習は聞いたことがないわね……。」
 そして、ウソップとロビンは、こそこそと話し合っていました。
 そんなロビンちゃんに、マイメロちゃんの興味は移っています。
「ロビンちゃんの髪もさらさらー。さわってもいーい?」
「え、ええ、もちろん!」
 ウソップの髪を結わき終えたマイメロちゃんは、今度はロビンの髪に興味を移しました。
 ロビンは頬を薄く染めながらも、嬉しそうにマイメロちゃんへと頭を寄せます。
「あ、あのね、マイメロ。私の髪も、結わいてもらえないかしら……。」
 ウソップがマイメロちゃんに世話を焼いて貰っているのがとても羨ましかったロビンは、マイメロちゃんにそうおねだりしてみました。
「いーよお。あ、でも、ゴムとかないなあ……。」
 それどころかブラシもありません。ウソップは癖毛が強くてブラシが通らないので、いつも大体手櫛なのです。
「駄目なのかしら……。」
 しゅーんとしてしまうロビンに、マイメロちゃんはにっこり笑って云いました。
「もう寝る時間だし、明日、可愛く結わいてあげるわ。」
「ああ、そうですね。それはいい考えだ!さすがはマイメロさんだー。」
 マイメロちゃんの出した代案に、立ち直りの早いサンジくんも笑顔で賛成します。
「そりゃいいな。明日、ロビン見るのが楽しみだ。」
「こらウソップ、てめえ、人の台詞取るんじゃねえ!」
「とーっても可愛くしてあげるからね、ロビンちゃんv」
「…………ありがとう。」
 ロビンはふんわり頬を染めて、誰にとも付かず、嬉しそうにお礼を云いました。


 ついでに翌日。
「サンジー、左目ー。」
 ルフィがつかつかとサンジに近寄ったかと思うと、ひょいと手を伸ばして、左目を覆った前髪を持ち上げました。
「………………。」
 サンジくんも、他のクルーの皆も、びっくりして硬直してしまいました。
 けれどもサンジはすぐに我に返って、ルフィを蹴り飛ばします。
「な、なにしやがるんだこのクソゴム!」
「マイメロから聞いたぞ。サンジはおれと結婚するんだから、目え見てもいいんだろ?」
「………………。」
 またもやサンジは固まってしまいました。今度はお顔が真っ赤です。
「でもさ、良く考えたらおれ、えっちの時にサンジの左目もう見てたよなあ。」
 サンジくんはもう一度、ルフィを蹴り飛ばしましたが、ものすごく真っ赤なままでした。
「ねールフィくん、サンジくんのどんなのなの?」
「それは、おれだけの秘密だ。」
「そうなの。じゃあ、仕方ないわね。」
 にっこり笑うルフィに、マイメロちゃんはすぐに納得しました。
 マイメロちゃん以外の皆はあんまり納得していませんが、残念ながらサンジくんのガードは、ルフィ以外には果てしなく固いのです。
 なので、サンジくんの左目の秘密は、ルフィだけが知っているのでありました。
  
2010/06/24 






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