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ルフィが海に落ちた。 それはとりたてて珍しいことではない。 しかし敵船の襲撃中だったため、助けに行くのが少し遅れた。 そうでなくても能力者の多い一味の為、海に飛びこめる人員も限られる。 ようやくサンジが引き上げに行った時、ルフィは息をしていなかった。 なのでサンジは、チョッパーが他のクルーの手当てをしながら指示を出すのに従い、ルフィに人工呼吸を行なった。 ルフィの口に口をつけて、直接息を吹き込んだ。 そのこと自体は、ままあることだ。 サンジだけでなく、ゾロがしてやっていたのを見たことだってあるし、あくまでも手当の一環だ。レディさえ絡まなければ、その事をからかう気はないし、サンジにだって誰も何も云わなかった。 そもそもあんなの、キスなんかじゃない。 息を吹き込むためにどちらも口を大きく開けていたし、吹きこんだ息を逃さないようにルフィの鼻を摘まんでいたし。 色気の欠片もない、治療行為だ。 だから。 そんな、キスとは云えないようなルフィの唇の感触が忘れられないのは、サンジがおかしいのだ。
夜が更けて、明日の仕込みが終わっても、まだサンジの心はざわめいたままだった。 眠らなくては、と思うけれど、男部屋に帰りたくない。 サンジがルフィを思うようになったのは、いつの頃からだったのだろうか。 もしかしたら最初の頃からかも知れなくて、けれどサンジはなかなか、自分も気持ちに気付きも、認めもできなかった。 だってサンジは、レディが本当に本当にものすごく心の底から大好きなのだ。 そんな自分が、ルフィに恋してしまうだなんて。 ナミさんとロビンちゃん、そして世界中のレディ達を悲しませてしまうなあと思う。 けれど、自覚したくない恋心は、頭が納得するより先に、体の方にあふれ出た。 サンジはルフィに欲情してしまう。 そのことだって認めたくはなかったが、ルフィのことを思う時、ズボンの前が痛いほどに張り詰めてしまうのを、どうしようもできなかった。 食べ物をねだられ、無邪気に飛びついてくる重みや、甘えてねだられる声を思い出しながら、自身を慰めてしまうことを我慢できなくなった。 ましてや唇の感触を知った今日、それを止められる筈がない。 灯りを消したダイニング、壁際のソファに座って、サンジはそろりと、膨らんだ股間へと指を滑らせる。 躊躇いを残す指先は、ジッパーの上を二度三度と行き来してから、ようやく小さなつまみを挟んだ。 前を開くと、既に下着からはみ出してしまっていたものが零れ出る。 下着を下ろすとたちまちに飛び出てくるものに、サンジはそろりとさわった。 「…っ。」 震える体を押さえ込み、声を飲み込む。 今日はいつもよりも、欲が強い。 軽く撫でただけで、先端に透明な蜜がにじみ出る。 指の腹でその雫を塗り広げながら、サンジは目を閉じて、自分のものを握り込んだ。 ゆっくりと擦り上げつつ、ルフィを思う。 「ぁ…。」 その途端、手の中のものが大きく脈打ち、新たな蜜を零した。 滴り落ちるそれのせいで手の滑りが良くなり、サンジの手の動きが忙しなくなる。 自分の手で扱きながら、ルフィの手を思う。 「んっ……。」 それだけで駆け抜ける快感が大きくなり、サンジは手で口を塞いだ。 何度も体を震わせながら、ぎゅうと自分のものを握りしめ、扱きあげては先端をくるりと撫でる、そんな動きを繰り返す。 口を塞いだ手をずらして、サンジは震えながら、指を2本揃えた。 指の内側を、そっと自分の唇に当てる。 昼間にふれた、ルフィの唇の感触を思い出す。 ルフィとの口づけを夢想するだけで、零れる蜜の量が増した。 考えるだけなら自由、と、心の中で云い分けしながら、サンジは自分のものの先端を捏ね回す。 激しくなる指の動きはもう止められず、込み上げる罪悪感よりも、吐き出したい熱が上を行く。 口に当てた指を唇で小さく挟み、ちろりと舐めた。 けれど所詮は自分の指。こんなのじゃ、現実と混同することさえできない。 それなのに、呼吸が乱れ、快楽があふれ出しそうになる。 唇にふれるのがルフィの唇ならいいのに。うごめく指がルフィの指ならいいのに。 サンジの全身がぶるりと震え、胸が苦しくなって、気持ちいいのに泣きそうになった。 「ルフィ…っ。」 想い人の名を呼んで、きつく、自身を握りしめる。 ――――ばたんっ。 「サンジっ!」 その途端、大きな音がして扉が開け放たれ、サンジは息を飲んだ。 ルフィがいた。 見られた。そして聞かれた――と、射精寸前だった体が、水をかけられたかのように、冷たくなる。 ルフィが後ろ手で叩きつけるように閉める扉の音が、夜の静寂に響いた。 ずかずかと歩み寄ってくるルフィに、サンジは真っ青になったまま、硬直しきって動けない。 ルフィはサンジの前に立つと、腰が抜けたようにソファから動けないサンジのことを、じっと見つめた。 何か云い訳を、と思って口を開いても、サンジは泣きそうにひきつった音を小さく出すしかできない。 真っ黒なルフィの目がサンジの目を見て、けれどすぐに、ふいと反らされてしまった。 拒否か、嫌悪か。 のどの奥がざわめいて、涙が出そうになった瞬間、ルフィはどさりと乱暴に、サンジの隣に腰かけた。 「おれの名前……、呼んだよな。」 いつもよりも大分低く抑えられた声が、静かに響く。 もう誤魔化しようもなく、サンジは深くうなだれた。 焼けるような羞恥と絶望に、果てる寸前だったサンジのものは、哀れに萎えている。 体が思うように動かせず、震える指でシャツの裾を引っぱり、少しでも隠そうとした。 「サンジ。」 ルフィが呼ぶ声に身がすくむ。 が、次の瞬間、ルフィの両腕がサンジを引き寄せ、ぎゅうと抱きしめられていた。 「……え…?」 暖かい体温に包まれて、しかしサンジは、自分に何が起きたのかが理解できない。 息がかかるほど側に、ルフィの顔がある。 「好きだ、サンジ。」 「……っ。」 笑顔で告げられた言葉に、サンジは息を飲んだ。
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2009/01/22 |
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