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「ナミさん、チョッパー、もう日付変わっちゃうよ。」 サンジに声をかけられ、ナミははっとして顔をあげた。 チョッパーもびっくりした様子できょろきょろしている。こちらも随分と没頭していたようだ。 「あらやだ、もうそんな時間なの。海図書くのに夢中になってたわ。」 「おれも本に夢中になってたー。」 新しい船は、図書室にナミが海図を書くためのテーブルも用意されている。食卓で作業していたメリー号の頃と違い、好きな時間に好きなだけ書いていられるので、ついついナミは夢中になってしまっていたのだ。明りをつけておくならとチョッパーもソファで何やら難しげな分厚い本を広げていたのだが、誰かが側にいて、それぞれに何かに夢中になっている、そんな空気が心地よくて、ますます海図に没頭してしまっていた。 「あまり遅くならないうちに寝た方がいいよ。暖かい物、いれるかい?」 「ううん、もう終わりにする。サンジくんはお風呂?」 「ああ、おれも仕込み終わったから、風呂に入ったら寝るよ。」 「おれもここまで読んだら寝るー。」 時間を示されると、なんだか突然眠く感じる。チョッパーがあくびをするのに、ナミもなんだかつられてしまった。 「ナミさんの大あくび、可愛い。」 「サンジくんの馬鹿。」 夜遅い、皆が寝静まった時間帯だからか、サンジはめろめろせずにくすりと笑って云う。そんなふうに微笑まれると、なんだか返って照れくさいものだ。 「ほら、さっさとお風呂行きなさいな。」 「うん、ありがと、ナミさん。おやすみなさい。チョッパーもおやすみ。」 「おやすみ、サンジくん。」 「サンジおやすみー。」 サンジが上の風呂場に向かい、ナミとチョッパーは片づけを始めた。 風呂からサンジが上がるまでにここを出ないと、また飲み物やら夜食やら気を使わせてしまうのが判っている。ナミとチョッパーは急いで片づけをして図書室を出ると、おやすみと手を振りながら、男部屋と女部屋に別れた。
女部屋は、ベッドの枕元のテーブルに、小さなランプがつけたままだった。 ロビンが気を使ってくれたのだろうか、油代が勿体ないけど、その気持ちが嬉しい……と思って近づくと、眠っているロビンの顔の横に、本が開いたまま伏せてある。どうやら、本を読んでいるうちに眠ってしまったというのが正解のようだった。 ナミはその本をそっと持ち上げ、栞をはさんでおいてやる。 そのまま、ロビンの寝顔をじーっと見つめた。 ……寝てる、よね。 どうやら本気で熟睡しているようで、ロビンが起きる気配はない。一定の速度で緩やかな寝息が続いている。 そのことに、ナミは心の底から感動してしまった。 少し前までのロビンはそうではなかった。いつも眠りは浅かったようだし、同じベッドで眠るナミの気配に、わずかな緊張を捨てきれずにいるようだった。 しかもナミは、海や気圧の変化があるとそれを感じて目が覚めてしまうし、場合によっては寝床を抜け出て、様子を見に行くことも少なくない。 そんなことをしていると、ロビンは必ず起きてしまうようだった。 泥棒時代の身のこなしでできる限りそっと布団から抜け出ている筈なのに、戻ってくると枕や布団が整えられていたり、たまには声をかけられたりもする。寝た振りをしてロビンが待っていても、ナミがそのまま、じっとロビンを眺めていたりすると、風邪を引くわよと布団に引きずりこまれたりもよくしていた。 深くも長くも、眠る習慣がないの。ロビンが困ったように呟いたのは、いつのことだったか。 二十年間政府に追われ続けた身では、それも仕方ないことなのだろう。 けれど、ナミもこの一味の仲間となるまでは、良い睡眠などとれていなかったように思うから。 だから、ロビンもいつか、仲間たちのいる自分たちの船で、ぐっすりと深く眠れるようになればいいなと、ナミは密かに思っていたのだ。 そして今、ロビンはこうして、ナミが戻ってきて、じっと見つめているのにも気がつかず、すやすやと眠っている。 明かりだってつけっぱなしで、大事な本も無造作に伏せたままでと、ナミは嬉しくてたまらない。 可愛い寝顔だなあ……、と、ナミはうっとりして、ロビンの寝顔に見とれていた。
…………筈なのだが。 ふと気がつけば、ナミはロビンの胸を揉んでいたのだった。 「あ、あら?」 炎の明かりで微妙な陰影を映すまつげとか、くっきりと彫りの深い鼻筋とか、薄く開いて寝息を洩らす紅唇とかに目は行っていたと思うのだが、手にぽよんと感じるここちよい弾力を、ナミはふにふにと揉んでいた。 指の一本は乳首に当てて、くりくり転がしていたりするおまけつきである。服越しに弄っていたそこは、既にくっきりと形をあがらせていた。 さすが私ったらテクニシャン。とか、自画自賛している場合ではない。 「……まあ、いいか。」 ナミはあっさり開き直ると、そっと、ロビンの眠りを妨げないように頬にキスした。 目覚める気配がないのを確認して、そろりと服の胸元を開ける。 就寝時とあってブラはつけていないから、直接やわらかな胸にふれられる。 これも以前は、ロビンはいつも、服をしっかり着込んだままで眠っていた。脱ぐのは靴と帽子くらいで、いつでもすぐに逃げ出せるように、そんな気持ちが抜けなかったのだろう。たとえそれが、狭い船の中でも。 けれど今はもう、ロビンはこうして、くつろいで眠っている。さすがにここは、いつ何があるかは判らないグランドラインの海だから、可愛らしいパジャマを着て寝るような生活ではないけれども。今度どこかの島でゆっくり泊まれる時があったら、お揃いの物を買ったり、互いに選びあって、パジャマパーティにしてもいいなと思った。 ……いやでも、ロビンがそんな可愛い格好してたら、ついつい手を出して、結果的には脱がせちゃうから駄目かな? そんなことを真剣に考えながらも、ナミの手はてきぱきと動いている。 あっさりとロビンを全裸に剥いたが、それでもロビンは、ぐっすりと眠っているようだ。 とてもすごい。 ロビンが目を覚まさないことも、見事な体も、かわいい寝顔も、全部ものすごい。 「いただきます。」 ナミはそっと手をあわせて呟いた。ゾロが食事の時にする仕草。深い感謝の気持ちが自然とこういう仕草をとらせるものなのね、と、ナミは心の隅っこで感心しつつ、おいしいロビンをありがたくいただいたのだった。
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2010/04/01 |
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