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サンジの返事を期待するかのように、ルフィの瞳がわくわくと輝いている。 けれど。 「てめ…っ、それ、どういう意味で云ってんだよっ。」 信じられなかった。 サンジはルフィの胸を押し返そうとして、けれど、自慰で汚れた手、口づけを夢想してふれた指でルフィにさわることを躊躇い、またうつむいてしまう。 「サンジと同じ意味だ。」 「わ…っ、判んねーよ!」 あっさりと答えるルフィに、期待ばかりが高まってしまい、胸がどきどき痛くなる。 上昇する体温に、息がまともに吸えなくなるほど苦しい。 「サンジ、今、おれのこと考えてしてたんだろ。おれもいつも、サンジのこと思いながらしてた。」 ルフィの頬がサンジの頬に重なる。 照れくさそうに笑うルフィの顔は赤くて、けれど、同じ気持ちだと、サンジにはっきりと伝えてきた。 「サンジが迷ってるの判ってたから、自分で納得するまで待とうと思ってたんだけどな。」 「てめ…、知ってたのかよ!」 サンジの恋心は、ルフィに気付かれていたらしい。しかもその葛藤まで。 怒涛のようにこみあげてきた羞恥に、サンジは暴れ回りたくなるが。 「今日、サンジにキスされて、我慢できなくなった。」 ルフィも今日のあの人工呼吸を意識してしまっていたのだと、そんなことを教えてくれるから、嬉しくてたまらなくて、とうとう涙が零れてしまった。 「あんなの、キスじゃねえよ。」 サンジの口から出るのはやはり憎まれ口になってしまったが、ルフィは優しく笑っている。 「おれ、気ぃ失ってて覚えてないから口惜しくてさ。眠れないし、サンジも男部屋に帰ってこないし、気になって見に来たんだ。」 そうしたらサンジが自慰の途中で、見ては悪いと思ったけれども覗きこんだ丸窓から離れられなくなり。 「サンジがおれの名前呼んだから、嬉しくなって、気がついたらドア開けてた。」 「ばかやろ…っ。」 サンジは真っ赤になってうつむいてしまう。 けれどももう、先刻までの恐怖も絶望感もない。 ただひたすらに、心臓の鼓動が跳ね回っている。 「大好きだ、サンジ。」 ルフィの手が、サンジの頬を撫でて、顔を上げさせた。 濡れた頬を、手のひらで一生懸命拭ってくれる。 寄り添ったルフィの胸が、サンジに負けないくらいにどきどきしているのが判ったから、サンジも精一杯の気合を込めた。 「おれも、ルフィが好きだ。」 それなりに恰好をつけたかった筈なのに、ひどく声が上擦ってしまったが。 でも、仕方がない。サンジはレディが大好きで、けれどそれでもルフィを好きになってしまった。そのことを口に出すのに、相当な覚悟が必要だったのだ。 ずっと葛藤していたサンジに、ルフィが勢いをくれた。 云えないまま胸の奥に埋めていくしかないのだと、そう思っていた言葉を、ルフィが望んでくれるから声に出せる。 「すげぇ嬉しい、サンジ。」 ルフィはサンジの頬を両手で包んで、笑った。 満面の、明るくて強い、――――けれど、サンジが今までに見てきたルフィの笑顔とは違う表情。 とても優しくて、そして、ルフィもサンジを愛してくれているのだと、それがストレートに心まで落ちてくる。 今までのサンジの葛藤も躊躇いも、ルフィの笑顔に飲み込まれて消えた。 こんなふうに見つめてもらえる自分が、とても誇らしく思えた。 「ルフィ、……好きだ。」 「ん、おれも好き。」 ルフィは優しい笑顔のまま、ぐりぐりとサンジにおでこを擦りつけてくる。 サンジもそろりと、ルフィの背に腕を回した。 そっと抱き締め合って、顔が近付いてくるから、そろそろ目を閉じようとしたところで。 「サンジ、キスしていいか?」 そう尋ねられてしまったので、サンジはがっくりした。 どこをどう見ても今の自分はしてくださいという雰囲気になっていたと思うのだが、全くルフィは、いつ空気が読めていつ読めないでいるのか、サンジには理解できない。 「駄目か?おれ、サンジとちゃんとしたキスしてみたい。」 「だからあんなの、含めんなっつってんだろーが……。」 人工呼吸を意識しまくってしまったのはサンジも同じだったが、ルフィもサンジを好きでいてくれたのなら、あれはカウントに入れたくない。 「ほら、その、ちゃんとしたっての、やってみろ。」 サンジはルフィを煽りながらも、自らねだるような台詞に、真っ赤になってしまった。 なので目を閉じて、ん、と、ルフィに向かってあごをあげる。 ルフィは両手でサンジ頬を包んだ。 緊張しているサンジの顔に、ルフィの視線が痛いくらいだったが、ふっとやわらかい吐息が聞こえて、ルフィの雰囲気が優しくほどけた。 「好きだ、サンジ。」 ゆっくりと唇がふれる。 そっと重なるだけの口づけは、けれどサンジの鼓動を跳ね上げ、心を暖かくしてくれた。 「……しちゃったな。」 軽く押しつけて、離れたルフィを追って目を開ける。 すぐそこにいるルフィは満面の笑顔で、サンジもつられるように笑ってしまった。 「したな。」 「おう。」 多分サンジには負けるだろうが、ルフィの頬も充分赤い。 ひたすらにこにこしているルフィに、しかしサンジは物足りなくて、続きをねだった。 「なあ、それだけでいいのか?」 「もっとしていいのか?」 すごい勢いで聞き返されて恥ずかしくなるが、サンジはしっかりとうなずいてみせる。 「好きなだけしていいぜ。」 「そっか。じゃあする。」 嬉しそうなルフィにぐいと抱き込まれ、先刻よりもしっかりと、唇が重なった。 合わせたままぎゅうぎゅうと口を擦りつけてきたり、唇だけでなく、頬や鼻や目や、顔中にもキスをされた。 隣り合って座っているのに目一杯抱き寄せられて、サンジは半ばソファからずり落ちそうになっていたが、ルフィの腕が離したくないとでもいうようにしっかりと抱いてくれている。 だから安心して身を任せて、サンジはくすぐったいキスをどきどきしながら受けていた。 ルフィはサンジのぐるりと巻いた眉にも、いつくしむようなキスをふれてから、また唇に戻ってくる。 啄ばむような、優しいキスだ。 何度も角度を変えてふれて、けれど、それ以上のキスになかなかルフィは進まない。 ここはできればルフィからしてもらいたいところだったが、サンジの方が年上であることだし、やはり自分がリードをしてやるべきなのかもしれない。 そう思って、サンジはそっと舌を伸ばし、ルフィの唇を割った。 「っ……。 重なった唇の中で、ルフィが息を飲むのを感じる。 けれど舌で押すままに唇が開かれたから、サンジはその奥へと舌を差し伸ばした。
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2009/01/24 |
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